こちらが四辻御堂です⑤
前回までのお話→クロが持ってきた巻物には、人間族とアヤカシ族が、太古には手を取り合って暮らしていたこと、しかし惨い戦いが起こり、両者はバラバラになってしまったことが描かれていた。
スオウが唇を噛んだ。渚には、スオウが何を考えているのかはわからない。その苦悶を浮かべた顔は、大きな力を持つアヤカシ族と、なんの力も無い今の人間族が仲良く暮らせると思うのかと、渚に問うているようだった。渚は、何も言えなくなった。
「妖力を持つ人間族の中には、アヤカシ族に着いていく者もいたそうだ。それに今までの平和な交流は嘘じゃない。だから、この戦いで力を使って活躍した人間を人間族の長、つまり今で言う神として、アヤカシ族と人間族の繋ぎ役を任せた。そしてそれぞれの頂点にいるのが……」
「この女の人と龍ってことね」
「そうだ。この龍は水龍で、主に水を操る力に長けていたそうだ。そして、人間を愛していた。人間族の中でも妖力の強かったこの女性が、水龍の傷を癒やしたことから交流が始まったという言い伝えもある」
「じゃあ今は別の場所で、たくさんのアヤカシ族が暮らしているの?」
「……いや、そう単純にはいかなかったんだ」
「なぜ?」
スオウがひと呼吸置く。何か、言葉を選んでいるような、そんな間だった。
「アヤカシ族は寿命が長い。だからこの絵巻のことは濃く語り継ぐことができているが、人間族の寿命は我らに比べて遥かに短い。
時代と共に語る人間がいなくなり、神として両者の繋ぎ役を担ってきた人間たちも地上からいなくなってしまった。だんだんと取り決められたそれぞれの境界線を守る人間が減り、我らアヤカシ族は住む場所がほとんど無い。力のある人間も減ってきているから、我々と交流できる者も、もうほとんどいない。
住む場所を無くしたアヤカシ族の中には、化けられる者は人間に紛れて、もしくはただの動物になって、人間族の中で暮らしている者も多い」
「そんな……じゃあスオウも?」
「あっしも人間に紛れて暮らす、化け狸の一族の末裔だ。クロも、数少ない現代っ子なんだよ」
はにかんだその笑顔が、言葉が無くともわかるほど、抱えきれないほどの寂しさを湛えていた。
渚はスオウから目が離せなくなった。そして、化け狸の中ではまだ幼いはずのクロのこれからの暮らしを考えると、胸の奥が握り潰されるような気持ちになった。
「仲間が減っていくって、やっぱり寂しいよね……」
「まぁね」
スオウがあまりにも素直に、寂しいという気持ちを認めて、渚は少し面食らった。人間ならこういう時、笑って誤魔化したり、強がったりしそうなものだと思ったからだ。
「でもあっしは先祖代々受け継いでいる家業が忙しいから、あんまり仲間たちと会うこともないな。人間の方がしょっちゅう会ってらぁ」
「家業?」
「そ。平和に暮らしている時に、妖力の高いアヤカシ族と手先の器用な人間族が協力して作ったたくさんの道具たちを、集めて回ってんのよ。戦いの後、人間族とアヤカシ族が別れた時に、一緒に世界中に散らばったんだ。力のある者が近代に作った物もある」
スオウが店をぐるりと見回す。そう言われてから置かれている物を見ると、確かにここにある物は普通じゃないのかもしれない。渚は、店に入った時のことを思い出して、鳥肌が立った。
スオウが近くにあった剣のような物を持って、「ほれ、持ってみるか?」と軽口を叩いた。渚はムッとしたのと気味が悪いのとで、「元に戻して」と断った。スオウはニヤニヤとして元の場所に丁寧に戻す。
「こいつぁ持ち主を自分で選ぶ魔剣だから、あんたじゃまず持つことすらできないだろうな」
「はいはい。ただの中学生に剣なんて要りません」
「そいつぁわからないね。でも、正しく使えない者、邪な思いの者が持つと危険だから、野良になったそういう物たちを回収してるのさ。そうしてできたのが、この『四辻御堂』なんだ。ここにある物はみんな本物ってこと。それぞれを正しく使える者が現れる時まで、ここで休んでいてもらってるんだ。
表向きは骨董品店だから、力のある者や訳ありさんなんかが、噂を聞きつけてやって来るけどね」
「な、なるほど」
心なしか、漂う空気に悲しみが紛れ込んだように渚には感じられた。ここにある物たちも、今の話を聞いていたのだろうか。早く正式な持ち主の元に帰りたいと、嘆いているのだろうか。
渚は物に対して、初めてそんな風に考えた。
「さ、ここからが本題なんだが」
スオウが巻物をさっと片付けた。それと同時に、クロが嬉しそうな顔で戻ってきた。クッキーがお皿の中で山になっている。口がちょっとだけモグモグしているのが、またさらに可愛らしい。
「おや、クロ。つまみ食いしてたな? 遅いと思ったら」
「ごめんなふぁいししょー」
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