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ラジオの裏側で(完結済)  作者: ユズ
ラジオの裏側で
8/39

6゜

少し短めです…

あれから横川と顔を合わせることなく日々が過ぎていくことにホッとしている自分がいた。

顔を合わせたとしても挨拶すらまともにできないだろう。


もっと気持ちに引き摺られて仕事が疎かになるかと思ったが、あまりにも真面目に仕事をしているからか今井にどうしたの?と心配されてしまう始末。


表面上は卒なく仕事をこなせているのが不思議なぐらい。意識的に考えないように…というよりは仕事で誤魔化しているんだろうなと思う。


仕事の合間に少し考え事をしていたら隣の今井から声がかかった。


「西條くん、当日来てくれたリスナーさんへの対応と、制作さんと一緒にゲスト対応をしてもらうから」


そう言って来月の公開生放送の資料を渡された。

とりあえず後でちゃんと目を通すとして、今はパラパラと捲る程度に…と見ていたらこれのことかと思った。


「リスナーさんへの対応っていうと、ここに書いてあるアンケートですか?」


今井はよく分かったわねといった感じで頷いた。


「そう、今回は会場でアンケートを実施して回答をしてくれた人にオリジナルグッズが当たる抽選に参加してもらうから人手がいるんだよね」


「会場でリクエストも募集しますよね、そっちは誰が?」


「基本は制作さんで対応してもらうけど、回らなくなったらそっちへ行ってもらうかも。アンケートの方は営業の方でも人を出してくれるそうだから」


話を聞きながらさらに資料を見ると、ステージプランやポスターデザインのページに辿り着いた。

資料で見るだけでも今回はかなり気合が入ってるのが分かる。


「気合い入ってますね」


思わず声に出ていたのを今井が聞いて苦笑いした。


「どうやら今回は色々と営業かなりが頑張ったから。会場だけでなく予算の面でもね。あのショッピングモールでイベントが出来るって決まった時は大騒ぎだったみたい」


「そうなんですか。じゃあ俺たちも気合い入れてやらないと…ですね」


「そうね。期待してるわよ」


そう言って胸の前で両手を握り拳にして気合いを入れている今井を見て思わず笑顔になった。



公開生放送が近づいて来たある日、担当のディレクターと番組終わりのスタジオでそのまま打ち合わせをしていた。


当日はいつも西條がAPとして担当している番組のディレクターである瀬田瑞樹が現場に行くことになっていた。


瀬田は同じ歳で好きな音楽ジャンルが被っていた事からよく話すようになり、すぐに飲みに行く仲になった。

18歳の時からADのバイトをしていてそのまま就職したため業界歴は西條より長い。現在はディレクターとしていくつもの番組に関わっている。


「当日の現場は何人行くんだ?」


「Dは俺1人でAD2人が最大かな。受けもDとADが1人ずつ必要だから」


瀬田が眉間に皺を寄せながら溜息を吐いた。


「それで回るか?」


「これ以上は無理だからなんとか回すしかないだろ。当日どれだけ人が来るかにもよるけど、最悪リクエストは手が空いてる時だけになるかもな。事前に楽曲は全て埋めて行くからなんとかなるでしょ」


そう話していた時、スタジオに横川と先ほどまで番組ミキサーをしていた伊藤沙希が入ってきた。


「横川さんお疲れ様です。沙希ちゃんも一緒ってことはさっき音飛びしたCDデッキか」


「番組後に再現しなかったので大丈夫かなと思ったんですけど、下に行って横川さんに話したら先日も音飛びしたからって言われて検証しに来たんです」


「もし修理に出した方がよければ入れ替えないといけないしな」


瀬田は音飛びしたCDを横川に渡し、横川がCDの盤面に傷がないか確認していた。


「もしかしたらピックアップの問題かもしれないから駆動時間も確認してメーカー送りかな」


3人が問題のCDデッキを前に話していたのを少し離れた場所から見ていた。


途中、横川がこっちをチラッと見たが上手く平静を保てずあからさまに目を逸らしてしまった。まさかここまで動揺するとは自分でも思ってみなかった。

なので、瀬田に呼びかけられていた事も気付かず無視をしてしまっていた。


「西條、聞いてるか?」


瀬田に肩を揺すられハッとして顔を上げた。いつの間にかこっちに戻ってきていたらしい。


「ごめん、ちょっとぼーっとしてた」


「今日はこれ以上打ち合わせすることも無いしとりあえず解散で。もし変更点があったら一斉メール送って」


それだけ言うと瀬田は番組後の片付けを始めた。


スタジオを出ようとして横川と沙希が検証作業をしてるのが目に入った。

2人は仕事で話をしているだけなのにそれすらも仲睦まじく見えて、やっぱり男の俺なんかよりも女の子の方がいいんだろうな…と思ってしまう。


どんどん気分が落ちていき、早くスタジオから離れたいと思うのに足が思うように動かない。気づいた時には哀しくてその場にしゃがみ込んでいた。


「西條、どうした」


「大丈夫、ちょっと立ちくらみがしただけ。すぐに治るから」


慌てた様子で瀬田が駆け寄ってきて心配そうな顔をするが、本当の理由なんて言えるわけもなく誤魔化してスタジオから出ようと思ったその時だ。


「西條、本当に大丈夫か?」


横川も側に来て体調を確認するよう顔を覗き込んできた。西條は気まずさからまたしても目を逸らしてしまった。


「あまりにも体調が悪かったら早退するか仮眠室で横になれよ」


横川は溜息を吐きながら作業に戻っていった。


「なんであんな平然と俺の心配なんかできるんだよ…」胸が締め付けられるのと同時にイライラしてきてこのまま編成部に戻る気になれなかった。


瀬田に「体調が悪いから仮眠室で少し横になる」と今井に伝言してもらうことに。


1人になって冷静に考えたかったから流れで仮眠室に来たが、横になると眠くなってきたので慌ててスマホのアラームをかけた。

最近寝不足だったからか睡魔はすぐにやってきた。


「ふぁ〜。よく寝た」


伸びをして起きるとアラームが鳴る直前だった。寝た時間は30分にも満たない時間だったのにかなりの充足感だ。


さっきまでどうしてあんなに不安定だったんだろうって思うぐらい身体だけでなく心もスッキリしていた。やっぱり寝不足だと思考も落ちるんだな…。


とりあえず今日は仕事が終わったらなんか美味しいもの食って寝よっと。そう心に決めて仕事に戻った。

音源など最近はだいぶデータにはなってきましたが、いまだにCDも多用されています。

あるメーカーさんのデッキは音源の読み取り時にエラーがあると盤面に傷がなくても音飛びするという…


でもCDのジャケットを見るのは楽しいのでなくなって欲しくないですね。

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