宿命⑦
前回のお話→スオウは凛に、全て凛たちが仕組んだことなのではと問い詰めるも、凛はのらりくらりとかわしてしまう。
「……そうだ」
「なんで? だって、修行って生まれた時からするものでしょう? 私、もう中3だよ?」
「ここの人間にはそんなの関係無い。次の当主が決まったってんで、今頃嬉々として準備しているだろうな。わかっていたら連れて来なかったのに……」
「で、でも、お母さんにここに私を連れてくるように頼まれたんだよね?」
「あぁそうだ! 澪さんは力の無いあんたを守りたくてここに連れてくるように言ったんだ! でも実際はあんたは澪さんよりも……くそ! どうしたらいいんだ!」
いつも飄々としているスオウの様子から、ただ事ではないことが渚にもわかる。巫女として家を継ぐとか、自分が世界を救うととか、そういう気は渚には少しも無かった。お母さんと暮らせればそれでいい。その気持ちひとつでこの家に来たのだ。
スオウは頭を掻きむしって黙る。クロも、この空気にどうしたらよいのかわからなくなって俯いたきりだ。渚は、自分の意思とは関係無く進められるであろうこれからのことを考えると、不安というよりも苛立ちが強くなっていった。なぜ、私のことなのに私の気持ちを無視して大人がなんでも決めてしまうの? 私のことを今まで知りもしなかった人たちに、好き勝手されるのなんて冗談じゃない。今まで誰にも頼らずに努力してきたことを、巫女の後継者だからとかいう理由で、取り上げられたくない!
渚の腹の底に、血が巡っていくのがわかった。篠原たちにキレた時とは違う種類の怒りを感じて、渚は四辻御堂で見た夢をもう一度思い出す。凜たちに巫女様と呼ばれる女性は、渚から見れば髪と瞳が青いだけで、少し寂しそうな感じのする普通の女性だった。きっと、ここにいればまた夢で会える。それまでに、渚は知りたいと思った。彼女のこと、アヤカシのこと、巫女の力のこと。なんでもいいから知識が欲しい。
「そうだよ。まずは、知らなくちゃ」
渚は小さく呟いて、部屋に置かれた大きな本棚を見た。さっきざっと見た時に、良さそうな本があった気がしたのだ。
「何してる?」
スオウが怪訝そうに本棚に近づく。渚は本の背表紙を指でなぞりながら、目的の本を探す。どうやらこの本棚には四辻御堂にあったよう古い本も、たくさん入れられているようだ。
でもなぜ? 渚は指を止めて突然降って湧いた疑問に寒気を覚えた。なぜこの部屋を私に使わせるのだろう。他にもたくさん客室はあるだろうに、なぜわざわざこんな本がある部屋を? まるで……。
「まるでこうなることがわかっていたみたいだな」
スオウが軽蔑を隠しもせずに言い放つ。そう、まるで渚が次期当主に選ばれていたのを知っていたかのような本ばかりが本棚に並び、その部屋を渚の部屋と言って藤田は案内した。
アヤカシと人の歴史の本やアヤカシについて書かれた物、術の解説本に五行思想、占い、百科事典もある。壁一面に置かれた大きな本棚3個分にぎっしりとあらゆる分野の本が並べられている。
「ここにあるのは、全て澪さんが子供の頃に暗記させられた物だ」
「え!?」
渚は、考えただけでももう心を病みそうだった。子どもの時にこれを全て暗記させられるなんて、正気の沙汰ではない。
渚は気を取り直して目当ての本を探す。本棚の少し上の段にそれらはあった。『宮路家の歴史』と『修行教本・妖術について』だ。これを読めば少しはこの家のことや巫女の力のことがわかるはずと、渚はそれを手に取った。あとはどうやって過酷な修行をせずに済むかを考えないといけない。その為にはスオウにも協力してもらう必要がある。
「ねぇ、スオウ。私、修行は嫌だけど家のことや巫女の力のことは知りたいの。みんなお母さんを助けてくれる感じじゃなかったし」
「そうだな。みんな澪さんよりあんたの方が大事なようだ」
「うん……私はお母さんを助けたい。巫女様が、ここに来れば私の憂いが晴れるって言ったのだから、何かここに来なきゃいけない理由があったんだと思う」
「そいつはそうかもしれねぇが……」
「だから、勉強したいの。勉強は得意だから! でもあんな人たちの良いなりになるのは嫌! 誰も助けてくれないなら……私がお母さんを助けに行く」
渚は今までと同じだと自分に言い聞かせる。今までだって、誰にも頼らずに自分の力でなんとかしてきた。だから、頼れないなら、頼らなくてもいいようになればいい。渚は腕に抱えた2冊の本を、ギュッと強く抱く。
「あんた……なんていうか、あんたが氷の渚って呼ばれてる理由がなんとなくわかってきた」
「な! 聞いてたの⁉︎」
「あんたを見つけた時から、あんたの周りのことも含めて調べたからね」
「……サイテー」
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