4゜
今週分から毎週火曜日と金曜日の2回更新になります!
今回は少しだけ長めです。
R15で大丈夫なのかな…と…
(2026/01/14 修正版差し替え)
街中から正月飾りが消えたな…と気づいたのは、年があけて数日経った頃だった。
「春の海」も、これでもかっていうぐらい聴いていたけど、それも…。
「もう、完全に通常モードだな」
編成部はというと、いつの間にか年末年始の特別体制が終わって、通常業務に戻ってる。忙しかったのが嘘のようで、思わずあくびが出た。
そんな空気感のせいなのか?
年末に久保さんに言われたことなんてすっかり頭の中から消えていたんだよ。
でも、さっき先輩から『飲みに行かないか?』ってメールが来た途端、思い出しちゃったんだよな。
「久保さんに、どこで気付いたのか確かめないと」
年が明ける前までぐらいは覚えてたんだけど。
久保さんのことだ、いつ先輩に話すか分からない。なんせ、幼馴染だからな。
とりあえず口止めしておかないと、今はまだバレたらダメな気がする。
だけど、ほんと、どうして分かったんだ?
今までのことを振り返ると……確かに先輩のところによく顔を出していた自覚はある。
でも、それはあくまで「先輩として慕っている」…ように見えると思うんだけど。
でも、久保さんは「好きだろ」って断定してきた。
しかも、顔が見えなくても口調で分かる。明らかにドヤ顔してた!
近づくのは危険だけど、やっぱり確かめたほうがいいよな。うん、絶対にそう。
でも……。面倒くさい。机に突っ伏しながら溜息を吐いた。
局の近くにある居酒屋に急ぐ。
店について店員さんに先輩の名前を伝えると、奥の個室に案内された。
ほんとうなら、俺が先に来て待ちたかったな。待たせちゃって申し訳ない気持ちになる。
ほとんどが個室タイプのこの居酒屋は、静かに話がしたい時や打ち合わせなんかでよく使われる。
俺も打ち合わせで何回か使ったことあるし。
多分、この前の放送事故の話も出るだろうな。未遂だったけど。そんな話、大きな声するわけにもいかないから、個室なのは正直助かる。
「お疲れ様です、遅くなってしまってすみません」
引き戸を明け、謝罪の言葉を口にしながら先輩の向かいに座った。
「局を出る時にメールくれたから、飲み物は頼んでおいたよ。食べたいものは適当に頼んで。俺はなんでも食べるし」
笑顔でタブレットを渡してくれるだけなのに、それだけで顔が赤くなる。
そんな顔を見られたくなくて、すぐにタブレットへ視線を落とす。
ものの数分で飲み物が運ばれてきた。
「「お疲れ様」」
お互いグラスを軽くぶつけ、とりあえず今日の疲れを流し込むようにジョッキを傾ける。
「それで、どうだ?あれから復活したか?」
話を振る先輩は少し意地悪そうな顔をして、なんか楽しそうだ。
「いきなりその話題ですか? まぁ、一応は復活しましたけど……。いつまでも引き摺ってるとまたミスしますし。年も明けたんで気持ちを切り替えましたよ」
ちょっと不貞腐れながらも向かいを見ると、先輩は残念そうだった。
「なんだ、まだ引き摺ってたら優しく慰めてやろうと思ったのに」
「え?じゃあ、まだ引き摺ってるので優しく慰めてください」
即座に返すと、先輩は声を出して笑いながら「頑張ったな〜」って頭をクシャクシャっとしてきた。
なんかこそばゆい気持ちがして、つい冗談で誤魔化したくなる。
「先輩、それセクハラですよ」
「人の好意をなんだと思ってるんだか…」
先輩の呆れたような、でも優しい笑顔を見れて、心が軽くなった気がした。
こんな何気ないことでも嬉しくなる自分は単純だなとは思うけど。でも同時に、これが自分だけに向けられたらいいのにって思ってしまう。
やっぱり……好きなんだな、先輩のこと。
そんな自分の気持ちを確かめてると、ふと、久保さんに言われたことを思い出した。
『だっておまえ、優斗のこと好きだろ』
久保さんに確かめなくてはと思いながらも、今はせっかく先輩と飲んでるのだから…と厄介ごとは頭の片隅に追いやる。
その後は少しだけこの前の事故未遂の話もしたけど、ほとんど大学の頃の話だった。
お酒は好きなんだけど、就職して一人暮らしをするようになってからは飲まなくなった。一人で飲んでも楽しくないし。
