こちらが四辻御堂です⑦
前回のお話→再びアヤカシ界を襲った化狐族。渚の母は自分の命を賭けて化狐族と戦っていると、スオウが渚に話し始める。
「澪さんのご実家はそりゃあ立派なお屋敷でね。でも、澪さんは巫女を継がなかった」
スオウの話によると、本当なら渚の母である澪が当主としてお屋敷やスオウのようなアヤカシ族との繋がりを守る存在になっているはずだった。アヤカシ族にも、それは周知の未来で、当然そうなるはずだった。
しかし悲劇が起こった。澪には3つ上の姉がいて、その姉もとても優秀で優しい人だった。しかし澪が高校生の頃、厳しい修行のせいで心を病んで死んでしまった。
「そんな……」
「死んだと言っても、行方不明者扱いになってるけどな。でも病院を抜け出して、その枕元に『もう楽になりたい。探さないでください』って書いてある紙があったからねぇ……あっしらアヤカシ族も方々を探し回ったが、結局見つけることはできなかった」
「それじゃあ、お姉さんは……」
「澪さんもあっしらも、もう諦めてる。澪さんはお姉さんが大好きだったから、とてもショックを受けてね……」
そしてその後、澪が渚の父である康太と結婚すると決めた時、澪は宮路家との決別を選んだ。これから生まれてくる子に、辛い思いをさせたくないと言って。
宮路家では代々、女児が生まれれば強制的に修行させられるのが習わしだった。1人で歩けるようになったらすぐに。そこから守りたかったんだろうと、スオウは言った。大好きな姉を失えば、そうなるのも当然だと。
しかし宮路家も黙ってはいない。澪が家を継がないと言った時には揉めに揉めた。康太からの「名字を残す」という提案と、澪からの「何かあれば宮路家としての役目を果たし、子どもにも話す」という条件を提示して、当主や親族たちが緊張を少し緩めた瞬間に、澪は駆け落ちをして姿を消した。
宮路家の人間は方々を探したが、結局澪たちを見つけられなかった。名字が残っていればすぐに見つかると鷹を括っていた力のある親族たちも、手を尽くしたのに痕跡すら見つからない。それだけ、澪の術師としての力は大きかった。完全に、澪のことも、渚のことも隠してしまった。
「人が追い込まれるほどの修行を赤ちゃんのうちからなんて、おかしいもん……」
渚は混乱する頭のまま、ポツリと出てきた言葉を落とした。スオウも頷く。
「澪さんもそう言った。自分の子は普通の子として育てるって。どうせもう昔話のようなことは起きない、誰も信じてくれないってね。でも、こうして起こってしまった。澪さんは責任と覚悟を抱いて、あっしらのところに来てくれたんだ」
「そんな、だって、私……なんにも聞かされてない……」
「澪さん、きっと何があっても自分だけでなんとかするつもりだったんだろうな……墓まで持ってくつもりだったのかねぇ。駆け落ちして以来、あっしらアヤカシ族との交流も一切絶ってしまって、どこにいるのかもわからなくなってしまったから。本当にあの人は強くて、かっこいい人だ。全部、あんたの為にしたことだ」
スオウが話している間、渚には相槌すら打つ余裕も無かった。驚きと一緒に、よくわからない感情が渚の中に押し寄せる。体は小刻みに震えて、だんだんと頭がくらくらとしてくる。それと同時に周りの景色の色がスーッと消えた。
「いけない! 過呼吸だ! クロ!」
「はい!!」
「しっかりしなせぇ!」
「はぁ、はっ、はぁ……そのはなしかた……やめ、てって……」
「おい! しっかり息を吐くんだ! 落ち着け!」
「師匠! あの薬も持ってきますか?」
「あぁ頼む! それからお湯も!」
「すぐに!!」
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