SB1
SBは全て優斗視点です。
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(2026/01/20 修正版差し替え)
仕事をしていたら、番組が終わって技術部に戻ってきた陸也がマスタールームへ顔を出した。
「お疲れさん、今日って定時に仕事終わるだろ? お前んち行ってもいい?」
スマホを触りながら向かいに座り、大きな欠伸をしている。
もう仕事をするつもりはないんだろうな。というか、終わるまでここで時間を潰す気だな…。
「いいけど、飲み物とつまみはお前持ちだからな」
仕事終わりでうちに来る時は必ず泊っていくんだから、まぁ、それぐらいは許されるだろう。
そう思って、返事をするんだけど……。
結局、いつも割り勘になるんだよな。
陸也とは家が隣同士で幼馴染だ。両親はずっと海外で仕事をしていたから、実質、陸也の両親が親みたいなものだった。
そのせいなのか、陸也の行動パターンや思考パターンは嫌というほど分かってる。
「それよりも、もう仕事は終わったのか?」
一応、聞いてみるものの、返ってきたのは生返事だった。
聞くだけ無駄か。
まさか、職場まで一緒とは思わなかったけど。
陸也の会社は音響会社で他局の仕事もしている。就職した時にラジオ局担当になるとは聞いていた。でも、配属先がうちの局って…腐れ縁を通り越して何か別の思惑を感じたよ。
『せっかく、大学は別だったのにな』って二人で大笑いしたんだっけ。
就職して、職場の近くに引っ越してからは『自分のマンションに帰るより近い』って泊まりにくるけど…。
陸也の住んでるマンションって、局を挟んで反対側になるだけで、距離はほとんど変わらないんだけどな。
「ちょっと話したいことがあってさ」
「ここで話すとまずいことか?」
「うーん、あんまり人には聞かれたくないかな…相手がね」
お前のことじゃないのか…ってつっこみそうになった。
相変わらず口調が軽い陸也のことだ。絶対に面倒な話題だろう。
さっきから、頬杖をついてずっとスマホを触っているし。
多分、何も考えてないな…。
途中、寄り道して、酒とつまみを買っていく。
いつもなら晩御飯を作るんだけど、今から陸也の相手をするんだ。なるべく体力は温存しておいた方がいいに決まってる。
マンションへ帰ると、陸也が真っ先にお風呂を溜めだした。
「まだ俺の使ってない着替えってあったっけ?」
「お前なぁ、毎回思うけど俺の彼女かよ…。」
「彼女が出来たら撤収するから大丈夫。彼女じゃなくて彼氏か」
俺が心の中で大きな溜息を吐いてることも知らず、マイペースな陸也は寝室のクローゼットを漁っている。すぐに目的のものは見つかったらしい。
「先に風呂入ってくる」
バスルームへ消えていった陸也の背中に溜息を吐いて、買ってきた酒を冷蔵庫に突っ込んだ。
でも、気を使わない相手って陸也ぐらいじゃないか?
