SB1
SBは全て優斗視点です。
今週から火曜日も更新しています!
マスタールームで仕事をしていたら番組が終わって技術部に戻ってきた陸也が顔を出した。
「お疲れさん、マスター勤務って事は定時に仕事終わるだろ?今日お前んち行ってもいい?」
そう言いながら椅子に座り、もう仕事するつもりはないといった顔をしてるので終わるまでここで時間を潰すのだろう。
「いいけど、飲み物とつまみはお前持ちだからな」
いつも仕事終わりでうちに来る時は必ず泊っていくのだからそれぐらいは許されるだろうと思い、いつからかそう返事をするのが当たり前になっていた。
結局はいつも割り勘になるんだが…。
陸也とは家が隣同士で幼馴染だ。両親がずっと海外で仕事をしていて不在だったため、ほとんど陸也の両親に育てられたようなものだ。ある意味兄弟と言えるだろう。
小中高とずっと同じで大学は別々だったものの、就職してからも同じ職場になるとは腐れ縁を通り越して何か別の思惑を感じるほどだ。
まぁ職場が同じなのはたまたまだったが。
陸也の会社は音響会社で他局の仕事もしている。就職した時にラジオ局担当になるとは聞いていたが、配属先がうちの局だと聞いた時にはお互い大笑いしたのを覚えている。
就職を機に職場の近くに引っ越しをしてからは何かにつけ泊まりに来る。
陸也いわく、自分のマンションに帰るより近いからと言うのが主な理由らしい。
「ちょっと話したいことがあってさ」
「ここで話すとまずいってことか?」
「あんまり人には聞かれたくないかな…相手がね」
お前のことじゃないのか…というツッコミはしなかったが、なんとなく察するものがあったのでとりあえず今はスルーしておいた。
途中にあるスーパーに寄って酒とご飯がわりにもつまみにもなりそうな惣菜などを購入しマンションへ帰った。
部屋へ入るとすぐに陸也がお風呂を溜めだした。
「まだ俺の使ってない着替えってあったっけ?」
「お前なぁ、毎回思うけど俺の彼女かよ…。」
「彼女が出来たら撤収するから大丈夫。彼女じゃなくて彼氏か」
そう言いながら寝室のクローゼットを漁り目的のものを引っ張り出してきた。
「先に風呂入ってくる」
そう言ってバスルームへ消えていった陸也の背中に溜息を吐いて買ってきた酒を冷蔵庫に突っ込んだ。
俺が風呂から出てきた時にはBGMがわりにテレビがつけられ、リビングのテーブルの上にはつまみが並べらていた。
冷蔵庫から缶ビールを1本取り出してソファーに座ると床に直接座ってた陸也が「お疲れさん」と缶ビールを持ち上げてきたのでそれに返した。
「それでさっきマスターで話してたことの続きだけど、誰のこと?」
「最近のお前は西條にすごく気を許してるなと思って」
そのことか…と一瞬顰めた顔を陸也は見逃してくれなかった。
「何があったか言えよ」
面白いことを見つけたとばかりに追求してくる。こうなると話すまでは諦めてくれないのは嫌と言うほどわかってる。
諦めて溜息を吐くと…
「年末にお前が気づいた事故未遂あっただろ?あれで
西條が凹んでたからこの前飲みに誘ったんだよ。大学の後輩だってこともあって多少は目にかけてたからな」
そう言って缶ビールを飲み干し次を取りに行った。
「他人に深く関わらないようにしてるお前にしては珍しいなって思ってたんだよ。いつもだったら外面200%良くして、透明な分厚い壁で自分を囲って他人に踏み入らせる隙なんて作らせないのに」
「ひどい言いようだな」
「間違ってないだろ」
「まぁな。で、その日西條が泥酔して寝ちゃったから仕方なくうちに連れてきたんだけど、その時に…」
「あいつから告白でもされたか?」
陸也が見てたかのように言ってきたので、かなり苦い顔をしてしまった。
「あははっ。うける。マジで面白いことになってるし」
「別にちゃんと告白されたわけじゃないぞ。寝言で言われただけだ。まぁ本心だろうけどな」
陸也はテーブルをバンバン叩きながら笑っていたが、ツボに入ったのか床にゴロンと寝っ転がっても笑っていた。
「それでどうすんの?」
「どうするって言われても、他人と深く関わるなんて面倒なことしたく無いから、取り敢えず距離を取って他の人と同じ対応するかな」
「…そっか。まぁ仕方ないな」
陸也は少し寂しそうな顔をしたが、そう言って話を終わらせてくれた。
いつも全てを分かってそうしてくれる陸也の優しさにこいつが幼馴染で良かったと思う。
話の間にもお互い酒は飲んでいて、結構な量を買ってきたと思ったが、もう机の上に半分ほどの空き缶が並んでいる。
お互いいい感じに酔ってきた時に陸也がニヤッと笑った。
「そういや、西條といえば…」
思い出したからには話したくてしょうがないと言った顔をする陸也を見て、どうせしょうもない話なんだろうなと思いつつも目線で先を促した。
「この前西條に“優斗のこと好きだろ”って言ったらなんで分かったのかって凄く焦ったような顔をして面白かったぞ」
「あのな…あんまりおもちゃにしてやるなよ」
一応釘を刺すが無理だろうなと思い心の中で西條に謝ろうと思ったら、陸也がさらに爆弾発言をしてきた。
「で、昨日、俺のところに来て“どうして分かったんですか”ってうるさいから、編集室に連れ込んでキスして黙らせた」
優斗は思わず頭を抱え込んだ。
「それ、セクハラだぞ」
どこかで聞いたようなセリフを返すと
「あいつ、優斗を追いかけてる時ってワンコみたいで可愛くって」
つい構っちゃうんだよなとか言いながら「俺にくれない?」とか言ってるあたり、陸也もいい性格してるよなって思う。
「優斗は西條みたいなタイプ苦手だろ?」
「苦手だな。相手の全てを欲しいと思うタイプは特に。俺は俺の心の中まで踏み込んでこない相手がいい。西條は正反対の人間だ」
「俺は相手の心まで欲しくなるけどな。好きになったら大事にしてあげたいし。」
「お前って見た目いい加減だけど、その辺りは真面目だよな」
「見た目いい加減ってなんだよ。でも、一夜限りの相手ってのもアリだけど」
結局なんでもありなんだなと思った。
陸也が大きな欠伸をしたので時計を確認したらもう日付が変わっていた。
上半身ソファーにもたれかかって今にも寝そうになってる陸也に「自分で布団ひいて寝ろよ」と声をかけてから机の上を片付け始めた。
*SB
ステーションブレイク(ステブレ)
番組と番組の間に流れるCMのこと。
西條視点から優斗視点に移るので何か変えたいなと思って思いついたのがSBでした。
CMやPT(Participating Announcement)といった単語も思いついたんですけどしっくりこなかったので。
どの単語もCMを指していることには代わりないんですけどね。