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宿命⑥

前回までのお話→渚が水龍の巫女の正当な後継者になったと喜ぶ凜たち。しかしスオウは複雑な表情をして渚から顔を背けた。凜はそれには構わず、スオウのカバンに入っている物は何かと話を変えた。

 視線が一気にスオウに注がれる。スオウは不服そうな顔を上げてニヤリと笑うと、新幹線で渚に見せた壺を取り出した。小さな壺がテーブルにことりと置かれる。さっきとは違うどよめきが空間を満たし、よく通るスオウの声がその中を引き裂いていった。


「流石ご当主! やっぱりわかってやしたか。いやね、この依頼の主は一般の人間だったんですが、なぜかあっしのことを知ってやしてね。気になって調べたらここと繋がりのある祓い屋が、どうも口添えしたようで」


 どよめきがピタリと止む。さっきとは違う、ピリピリとした空気になった。渚は思わず体を縮こめる。


「あら、そうだったのかい。誰だろうねぇ。でもお陰でそのご依頼主の問題は解決したんだね」


 凜はさっきまでの優しいおばあちゃんの雰囲気とは打って変わって、相手を謀っているような、試すような視線でスオウを見た。


「勿論、依頼は果たしやした。それで、あっしに依頼するよう仕向けた人がこちらに来てるんじゃないかと思いやしてね」

「仕向けたなんて。貴方なら適任と思って口添えをしただけだろう」

「いやぁ。できすぎてるなぁと思ったんでさぁ。依頼の現場に行ったらたまたま渚さんがいて、たまたまあっしが助けて、たまたま渚さんが巫女様の夢を見ていたなんて」

「偶然だよ、偶然。私たちは今の今まで渚の存在を知らなかったんだから」


 そう言いきった凜が、スオウの目をじっと見る。もうこれ以上踏み込むなと、凜の目がスオウを押さえつけようとしているのが渚にもわかった。周りの音が遠くなるようなキンとした空気。

 ふいに、渚はテーブルの上の壺から何かを言いたげな念を感じた。悲しいような、恨めしいような、段々と心が寂しさでいっぱいになる感情に飲まれて、いつの間にか渚は涙を流していた。


「あらあら、色々重なって疲れただろう。今日はもうお開きにしようかね。ゆっくりお休み。部屋を用意してあるから」

「うん」

「スオウさんとクロちゃんは帰るかい?」

「いえ、渚さんのそばにいるように澪さんに頼まれてやすから、このまま残らせていただきやす」

「あら、お店はいいの?」

「問題ありやせんよ」


 凜はスオウとクロに帰ってほしそうだった。実際、凜は藤田を呼んで、2人の部屋を用意するように指示を出す。ここの人たちは腹の底が見えないと思うと、渚には篠崎が何倍も可愛く幼く見えた。それほどまでに、スオウと凜のやり取りは冷たかった。


「お部屋の準備が整いました」


 藤田が5分ほどで戻ってきて、渚は大きく息を吐いた。早くこの空間から出たかった渚は、藤田の後ろについて足早に大人たちの視線から逃げ出した。

 藤田を前、スオウとクロを後ろにして、渚は迷路のような廊下を歩く。渚に用意された部屋に着くと藤田は、「お2人のお部屋に案内しますね」と言ってスオウたちを引き連れて行こうとした。しかしスオウはそれを断って、渚の部屋の前に残った。藤田は少し怪訝そうにしたが、スオウに言われた通りに奥に下がる。藤田が見えなくなってから、スオウは渚に部屋に入るように促した。

 ドアを開けると、部屋は和室ではなく洋室だった。扉には桜の彫刻がされていて美しく、中もアンティークな家具がセンス良く配置されていた。ベッドも高級ホテルのようなふかふかとした寝心地で、窓からはよく手入れされた中庭も見える。


「なんで夢を見たことを言わなかった」


 部屋のあちこちを見るのに忙しかった渚に、スオウが冷たく聞く。クロが心配そうにスオウを見上げるが、スオウは構わず渚を見ている。


「だ、だって聞かれなかったし。というか私は、何も知らなかったんだもん!」

「はぁぁぁ……なんてこった。澪さんはこうなるとわかっていたんだろうか……」

「どういう意味?」

「あんたが次期当主に選ばれたってことは、あいつらはこれから澪さんがやった修行をあんたにさせようとするだろうな。暫く帰れないと思った方がいい」


 青天の霹靂とはまさにこのことだ。今まで普通の子どもとして生きてきたのに、突然修行をしろと言われても、はいそうですかと喜べる内容じゃないことを、渚は知っている。


「修行って、お母さんのお姉さんが……つまり私の伯母さんが自殺に追い込まれたほどの、あの修行?」


 沈黙が渚たちの間に横たわった。中庭で戯れている小鳥たちの声が殊更大きく聞こえてくる。渚の頬を、小さな汗が流れていった。

毎週月曜日と金曜日、20時頃に最新話を更新予定!

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