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こちらが四辻御堂です④

前回までのお話→母がアヤカシ族の為に命を懸けていると聞いも信じられない渚。スオウと名乗った男が、順を追って説明すると言う。

「有難うクロ。そうだ。この前ちょっと高級そうなクッキーを頂いたんだ。棚の中に入れてあるから好きなだけ持っておいで」

「いいんですか⁉︎」

「少し長い話になるかもしれないからね」

「やったー!」


 あどけないリアクションをするクロが、実年齢は渚よりもずっと年上なことも、こんな時間にクッキーを食べることも、渚には到底信じられるものではなかった。それでも、クロが持ってきた紅茶はとても良い匂いがしている。さっきとは香りが違うということは、クッキーに合わせてブレンドしたということだろう。


「あんたもクッキー食べるだろ?」

「……うん」


 渚の胃腸は、その良い香りを嗅いで抵抗することをやめた。しかし脳がそれを、簡単には許さない。


「頂いたって言ったけど、まさかどっかから盗んだんじゃないでしょうね?」


 我ながらなんて幼稚なのだろうと思いながら、渚は精一杯の悪態をついた。


「失礼な。ちゃあんと好意でもらったもんですよぉ。あっしは人から感謝されることが多いんでね」

「うわぁ、胡散臭い」

「はっ! そのうちわかるさ。さて、まずはどこから話そうか。やっぱり人間族とアヤカシ族の話からかね」


 スオウはぬらりと立ち上がって、壁際の大きな作業台のような場所を片付け始めた。どれをどかす時も、「ごめんよ」、「ちょっと失礼」、「そんな顔しなさんな」などとブツブツと言っている。

 粗方スペースができると、クロが持ってきた大きな巻物の、最初の部分を広げた。ただの古い巻物に見えたその中から、鮮やかな色で描かれた美しい絵が露わになる。少し埃っぽい臭いがした。


「さ、これが人間族とアヤカシ族の昔の姿だ」


 色んな姿の生き物と人間とが仲良さげに生活している様子が、所狭しと描かれていた。井戸端会議をしているような姿や喧嘩している姿、農作業に励む姿、子守りをしている姿、子供らが遊んでいる姿、人とアヤカシのハーフのような子どももいる。

 人とアヤカシが化け比べをしている様子まで、綿密に描かれたその絵は、どこを切り取っても価値のあるものだということが、中学生の渚にもわかった。


「信じられない……」

「ホント、夢物語だよ。歴史から消えた、本当の最初の世界ってやつさ。もっと巻物を広げてごらん」


 スオウが急に優しい声を出したことに、渚は内心ぞくりとしたが、促されるまま巻物を広げる。すると、龍のような姿をしたアヤカシや、現代では神様として伝えられているような姿の人間の絵が現れた。他にも、世界中の神話に出てくるような様々な生き物や人の絵がびっしりと描かれている。そして、やはり仲良さげだった。

 巻物を広げ続けると、突然大きな絵に変わった。青く美しい龍と、儚げな美しい女性が向き合って手を取り合い、周りに美しい光の装丁がされている。この絵だけ特別に描かれたみたいだった。


「これって……?」

「これは一番最初にアヤカシ族と人間族が友好関係を結んで、お互いの力をお互いの為に使う約束をした場面だ。今で言う和平条約みたいなものかな。

 このお陰で、アヤカシ族と人間族は争うこともなくお互いを受け入れて歩み寄り、親密に交流できるようになったんだ。それが今まで見てきた絵だな。異種族同士結ばれる者も居れば、人間族の子供たちは競い合って妖術を習い、アヤカシ族の子供たちは人間族から物作りを習った」


 しかし、この現代には、アヤカシ族などという種族は存在しない。渚はそれを素直にスオウに質問した。スオウは少しだけ目に憂いの色を浮かべて、小さく息を吐きながら答える。


「いつの時代も、その平和を独り占めしようとする者が生まれてしまう」


 スオウはそれだけ言うと、巻物の続きを見るように渚に促した。

 大きな絵の周りは平和で楽しそうな様子だったのに、その先は術や武器を手に持ち、争う絵になった。落差が激しすぎて、文字は無いのに、描いた人の悲しみや恐怖が伝わってくる。

 絵の中には、仲良く遊んでいた子供たちが引き裂かれる描写もあった。渚は自分に置き換えてその様子を想像して、絵の続きを見る気持ちになれなくなった。


「なんでこんなことに……」

「アヤカシ族の化け狐どもがけしかけたのさ。人の心を見抜くのが上手いあいつらは、ネガティブな欲望を抱え込んでいる人間たちを扇動して、自分たちにとって都合の良い世界に作り替えようとしたんだ。そういう人間は並のアヤカシ族でも太刀打ちできないほどの妖力を発現させることが多いから、かなり惨い戦いになったらしい」

「そんな……酷い……」

「人間の心ってのは、それだけ力を秘めてるってことさ。さ、その先が大事なんだ」


 渚は重い気持ちで巻物を広げる。するとさっき出てきた神話の中の生き物や人たちが、一斉に前に立って反撃している様子に変わった。後ろの方では、龍と手を取り合っていた女性が光の中に居て、首には勾玉のような物を下げている。さっきの龍も、女性の後ろにいた。まるで女性を守るように。


「この後、この巫女様が龍の力で争いを鎮めてくださった。争いを扇動した化け狐の一族は遠い地に追放された。そしてこの争いで多くの同族の血が流れたことを悲しんだアヤカシ族は、人間族と袂を分かった」

「え、どうして⁉︎ 平和になったのなら」

「自分たちの力がまた争いの元になることを恐れたからだ」

毎週月曜と金曜の22時頃、続きを更新予定です!

活動報告には質問箱を設置しておりますので、ご質問やご感想やリクエストなど、お気軽にご活用ください。

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