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【完結済】ラジオの裏側で  作者: ユズ(『ラジ裏』修正版・順次更新中)
第1章:ラジオの裏側で

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7/40

5゜

また西條視点に戻ります。


(2026/02/19 修正版差し替え)

あれから、久保さんにされたことは忘れようと思った。事故だったんだよ。そう、そうだよ、あれは事故だ。

毎日顔を合わせる相手でもないしな。気にしたら負けだ。


それよりも、同じ局内にいるはずの先輩にも会えない日が続いた。

何か会う口実は…と考えるけど、簡単に思い浮かぶならとっくに実行してる。技術部フロアは一階下に降りるだけなのに……こんなにも先輩が遠いなんて。


この前メッセージで『泥酔した時のことを会って謝りたい』って送ったけど、返ってきたのは『大丈夫だから』って。

もう終わったことにされると、これ以上は嫌われるだけだよな。


「詰んだ…のか?」


元々、ネガティブに考えるタイプじゃなかったはずなんだけど。でも、自分の口から出た言葉に、心がずしっと重くなった。



良い考えが浮かばないまま、一日、また一日と終わっていく。

でも、チャンスは突然訪れた。


出社してすぐに編成部長に呼ばれ、デスクに向かうと。


「西條、明日なんだが、今井の代わりに来月の公開生放送の現場の下見に行ってこい」


今井さんの代わり?どういうことだ?

それよりも…。


「私が行っても、大丈夫ですか?」


「勉強になるだろう。見てこないといけないポイントは樋口に聞いて教えてもらえ」


今井さんが行けない理由を聞こうとした瞬間、タイミングが良いのか悪いのか、部長の机の上にある内線が鳴った。

結局、話はそこで終わりになった。


樋口さんの話によると、どうやらインフルエンザにかかって数日は出社できないらしい。

でも、先方の担当者に日程の変更は難しいと言われたとか。

まぁ、そうなると、今井さんの下についてる俺が行くのが妥当だろうな。


下見には技術部から先輩が行くということを聞いていた。今回は今井さんには悪いが、インフルエンザにかかってくれてありがとうと心の中でお礼を言った。




社用車のある地下駐車場に行くと、すでに先輩がいた。


「やっと来たか。当日の現場ミキサーは久保で、今日の下見は現地集合だから」


先輩は必要事項だけを口にすると、すぐに車に乗り込んだ。

やっと話ができると思ったのにな。期待していた分だけがっかり感が……。


横顔をチラッと見るけど、運転に集中していて会話ができる雰囲気じゃない。


そうなると、自然と考えは久保さんのことに。正直、会いたくはないけど仕事だからな。さすがに他の人がいる前では何も仕掛けてこないとは思うけど。


いや、久保さんだぞ。

まぁ、その辺りは大人だと信じよう。




「…あの…」


「なんだ?」


「なんでもないです」


車内の張り詰めた空気に耐えられなくなって声をかけたが、先輩の声がいつもより冷たい気がした。横顔からは、いまいち何を考えているのか分からない。


せっかく先輩と二人きり、しかも車内という誰にも邪魔をされない時間なのに。


それでも何度か話しかけようと口を開きかけたけど、そのまま口を閉じる……の繰り返し。

気づけば、大きな溜息を吐いていた。




結局、何も話せないまま現場のショッピングモールへ到着してしまった。


今回イベントを行うショッピングモールは、ショッピング以外にも楽しめる場所が多い。映画館や屋外遊戯施設、巨大フードコートに日帰り温泉まで揃っていて、一日ここで過ごせてしまうこの地区最大級の施設だ。

休日に限らず、平日でも多くの人が訪れるため、全国の施設利用者数ランキングでは必ず名前が上がる。


前々からここでイベントをしたいって希望を出していたらしい。でも、外部イベントで集客する必要がないからなのか、許可がなかなかおりなかったって。でも、今回は営業の粘り勝ちって部長が言ってたな。



横川と二人でイベントスペースに行くと、すでに担当の方が待っていた。


「遅くなってすみません。今回は3周年記念イベントのトップバッターをやらせていただけるとのことで、ありがとうございます」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


お互い、笑顔で挨拶をする。思っていたよりも好感触で、ほっと胸を撫で下ろした。


公開生放送を行うイベントスペースは、商業棟と映画館や日帰り温泉の入っている棟の連結部分にある。この施設の利用者がよく使う中央エントランスのすぐ目の前だ。人通りも多く注目度も高い。そのせいか、みんな気合いの入りようがいつもと違ってた。