なんだかんだ、陸也に振り回されるのを楽しんでるんだろうな。
風呂上がりにリビングを覗くと、BGMがわりにテレビがついていて、テーブルの上にはつまみが並んでいた。
とりあえず風呂上がりならビールかなって、冷蔵庫から缶ビールを一本取り出す。
ソファーにどさっと座って缶を開けた瞬間、「お疲れさん」と
陸也が缶ビールを持ち上げてきたので、軽く当ててから一口煽った。
喉を通るシュワっとした感覚と冷たさが気持ちいい。
床に直接座っている陸也は、完全に自分家って感じだ。
どこでも馴染めるっていうのは、羨ましくもあるんだよな…。
俺には出来ないことだから…。
「それで、さっきマスターで話してたことって誰のこと?」
「あ〜、あれな。西條だよ」
名前を聞いた瞬間の、一瞬、顰めた顔を陸也は見逃してくれなかった。
「最近のお前はすごく気を許してたからさ。でも、その顔、何かあったんだろ?」
ニヤッと笑ってる陸也の顔を見て、溜息が出た。
これは話すまで諦めないな。面白いことを見つけたって顔してる。
仕方なく、口を開く。
「年末にお前が気づいた事故未遂あっただろ?あれで
西條が凹んでたから、この前飲みに誘ったんだよ。大学の後輩だし、多少は目にかけてたからな」
そこまで言うと、缶ビールを飲み干し、次を取りに行く。
「他人に深く関わらないようにしてるお前にしては珍しいな。いつもだったら外面200%。透明な分厚い壁で自分を囲って、他人に踏み入らせる隙なんて作らせないのに」
「ひどい言いようだな」
「間違ってないだろ」
今日何度目かの溜息を吐きながら、新しい缶ビールを開ける。
「まぁな。で、その日は西條が泥酔して寝ちゃったんだよ。だから仕方なくうちに連れてきたんだけど、その時に…」
「あいつから告白でもされたか?」
まるで見ていたかのように陸也が言うもんだから、かなり苦い顔をしてしまった。
「あははっ。うける。マジで面白いことになってるし」
「別にちゃんと告白されたわけじゃないぞ。寝言で言われただけだ。まぁ、本心だろうけどな」
陸也がテーブルをバンバン叩きながら笑っているが、ツボに入ったのか、お腹を抱えて床にゴロンと寝っ転がっても笑っていた。
「それでどうすんの?」
「どうするって言われても、他人と深く関わるなんて面倒なことしたく無いから。取り敢えず距離を取って、知らないフリかな」
「…そっか。まぁ仕方ないな」
陸也は少し寂しそうな顔をしたが、それ以上は言わなかった。
いつも全てを分かってそうしてくれる陸也の優しさに、こいつが幼馴染で良かったと思う。
お互い、話しながらも酒は飲んでいて、テーブルの上には大量の空き缶が並んでいた。結構な量を買ってきたと思ったが、もうほとんど飲み干してるんじゃないか?
そんな、いい感じに酒が入った時だった。陸也がニヤッと笑った。
「そういや、西條といえば…」
思い出したからには話したくてしょうがないといった顔をしている。陸也のことだ。どうせしょうもない話なんだろうなと思いつつも、目線で先を促した。
「この前西條に“優斗のこと好きだろ”って言ったら、なんで分かったのかって凄く焦った顔をして面白かったぞ」
「あのな…あんまりおもちゃにしてやるなよ」
やっぱりロクでもない話だったか…。
一応釘を刺すが無理だろうなと思い、心の中で西條に謝ろうと思ったその時……。
陸也がさらに爆弾発言をしてきた。
「で、昨日、俺のところに来て“どうして分かったんですか”ってうるさいから、編集室に連れ込んでキスして黙らせた」
「それ、セクハラだぞ」
どこかで聞いたようなセリフだけど…。
思わず頭を抱え込むと同時に、今日一番の大きな溜息が漏れた。
「だって、あいつ、優斗を追いかけてる時ってワンコみたいで可愛くって」
つい構っちゃうんだよなとか言いながら「俺にくれない?」とか言ってるあたり、ほんといい性格してる。
「優斗は西條みたいなタイプ苦手だろ?」
「苦手だな。相手の全てを欲しいと思うタイプは特に。俺は俺の心の中に踏み込んでこない相手がいい。西條は正反対の人間だ」
言動が予測不能で、こっちの都合を全く考えない。
思い出しただけで溜息が出る。
「俺は相手の心まで欲しくなるけどな。好きになったら大事にしてあげたいし」
「お前って見た目いい加減だけど、その辺りは真面目だよな」
「見た目いい加減ってなんだよ。でも、一夜限りの相手ってのもアリだけど」
結局なんでもありなんだなと思った。
陸也が大きな欠伸をしたので時計を確認すると、もう日付が変わっていた。
上半身がソファーにもたれかかって、今にも寝そうになってる陸也に「自分で布団ひいて寝ろよ」と声をかけてから机の上を片付け始めた。
*SB
ステーションブレイク(ステブレ)
番組と番組の間に流れるCMのこと。
西條視点から優斗視点に移るので何か変えたいなと思って思いついたのがSBでした。
CMやPT(Participating Announcement)といった単語も思いついたんですけどしっくりこなかったので。
どの単語もCMを指していることには代わりないんですけどね。




