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私を呼ぶ声③

前回のお話→篠崎を追い払ってくれた崎本と共に、渚と晴菜は開かずの踏切の様子を見に行くことになる。

「ふーん。そんなことがあったんだ。それにしても渚が初対面の人にいきなり怒鳴るなんて、珍しいね~」


 3人で歩く通学路に、渚はなんだかぎこちなさを感じていた。それを気取られないように、今朝あったことをありのままに2人に話した。2人の間に挟まれているのも気まずい。額に噴き出す汗は夏の日差しのせいだけではないと、渚は話しながらこっそり苦笑していた。

 晴菜は、「氷の渚がねぇ」と半ば面白がりつつ、男の様子に興味津々といった様子だった。一方、崎本は何か深く考え込んでいる。男の様子を2、3聞いてきたっきり、何も話さなくなってしまった。晴菜は時折心配そうに崎本を覗き込むが、すぐに「男はどんな着物だったのか」とか、「どんな声だったのか」とか、とにかく細かく聞いてくる。挙げ句の果てには、


「イケメンでも大人じゃなぁ。渚はまだ中学生だし犯罪になっちゃう」


 とまで言い出す。渚は少し疲れを感じて、ため息をついた。晴菜には効果は今ひとつのようだ。


「イケメンかどうかは人によると思うけど、私のタイプじゃないから」

「えぇ!? そんなミステリアスで面白そうな人、同年代には絶対いないよ!」

「サラッと面白そうって。そっちが本音でしょ?」

「バレたか~」

「まったく。他人事だと思って」

「でもそれで今日ボーッとしてたんでしょ? それってやっぱり一目ぼ」

「一目惚れじゃありません!」

「えぇぇ」

「なぁ。その踏切ってここか?」


 突然の崎本の声に、渚と晴菜は口から出そうとしていた言葉を慌てて飲み込む。崎本の目線を追うと、確かに今朝の踏切まで来ていた。しかし不思議といつもの重い雰囲気は無くなっている。気のせいだろうかと考えながら、「うん」と渚が返事をすると、ちょうど踏切が音を立てて閉まりだした。


「開かずの踏切、真偽やいかに!」


 晴菜が力強く線路を指差した。

 崎本が神妙な顔で踏切を睨みつけている。晴菜は面白がって張り切っているし、渚は一歩引いたところから踏切を見つめている。傍から見たらなんてチグハグな3人組だろう。

 風が3人を通り過ぎ、目の前の景色が開けると同時に軽快に踏切が開いた。実に呆気なく、辺りには蝉の声が戻ってきた。開かずの踏切は、やはり解消されていた。


「普通に開いたね~」


 難なく踏切を渡り切ると、晴菜は周りをキョロキョロと見回し始める。しかし件の男はどこにも居らず、晴菜は肩を落としていた。こういうところは昔から本当に変わっていない。晴菜いわく、「好きな人とイケメンは別」なんだとか。

 この年頃の女子ならこれが普通なんだろうかと渚は悩みもしたが、恋だ愛だは未だにピンと来なかった。恋愛事よりも今は勉強の方が大事だし、本音を言うなら母に会いたい気持ちの方が大きかったからだ。

 お母さんなら今日のこと、なんて言って聞いてくれるのだろうと、渚は自分のつま先を見つめながら考えずにはいられなかった。


「あのさ、ちょっといい?」


 崎本がようやっと神妙にしていた顔を上げて、渚と晴菜に話しかけてきた。崎本の顔の横を一筋の汗が流れていく。


「勿論! むしろなんでそんなに黙ってるのかと気が気じゃなかったよ~。どうしたの? なんか知ってるの?」

「いや、知ってるって程でもないんだけど……」

「晴菜はがっつきすぎないの。で?」

「うん。ここの踏切、俺らが小5の時に急に開かずの踏切って呼ばれるようになったんだけど、原因はわかんなかったんだって。何度点検しても異常は無いし」

「そうなんだ。あたしこっちの道じゃないから知らなかった」

「私も。中学に入ってからこの道使うようになったから知らなかった」

「それでさ、俺の母さんいわく、これのせいじゃないかって」


 手を力無く前に持ってきて、お化けのポーズを取る崎本。本人は至って真面目な顔をしてやっているせいで渚は笑ってしまいそうになる。しかし隣の晴菜には効果てきめんだったようだ。


「嘘でしょ!? お化けとか怖いのホントに無理なんだけど!」


 半狂乱になるのが早い。私の後ろに隠れて顔を青くしている。崎本は申し訳なさそうに慌てて手を振ってお化けのポーズを解除した。


「ごめんって。秋野がホラー苦手ってわかってたからここまで黙ってたんだよ」

「え、なんであたしがホラー苦手って知ってるの? ちゃんと喋るの、今日が初めてだよね?」

「そ、それは……」


 ほほう。これはなかなかに面白い展開だ。渚の目が細くなる。


「前に2人がそんな話をしてんのが聞こえたからだよ!」

「あたしらの会話聞いてるの!?」

「お前の声はでかいんだよ!」


 なんとも微笑ましい会話に、渚は少しの間だけ空気に徹した。ギャーギャーと言い合っているところを割って入るのはキューピッド役として心苦しく思いつつも、頃合いを見て崎本に話の続きを促す。きっと渚の顔がニヤついていたのだろう。崎本は咳払いをして何かしらをごまかそうとした。


「なんでも、開かずの踏切って呼ばれるようになる2週間前に、あそこで飛び込み自殺した女がいるんだって」

「嘘でしょ信じられない……」

毎週月曜と金曜の22時頃、続きを更新予定です!

活動報告には質問箱を設置しておりますので、コメント欄にご質問やご感想やリクエストなど、お気軽にご活用ください。

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