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私を呼ぶ声④

前回までのお話→崎本は自分の母から聞いたこの踏切の「いわく」を話し始める。この踏切で以前、自殺した女がいるというのだが……。

 晴菜は今にも気を失いそうなほど顔を白くしている。でも耳はしっかりと向けているのが、怖がりの怖いもの見たさというやつなのだろう。今夜辺り、晴菜から通話が来るかもしれない。渚は頭の中でこっそり、夜のスケジュールに通話の時間を追加した。


「それもあってお祓いとか交換とか色々試したらしいんだけど、どれも効果無くて、行政も鉄道会社もそういうものだって諦めたって話なんだよ。で、開かずの踏切って呼ばれて1年くらい経った頃から、今度は事故が時々起こるようになって、その自殺した奴が引き込んでるんだって噂になってたんだ。幸い死んだ人はいないらしいけど、段々と怪我の度合いが酷くなってて、この前怪我した人は腕が無くなったとか。そんで、事故った人みんなが口を揃えて言うんだって。『これならイケると思った』って」


 今度は渚がゾッとする番だった。早口で捲し立てる崎本の話は真に迫っていた。なぜならまさに今朝、渚が閉まりそうになる踏切を前にして思ったことだったからだ。その話が本当なら、渚は腕が無くなるだけじゃ済まなかったということになる。まさか、そんなことが本当にあるのだろうか。お化けがこの世にいると言うのか。非科学的すぎる。


「渚が飛び込まなくて良かったぁぁぁぁ!」

「ちょ、晴菜!?」


 頭の中に入り込んだ不安をぶんぶんと追い出そうとしていると、顔面を涙でぐちゃぐちゃにした晴菜が渚に抱きついてきた。恐怖と不安と安堵で感情がバグってしまったのだろうか。中3にしてはあまりにも回りを憚らずに晴菜は泣きじゃくっている。

 渚の額にじんわりと汗が滲み、生温い風が背中に張り付いたシャツを撫でていく。渚の心に、なんとも言えない、嫌悪感のようなものが広がった。それが肌に張り付くシャツのせいなのか、もっと別の理由のせいなのか、渚にはわからなかった。


「ごめん。泣かせるつもりじゃなかったんだ……」


 崎本は困惑しきってオロオロとうつむいてしまった。確かにパッと見は女子を泣かせた男子に見えなくもない。思春期の男女は色々と面倒だ。これを学校の誰かが見たら、来週には噂になっているに違いない。


「大丈夫、わかってるから。晴菜落ち着いて? お化けなんていないって」

「でもでも、そのイケメンが声かけてくれなかったら渚は死んでたかもしれないんだよぉぉ?」

「確かにそうかもしれないけど、たまたまだって。第一、私そんな話知らなかったよ。通学路なのに。崎本君はなんで知ってるの?」

「母さんが野次馬根性たくましいってのもあるんだろうけど、なんでかその話はすぐにされなくなっちゃうらしくてさ。しかも事故るのはみんな若い女ばっかりだから、みんな気味悪がって話さないのかもって。母さんもなぜかこの話する時は声小さくしてたもん。家の中なのに。だから余計に気になったっていうか」

「なるほど?」

「それが急に開くようになるなんておかしいなと思ったんだ。だから宮路が言ってたその男がなんかしたんじゃないかって。最初は単純に、宮路が男の話するなんてって、つい声かけちまったんだけど……」


 本音がポロリと出たことに気づいていない、野次馬根性がしっかりと遺伝している崎本と、お化け話の真偽は置いておけても、確かにあの男なら何かしかねない。そういう雰囲気はあった。いつもは閉まると5分も10分も平気で閉まり続ける踏切が、朝も今もすんなり開いたのだ。二度とあいつに会いたくないと渚は思っていたが、もう一度会って問い詰めてやるのも悪くないかもしれない。

 相変わらず渚に抱きついて泣いている晴菜をなだめながら、誰かが熱中症になる前に帰宅しようということになった。今日はやけに太陽が肌を焼いて、痛いほどの気温だ。泣きまくった晴菜がいつ倒れてしまうかと、渚と崎本は不安になったのだ。

 しかし晴菜が踏切をもう一度渡ることを嫌がったので、かなり遠回りをする羽目になった。晴菜の家は踏切を渡り直して5分くらい戻った場所にある。仕方なく別の踏切まで歩いて、それからぐるりと戻ってくる頃には、崎本と晴菜は随分と打ち解けたように渚には見えた。晴菜が渚の手を強く握って離さなかったので、渚は仕方なく一緒に歩いていたが、それは怖いからだけじゃないんだろう。途中、渚は崎本に飲み物を奢らせた。勿論、晴菜の為にだ。大事な親友を泣かせたのだから。

 太陽に夕方の色が少しだけ混ざり始めた頃、ようやっと晴菜の家に到着した。折角だからと、崎本と連絡先を交換する。と言っても渚はおまけみたいなものだったのは言うまでもない。一応3人のグループルームは作ったが、使うことは滅多に無いだろう。今夜の勉強の時間をもう少し削っておいた方がいいかもしれないと、渚は頭の中のスケジュールを組み直した。

毎週月曜と金曜の22時頃、続きを更新予定です!

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