誰かと笑いながら飲むなんて、いつぶりだろう。
だからなのか、気付いた時には……。
「…ここ、どこ?」
ぼんやりとした意識のなか、目に入ってくるのは見覚えのないものばかり。
頭がズキズキとして、ベッドの上だってことは分かるんだけど……。
重い体を起こし、改めて部屋を見渡すが……。
やっぱり知らない部屋だ。
それに、カーテンの隙間から差し込む光がかなり明るい。
「え?俺、どれだけ寝てたんだ?」
とりあえずベッドから出て、部屋を出る。
リビングのソファーの上に俺の鞄が置いてあるのが目に入った。
掴み上げると…何かがヒラヒラと床に落ちた。
これ…。
『西條へ
昨日は飲んでるうちに寝てしまったから、心配でうちに連れてきた。
飲み物は冷蔵庫の中に入ってるから好きに飲んで。
あと、部屋のドアはオートロックだからそのまま帰ってもらって構わないから』
「うわ〜。やっちゃった…」
さっきまで二日酔いで頭がズキズキしてたはずなのに、別の意味で頭痛くなってきた。
思わず頭を抱えてしゃがみ込む。
確かに、昨日は久しぶりに楽しいお酒で飲み過ぎた。もう少し押さえておくべきだったって、今頃反省しても遅い…よな。
とりあえず謝罪メールだけでも送らないと。慌ててスマホを取り出した。
最近全然先輩に会えない。
そう思っていたら、どうやら新聞社や警察など、局外にあるブースの機材メンテや会議などで社外の用事が立て込んでいたらしい。
この前のことを直接会って謝りたかったのにな。
思うようにいかなくて溜息が漏れる。
「何かあった?」
「いや、なんでもないですよ」
隣の席の今井が心配してくるぐらい溜息を連発していたのか、それとも仕事が全然進んでないことがバレたか。
こんな状態ではまたミスする予感しかしない。
“ぱちんっ”と両頬を軽く叩き、番組前の打ち合わせに参加するため、席を立った。
スタジオに顔を出し、ディレクターに来週の空いていたゲスト枠が埋まったことを伝えると睨まれてしまった。
急遽決まったゲストは営業物件だったから、まぁ、多少の文句はしょうがない。
営業物件は早めに原稿を上げて先方に確認、修正箇所があれば修正してまた確認…と面倒だからな。
大きな溜息が出た。
なんか…上手くいかないな。
番組が終わって編成部に戻ろうと歩いていたら…。
「久保さん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど。この後時間ありますよね?」
「…いいけど?」
気づいたら腕を掴んで、顔をグイッと近づけていた。
見つけた瞬間、問い詰めたい気持ちが先走ってたみたい。
俺の勢いに押されてあっけに取られた顔をしているけど、全く心当たりないって感じだ。
それに、久保さんは見つけた時に確実に捕まえないと。
いつも、探しても見つからない。
でも、こんな人の気配がする場所でする話でもないし…。
「ちょっとここでは…」
「じゃあ、編集室にでも行くか。あそこなら誰にも聞かれない」
そう言って先に歩き出した久保さんの後を慌てて追う。
久保さんがドアを開けると、編集室に向かって顎を動かした。どうやら先に入れってことらしい。
おとなしく従って先に入ると、後から入ってきた久保さんが防音扉のハンドルを回しロックをする。
外の音が完全に遮断され、機械の動く音しか聞こえない。
広さが二畳程しかない編集室は、その半分ほどが機材で埋まっている。
名前の通り、編集作業をするための部屋だ。だから作業さえできれば広さや快適さは必要ない。
男二人では狭く感じるけど、外に音が漏れないっていう点ではピッタリの場所だなと改めて思った。
そんなことを考えていたからか、何も言わない俺より先に久保さんの方が口を開く。
「さっき聞きたいことがあるって言ってたけど?わざわざこんな所で話すんだから、仕事以外のことだよな。もしかして……優斗のことか?」
腕を組んでドアにもたれ掛っている久保さんが、ニヤッと笑った。
なんか嫌な予感がする。久保さんと二人きりになるのはダメだったかも…。
そんな考えを消すように手をぎゅっと握りしめ、久保さんを睨みつける。
