宿命①
前回までのお話→クロがスオウに弟子入りした訳を聞いた渚。自身も母を救う為、祖母の家に行くことを決意する。
渚の父は一度寝付くとちょっとやそっとのことじゃ起きない。案の定、渚が外に出たことにも気づかずに寝ているし、古い家の扉が音を立てて渚の隠密行動を邪魔しても、父が自室から顔を出すことはなかった。
渚は静かに自分の部屋に行き、必要と思う物を適当にリュックに詰める。とりあえず携帯と充電器、タオルと1回分の着替え、大好きなグミ1袋、筆記用具、お財布、あとは……
「よし」
リュックはパンパンになってしまったが、とりあえず準備はできた。渚は置き手紙をリビングの机に置いて、またそっと玄関を開ける。勿論扉は、行かないでと腕を引っ張るように音を立てる。渚は幼い子をなだめるように自分を励まして、四辻御堂へと走った。
正直、学校を休まなくてはならないのは渚にとってはつらいことだった。中学生になってから1度も休んだことが無く、遅刻だってしたことがない。内心、冷や汗ものだった。そんなに何日もはかからないだろうと自分に言い聞かせる。
「はぁ、はぁ……ふぅぅ。間に合った」
「おやおや、そんなに走ることはなかったのに」
スオウは、からかいじみた言い方をして渚を出迎えた。傍らにはクロもいる。
「師匠、それでは行って参ります!」
「あぁ、頼んだよ」
それからクロは、ポンと音を立ててツバメの姿に変わった。目の周りの黒縁は残っているが、どこからどう見ても愛らしいツバメだった。
「す、すごい……」
「だから言っただろう? クロは凄い子なのさ」
「じゃあ人に変身してる時に尻尾があるのは?」
「あれは修行の一部。一部分だけを変化させたり、残したりって結構難しくてね。妖力のコントロールの修行になるのさ」
「へぇ」
渚には到底縁の無いことではあったが、スオウも真面目に師匠をしているということはよくわかった。のらりくらり適当そうなのに、意外と真面目だということは、この短時間でわかってきた。
「何か言ったか?」
「なんにも? さ、私たちも早く行こう!」
「そうだねぇ。そろそろ始発の電車も動くかな?」
「電車に乗って行くの?」
「そうさ、ここから結構あるからね」
「私……あんまりお金持ってないよ?」
「心配しなさんな。そのくらいの切符代はあっしが出すよ。一応、澪さんの娘さんは丁重に扱わないとだし?」
「一応って何よ」
「ははは」
2人は街灯の明かりを頼りに、夜明けを今か今かと待つ地上を歩く。こんな時間に外に出るなど、渚にとっては初めてのことで、すごく悪いことをしている気分だった。悪くない。この男に出会っていなければ絶対にやらないことだっただろう。でもこの男に出会わなければ、母の手がかりを知ることもなかった。まだ半信半疑だし、本当は上手いこと言って変な場所に拉致るんじゃないかとも思うが、もう後には退けない。
2人は別になんともないという様子で駅に行き、切符を買い、始発の電車に乗った。女子中学生と見た目大学生の男が一緒に始発の電車に乗ったら何か言われるんじゃないかと渚は心配したが、駅員は何も言わずに眠そうに通した。
各駅停車の電車に暫く乗り、新幹線に乗り換える頃には、朝日が眩しく1日の始まりを告げた。新幹線の座席に渚とスオウは並んで座る。渚は窓側の席に座らせてもらった。あっという間に景色が後ろへ溶けていく。
「そういえば」
ようやっとひと心地着いた時、渚はあることを思い出した。雑談のつもりでスオウに話しかける。
「あんた、開かずの踏切で私と別れた後、あそこでなんかした?」
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