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こちらが四辻御堂です⑧

前回までのお話→渚の母には、厳しい修行の末行方不明になった姉がいた。慕っていた姉を失った渚の母は一族から姿をくらまし、そうして渚を守ることを選択したとスオウから聞いた渚は、過呼吸を起こしてしまう。

 渚は2人の会話を聞きながら、パニックになっている自分を遠くから見ていた。自分の呼吸音すら消え失せて、遙か昔に水龍を助けたという巫女の血が体に流れている音だけが大きくなる。

 渚の中の深い場所で、その巫女が微笑んだような気がした。ようやっとこちらに気づいたかと、その人の声が聞こえた瞬間、パニックになって震えていた体が静かになった。水面の波がピタリと止むように呼吸も整って、大きく息を吐くと同時に、渚の頭の中はすっきりとしていた。彼女の子孫であると、不思議とすんなり心が受け入れた。


「有難う。もう大丈夫」

「お、おう……治まったなら良かった。しかし油断は良くない、この薬を飲みなさい。体が温まる」

「うん……ありがと」


 薬は酷く苦かったが、不思議と不味くはなく、渚はすんなりとそれを飲み込む。するとじんわりと体が温かくなって、体の底から何かがこみ上げて来る。気づいた時には、渚は涙を止められなくなっていた。


「うっ……うぅ……ひっ……」

「そうだよなぁ……今まで普通の女の子として生きてきたんだ。ショックなのは無理もない」

「違う……私は全然……普通の女の子じゃなかった。お母さんもいないし、友達とも上手く話せないし……みんなに気を遣われてるの……ホントは辛くて……ホントはみんなみたいに……お母さんに甘えたり、喧嘩したり……家族で出かけたり……でもそんなこと言えなくて。気持ちを押し殺して……冷たいって言われても……でも……ホントは……お母さんに会いたくて……うわぁぁあぁ!!」


 小さな子供のように泣きじゃくる渚の背中を、スオウはとても優しく撫でた。クロの小さな手が渚の膝にそっと置かれる。その柔らかな手は温かくて、渚はクロを強く抱きしめ泣き続けた。


「し、師匠……」

「しばらくそうさせてやんなさい。きっとずっと我慢してきたんだろう。ホント、澪さんに似て強い子だ」


 渚は止まらない涙をどうすることもできず、クロの温もりを頼りにして、意識をその場に留めておくのに必死だった。

 しかししばらくすると、渚は四辻御堂とは別の場所に立っていた。


「あれ? ここは……」


 色とりどりの花や青々と茂った草。そして海と間違えるほど広大な湖が、キラキラと目の前に広がっている。波があれば海に来たと言われても信じてしまうだろう。白く丸い石が湖を取り囲むように敷き詰められている。どうやら石は湖の中まで続いているようだ。

 後ろに人の気配を感じて渚が振り返ると、青い長髪のよく似合う、儚げな女の人が立っていた。


「ようやっと、そなたを呼べたか」

「え? ここ、どこ? 私、死んじゃったの?」

「そうではない。ピンピンしておる。私がそなたの心をここに呼んだのだ」

「あなたが? 私を?」

「そうだ。本当はもっと早くにここに呼べていれば良かったんだが。そなたの心は隙が無くての」

「はぁ……」

「そなたの心の糸がようやっと緩んだのでな。こうして呼ぶことができた。ま、どうやらあまり時間は取れぬが」

「あの、あなたは?」

「私か? まぁ今はそんなことより、大事なことを伝える。時間も無い。手短に言うぞ」

「え、は、はい」

「そなたの母君、澪の体が、いや、命が危うい」

毎週月曜と金曜の22時頃、続きを更新予定です!

活動報告には質問箱を設置しておりますので、ご質問やご感想やリクエストなど、お気軽にご活用ください。

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