宿命③
前回までのお話→かつての開かずの踏切で何かあったのかを聞いた渚。話を聞き終わった渚は、乗っていた電車には誰もいないというのに、なぜか多くの視線を感じて、薄気味悪さに体を小さくして寝た振りをした。
新幹線を降りてからは電車とバスでの移動だった。窓から見える景色には背の高いビルもお洒落なガラス張りのお店も無く、代わりに空へ高々と手を伸ばす木々と、揺れる稲を抱えた広大な田んぼが広がっている。気づけばもうお昼の時間だ。
スオウとはあれからほとんど話さなかった。スオウが本気で寝てしまったというのもあるけれど、渚はなんとなく、声をかけにくかった。ここで降りるよとか、寝ないなら一本木って駅に着いたら起こしてとか、そんな簡単なやり取りだけ。
渚は寝た振りをしたものの、変に気持ちが昂って全く眠れなかった。まだ、心臓はドキドキしている。
バスの終着点まで乗って、そこからはまたしばらく歩いた。朝ご飯もお昼も食べ損ねているからか、渚の足が少し重い。スオウはそんなことお構いなしというようにスタスタと歩いていく。渚はフラフラとしながら、アヤカシはそういうところも人間とは違うんだろうかと考えていた。
「大丈夫か? 顔色が悪いな」
ようやっとスオウが渚を気にかけたのは、渚がゼェゼェと言わせながら登る山道の途中で、動けなくなってからだった。
「だって、朝から何も食べてないのに、こんな山道歩くなんて聞いてない……!」
「そうだった。人間はしっかり食わないと体調を崩すんだった。そういうことは先に言ってくれなきゃあ」
「だって、こんなに歩くとは、思わなかったんだもん」
肩で息をして、渚は道の途中で座り込む。体力には自信があると言っても、流石に辛い。
「もう少しで着くから。もうちょっと頑張れ。あとほんの5分程登ったところだから」
それを聞いて渚は心底安心した。あと30分も歩くと言われたら全力でスオウを殴っていたかもしれない。フラフラする足になんとか力を入れて立ち上がる。駅で買ったお茶を飲み干した。
これで歓迎されなかったらどうしようと、渚は一抹の不安を抱えながらも歩き続ける。ようやっと建物が見えた時、想像していた家よりも立派な、とてつもなく大きなお屋敷が目の前に現れて、渚は安心と同時に焦りも覚えた。あちらこちらに木で作られた龍のレリーフが施されていて、その美しさに思わず見惚れる。
「ごめんくだせぇ。遣いを送った者でさぁ」
スオウが例の口調で門に向かって声をかける。ガシャガシャンと金属音がして、重々しく音を立てて門が開いた。門の向こうにいた完全な人型になったクロと、渚の目が合う。その隣には着物姿の女性が立っていた。歳は取っていそうだけれど、しゃんとした立ち姿には生気がみなぎり、力強い目には迫力が籠もっていた。思わず渚の背中も伸びる。
「久しぶりねスオウさん。その喋り方ですぐにわかりましたよ」
「藤田さんも、お元気そうで」
「お陰様でね。そして、貴女が澪様の娘さんの渚様ですね」
「は、はい! 宮路渚です。よろしくお願いします!」
「私は大奥様のお世話係の藤田です。遠くからよくお越しくださいました。皆様お待ちですよ。さぁこちらへ」
「はい……失礼します」
渚はその仰々しい雰囲気に居心地の悪さ感じて、スオウに先に行ってもらおうとチラリと隣を見たが、スオウは渚が先に行くようにと手で促した。仕方なし、渚は藤田さんの後を迷子の子どものように、心細い気持ちで着いていくしかなかった。
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