俺もちゃんと仕事しないとな。樋口さんに教えてもらった事を頭の中で整理しながら、下見を始めた。


先に久保さんと先輩が技術面の確認をしていく。回線や電源をどこから引くのかといったことがメインみたいだ。

俺はバックヤードへ案内してもらい、控え室の確認やステージまでの距離などを順にチェックしていった。



とりあえず、下見が問題なく終わってホッとした。

あれだけ気にしていた久保さんはというと、全く接触してこなかった。ほんと、拍子抜けするほど。まぁ、よかったんだけどね。


問題はこの後だ…。

先輩と二人、また気まずい車内になるんだろうな。




やっぱり、帰りの車中もシーンと静まり返っていた。

このままだと、局へ着いてしまう。膝の上に置いた両手をギュッと握り締め、大きく息を吐く。


「先輩、少しだけでいいので、話をする時間をもらえませんか?」


「……」


運転している横顔を見るが、表情が一切変わらない。

やっぱりダメだったかとガックリ肩を落としたそのとき……


隣から大きな溜息が聞こえた。


「…わかった」





結局、あの後は話ができなくて、別の日にってことになった。

先輩の家で話したいって言ったら、最初は拒否されたけど、渋々首を縦に振ってくれた。

だって、誰かに聞かれたくなかったし、もし家に入れてくれるってなったら――。


少しだけでも、先輩に近づけるのかなって。勝手な期待だけど。



「お邪魔します」


先輩の家に上がり、後ろを付いていく。


リビングのソファーに座り、思わず部屋をきょろきょろと見渡す。モデルルームみたいに整理整頓されていて、あまり生活感がない。でも、なんか先輩っぽい部屋だなって思った。

この前は酔い潰れていたから、正直、考える余裕もなくて…。場所を把握するだけで精一杯だったんだよな。


目に入るのはL字型のソファーとガラスのローテーブル。それに壁掛けのテレビぐらいだ。


先輩はどこか別の部屋に入って行ったと思ったら、キッチンの方へ。


すぐに、何か持ってこっちへ移動してきた。



「ほら。飲みながらのほうが話しやすいだろ」


缶ビールを手渡してくれるけど、それを受け取ったものの、口をつける気にはならなかった。

なんとなく手持ち無沙汰から、指で缶を少しずつ回してしまう。


先輩の方を見ることもできなくて、視線は手元の缶ビールへ落ちたまま。


部屋には先輩もいるのに、物音ひとつしない。

緊張感で逃げ出したくなる。


でも、ようやくここまできたんだ。


大きく息を吸い、覚悟を決める。

手元で、パキッと乾いた音がした。


「この前は、本当にすみませんでした」


呼吸の音すら、自分のものしか聞こえない。

それに…沈黙が、ものすごく長く感じる。



「あのことはもう、大丈夫だと言っただろ」


先輩の答えに、何度も同じことを繰り返すな――と怒られているような、ピリッとした空気を感じた。

何も言わせてもらえない。そんな重苦しい空気がのしかかる。


また、手元でパキッと音がした。


「どうしても、直接会って謝りたかったんです…。それに」


「それに?」


「……」


先輩に謝りたいのは……確かに、そうなんだけど。

本当は、もっと聞きたいことがあった。


でも、これを聞くということは……。


ここにきて、まだ迷ってる。

視線を缶ビールに落としたまま、無意識に両手でぎゅっと握りしめていた。


心臓がバクバクと大きな音を立てているのが分かる。もしかしたら、先輩に気付かれているんじゃないかと思うぐらいに。

そんな自分を少しでも落ち着かせようと深呼吸をした。


一瞬、目を閉じ、顔を上げる。

そして……先輩をまっすぐ見つめる。


「先輩のことが、好きなんです。でも……。でも、久保さんに、俺には無理だって。どうしてですか」


遂に言っちゃった…。


後悔はないけど、まともに先輩の顔を見れない。

指先が、冷たく感じる。

でも、缶ビールのせいじゃない……はず。


「はぁ…」


少し距離を置くように、斜め前に座った先輩が大きな溜息を吐いた。

一瞬、耳元で聞こえた気がして、ハッとした。


「この前、お前は寝ぼけてたんだろうな。ベッドに寝かせた時に“先輩好き”って言ったんだよ。覚えてないだろ」


「え…」


先輩が言ったことが信じられなくて、思わず顔を上げた。


「俺は男女関係なく、誰とも付き合うつもりは無い。だから聞かなかったことにした。それだけだ」


思わず呼吸の仕方を忘れた気がした。

どこをどう理解したらいいのかも分からない。というか、頭が働かない。


何か言いたいはずなのに……口が動かない。

自分の周りから音が消えたように感じた。



「もう、気が済んだだろ」


確かに分かりやすく態度に出していたけど、まさか寝言で告白していたなんて。

あの日の自分を引っ叩いてやりたい…。


恐る恐る、先輩の顔を見る。

無表情で、何を考えているのかまったく分からない。

というか、今までにこんな先輩は見たことがない。


最近、先輩の態度が素っ気ないとは思ってたけど……。



ふと、先輩が立ち上がる気配がした。


ゴトッと何かが落ちる音がしたのと同時に、気づいたら先輩の腕を掴んでいた。


ここで諦めたら、もう話す機会はない気がしたから。


「待ってくださいっ。もう少しだけ…。もう少しだけ俺の話を聞いてください」


掴んでいた腕を振り解かれ、背を向けられる。

でも……。でも、言わないと。


「先輩のことは大学時代から好きだったんです。一旦は諦めたけど、でも局で再会して…。これはチャンスなんじゃないかって…」


「もういい。帰れ」


完全に拒絶されたって思った。

久保が書きやすいのでもう少し出したかったのですが、あんまり出しすぎてもと思って抑えました…。


そのせいなのか、本編が詰まると久保が主役の別の話を書いて…と現実逃避していました。


もし興味がありましたら後日UPする予定ですのでよろしくお願いします。

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