そうでもしないと今すぐにでも逃げ出してしまいそうだ。
編集室には緊張感のある空気が流れていた。
といっても、出口は久保さんに塞がれているし。話が終わるまでは出してもらえないだろう。
だったら一刻も早く聞きたいことを聞いて終わらせた方がいい。
この前のことを問い詰めたいのも事実だしな。
ゴクっと息をのみ、久保さんを睨みつける。
「年末に、俺に言ったこと、覚えてますか?」
「年末…?」
ぽかんとした顔をしてしばらく考えていたが、どうやら思い当たったらしい。
面白くてたまらないといった感じでニヤッとしている。
「それがどうかしたか?俺は西條が優斗のことを好きなんじゃないかと思ったんだけど。でも、こうやって問い詰めてくるってことは、やっぱり当たってたか」
「鎌をかけた……ってことですか」
爪が食い込むほど、さっきより力を込めて握りしめていた。
編集室の空気が、一段、重くなった気がする。
そんな俺に反して、久保さんは相変わらず、楽しそうに笑っているし。
「そんなつもりは無いけどな。見てればわかる。それに……。 西條に優斗は……無理だ」
「…どうしてですか?」
急に真面目な顔に戻った久保さんが、なぜそんなことを言うのかが分からなかった。
心意を聞きたくて口を開きかけたその時…
「そもそも、お前はどうして優斗がいいんだ? まぁ、優斗の外側しか見ていないから、なんだろうけど」
俺がどう思ってるかなんて分かるはずない。
目の前の久保さんを睨むと、さっきまでの真面目な顔が消え、ニヤッと笑うその顔に全身がゾワっとした。頭の中に逃げろっていう警告が聞こえた気がする。
忘れたことにしておけばよかったんだ。こんな逃げられない場所に誘い込まれて…。
後悔してももう遅い。
久保さんがじわっと距離を詰めて来る。それと同じだけ後ずさるが……。
心臓がバクバクとうるさい。
でも、これ以上は機材があって逃げられない。机と壁の隅に追いやられ、目の前に久保さんの顔が近づいてくる。
思わず固く目を閉じると、耳元で声が聞こえた。
「もう一度言うけど、お前に優斗は無理だ。代わりに、俺にしといたら?」
「え?」と思って目を開けた瞬間、キスされた。
唇に軽く触れるだけのキスだったけど、あまりに一瞬で何をされたのか理解できなかった。
でも、唇に残っていている感触が、確実にキスをされたんだって言ってる。
睨みつけ、文句を言おうと口を開いたとき……。
それを待っていたと言わんばかりに、また、久保さんにキスをされた。
今度はさっきみたいな軽いもの…ではない。
文句を言おうと口を開いたのがまずかった。いとも簡単に久保さんの舌が入り込んでくる。
舌が歯列をなぞり口の中を貪られたと思ったら、舌を絡め取られて強く吸われる。
あまりにも激しいキスに、飲み込めない唾液が口の端から垂れる。
「んっ…」
思わず漏れ出た自分の声にハッとして抵抗するけれど、久保さんに抱きしめられ、さらには頭の後ろにまで手を回されると逃げられない。
それでも体を捩って離れようとするけど、体格差があるから無駄な抵抗でしかない。
しばらくして満足したのか、久保さんが離れていくのを焦点の合わない目でぼーっと見ていた。
「この続きがしたかったらいつでも誘って。嫌がってるフリをしても体は正直だな」
耳元で囁かれるのと同時に下半身を触られ、一気に現実に引き戻された。
多分、ギュッと抱きしめていたから気づいたのだろうな。
久保さんは「ククッ」と楽しそうに笑いながら、ガチャっとドアを開けて編集室を出て行く。
外の音が聞こえた瞬間、解放されたんだって分かり身体中の力が抜けた。
それと同時に、扉が閉まった瞬間、腰が抜けたように崩れ落ちた。
どれぐらいここにいたんだろう。
さっき起こったことを考えられるだけの落ち着きが戻ってきた。
でも、“考えられる”のと“理解できる”のとでは全く違う。なんであんな事されないといけないのか全く心当たりがない。
「…くそッ」
イライラして握りしめた拳を壁に叩きつけた。
編集室って黙々と作業するのにほんと向いてるんですけど、こんな使い方しませんよ…もちろん。
防音扉って普通のドアと違って知らない方は開閉に戸惑いますよね。




