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【完結済】ラジオの裏側で  作者: ユズ(『ラジ裏』修正版・順次更新中)
第1章:ラジオの裏側で

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8/40

6゜

少し短めです…


(2026/03/25 修正版差し替え)

あれから……。

運がいいのか、先輩とは顔を合わせずに済んでいる。

どこかほっとしている自分に、なんとなくモヤっとするけど。

でも、実際問題、顔を合わせても、固まって挨拶すらまともにできないと思う。


それに、なんとなく仕事が手につかないのかと思ったけど、いつも以上に順調だ。

あまりにも真面目に仕事をしているからか、今井さんには「どうしたの?」と心配されてしまうほど。


俺って、普段、仕事してないように見えてるのか?

まぁ、心当たりがないわけでもない……か。


でも、人間って生存本能だっけ?

嫌なことは考えないようになってるって聞いたことある気がする。

だから違う方へ意識が向いてるのかも。

今回は、考えるより仕事しろってことだな。たぶん。


そんな時だった。

ポンと目の前に資料が置かれた。


「西條くん、当日来てくれたリスナーさんへの対応お願いね。あと、制作さんと一緒にゲスト対応もしてもらうから」


ゲスト対応はともかく、リスナー対応?

とりあえずパラパラと捲る。


「リスナーさんへの対応って、ここに書いてあるアンケートのことですか?」


今井はよく分かったわねといった感じでびっくりしてるが、それぐらいは見れば分かるし。


「そう、今回は会場でアンケートを実施して、回答をしてくれた人にはオリジナルグッズが当たる抽選に参加してもらうのね。それで、編成からも人を出せるなら……って言われて」


「会場でリクエストも募集しますよね。そっちは誰が?」


「基本は制作さんで対応してもらうけど、回らなくなったらそっちへ行ってもらうかも。アンケートの方は営業が担当するってことだから」


話を聞きながらさらに資料を捲っていく。


ステージプランやポスターデザインのページに目が留まった。

資料で見るだけでも今回は大規模だっていうことが分かる。


「気合い入ってますね」


思わず声に出た言葉に、今井さんが小さく笑った。


「どうやら今回は営業かなりが頑張ったみたいね。会場だけでなく、予算の面でも。あのショッピングモールでイベントが出来るって決まった時は大騒ぎだったそうよ」


あ〜。なんか……簡単に目に浮かぶ。

どうせ、決まった段階で遅くまで飲みに行ったんだろうな。


「そうなんですね。じゃあ、俺たちも気合い入れてやらないと」


「そうね。期待してるわよ」


そう言って胸の前で両手を握り拳にして気合いを入れている今井さんを見て、思わず笑ってしまった。




番組後のスタジオで、俺の向かいに座ってるのはディレクターの瀬田瑞樹だ。

当日の公開生放送の担当ディレクターでもあり、俺の飲み友達でもある。


公開生放送が数日後に迫ってきて、今日は最終打ち合わせだ。


瀬田とは好きな音楽ジャンルが被ってたからすぐに意気投合したんだよな。歳も同じだし。

ただ、18歳からADをやってそのまま就職している分、業界歴は俺より長いけど。


「当日の現場は何人行くんだ?」


「Dは俺一人でAD二人が最大かな。受けもDとADが一人ずつ必要だから」


瀬田が眉間に皺を寄せながら溜息を吐いた。


「それで回るか?」


「これ以上は無理だからなんとか回すしかないだろ。当日どれだけ人が来るかにもよるけど、最悪リクエストは手が空いてる時だけになるかもな。事前に楽曲は全て埋めていくからなんとかなるでしょ」


打ち合わせをしていると、スタジオに先輩と番組ミキサーの伊藤沙希が入ってきた。


「横川さんお疲れ様です。沙希ちゃんも一緒ってことは、さっき音飛びしたCDデッキか」


「番組後に再現しなかったので大丈夫かなと思ったんですけど、下に行って横川さんに話したら先日も音飛びしたからって言われて。だから検証しに来たんです」


「もし修理に出した方がよければ入れ替えないといけないしな」


瀬田が音飛びしたCDを先輩に渡し、先輩はCDの盤面に傷がないかを確認している。


「もしかしたらピックアップの問題かもしれないから、駆動時間も確認してメーカー送りかな」


三人が問題のCDデッキを前に話しているのを、少し離れた場所から見ていた。


途中、先輩がこっちをチラッと見てきたけど、なんか気まずくて……。思わず目を逸らしちゃったけど、まさかここまで動揺するなんてな。


「……西条。西條、聞いてるか?」


瀬田に肩を揺すられハッとして顔を上げた。いつの間にかこっちに戻ってきていた。


「ごめん、ちょっとぼーっとしてた」


俺、まだ動揺してる?

上手く状況が把握できない。


「今日はこれ以上打ち合わせすることも無いし、とりあえず解散で。もし変更点があったら一斉メール送って」


瀬田が呆れたような顔をして、もう終わりとでも言うように片付けを始めた。



スタジオを出る時に、視界の端に先輩と沙希ちゃんが目に入った。


仲良さそうに見える姿に、やっぱり男の俺なんかよりも女の子の方がいいんだろうな……と思ってしまう。


仕事で話をしているだけなのにな。


そんなこと分かってるはずなのに、どんどん気分が沈んでいく。


一刻も早くスタジオから離れたいって思うのに、足が動いてくれない。


……もう無理かも。


気づけばその場にしゃがみ込んでいた。


「西條、どうした」


「大丈夫、ちょっと立ちくらみがしただけ。すぐに治るから」


慌てて瀬田が駆け寄ってくるけど、今は顔を見られたくない。それに、理由なんて言えるわけもない。なんとか誤魔化してスタジオから出ようと思ったその時……


「西條、大丈夫か?」


先輩に顔を覗き込まれ、思わず俯いてしまった。

瀬田以上に顔を見られたくないし、先輩が目の前にいるってだけで心臓がバクバクとうるさい。


上から溜息が落ちてきて、空気が揺れた。


「あまりにも体調が悪かったら、早退するか仮眠室で横になれよ」


顔を上げた時にはもう、何事もなかったかのように作業をしていた。


なんであんな平然と俺の心配なんかできるんだよ…。


胸が締め付けられるのと同時に、今度はイライラしてきた。

仕事したくない。


瀬田に「体調が悪いから仮眠室で少し横になる」と今井さんに伝言をたのんで、スタジオを飛び出した。


冷静になりたくて仮眠室に来たけど、ベッドにゴロンと転がるとすぐに睡魔が……。ここ最近、考えすぎて寝不足だったしな。

慌ててアラームをかけ、スマホを手放した。



「ふぁ〜。よく寝た」


伸びをして起きると、もうすぐアラームが鳴るところだった。30分ぐらいしか寝てないのに、頭も体もスッキリ。


こうなると、なんでさっきまであんなに落ち込んでたのかが不思議になってくる。


「やっぱり、睡眠は大事ってことだな」


とりあえず今日は、仕事が終わったら美味しいもの食べて寝よっと。

そう決めて仕事に戻った。

音源など最近はだいぶデータにはなってきましたが、いまだにCDも多用されています。

あるメーカーさんのデッキは音源の読み取り時にエラーがあると盤面に傷がなくても音飛びするという…


でもCDのジャケットを見るのは楽しいのでなくなって欲しくないですね。

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