猫を被った頭がキレる女〈プレスト視点〉
セイリーンが目覚めたという。ここのところ打ち合わせでルバートと過ごすことが多いオレはすぐにルバートからどんな様子かを聞きだした。
本当はすぐにでも確かめに行きたかったが、中身が違うと思うと怖い気がしてなかなか会いにいけなかったのだ。
ルバートが言うには、セイリーンは立ち上がろうとしてフラついたぐらいで体調には問題が無いらしい。いつもの調子で精神的にも安定しているようだ。
(セイリーンは一体どんな女なんだ?)
ルバートから聞くに、魔法に詳しい女だということと、ハッキリとした性格だと言うことくらいしか分からない。これは一度セイリーンに直接会って確かめてみた方が早いだろう。
確認していた報告書を机に置くと、セイリーンが滞在している部屋へと向かった。きっと今頃、ルバートと魔道具の話でもしているのだろう。ここ数日は聞き取り調査が終わるとすぐにルバートと新しい魔道具開発の話をしていると聞く。
「セイリーン様!一人でお着替えされて散歩に行かれるなんて......!せめてご一緒させて下さい!」
何やら声が聞こえる。セイリーンとメイドが揉めているようだ。オレが角を曲がると歩いて来た人物とぶつかった。ぶつかった人物は廊下に尻もちをついている。
「悪い。平気か?」
尻もちをついていたのはセイリーンだった。オレの胸がドクンと大きく脈打つ。オレが手を差し伸べると、素直に手をとってセイリーンは立ち上がった。オレの背の高さに少し驚いているようだ。
「失礼いたしました。プレスト殿下ですわね?初めまして。セイリーンと申します。もう既にご存じでしょうが。殿下のことは以前、パーティーでお見かけしたことがありますわ。お近くで見ると随分と背が高いのですね」
意外にも友好的だ。だが、やはりセイラじゃない。
「オレを知っていたのか。どこへ行こうとしていた?」
「気分転換にお庭を散歩しようと思っていまして」
「アンダンティーノとよく散歩しているのではなかったか?」
「たまには考え事しながら一人で気ままに歩きたいのですわ」
「へえ。考え事をしたいところ悪いが、オレも散歩に付き合おう」
「え?プレスト殿下が?ナゼ?」
「不満か?」
「別に......ご迷惑でなければ」
不意に出た言葉の端々からセイリーンがかしこまってオレと話しているのが分かる。どんな考えをする女なのかを知りたいオレは、いつも通りに話すように指示をする。
「改まって話すな。いつもの話し方でいい」
「......あら、ご兄弟そろって同じことを言うのね。ありがたいわ」
やっぱり。思った通りこの女は猫を被って話していたのだ。
手をとりエスコートしようとしたが、"堅苦しいのはやめましょう?”などと言う。確かに自由に歩ける方がラクだ。思ったことをダイレクトに伝えてくるあたり、相当気が強いらしい。
庭に出ると、後ろから付いてくるメイドや従者に少し距離をとって離れるように指示をした。
「戻って来てどうだ?あちらの世界はセイラから聞いていたが魔法が無いんだってな?」
「セイラと交流を持っていたのですよね?ええ、楽しかったわ。またすぐに行きたいぐらい」
「それほど魅力的な世界なのか」
「ええ。魔道具の開発が順調に進めばあちらの世界に行かずとも情報を共有することも可能になるわ」
「それはスゴイな。ところで、あちらの世界ではセイラとして過ごしていたのだろう?そのあたりはどうだったんだ?」
「こちらと同じように学校に通ったり、部活にも参加していたわ。あの子、吹奏楽部に入っていてバイオリンを担当したんだけど、なかなか楽譜が難しくて。バイオリンを嗜んでいたからどうにかなったけど。あとはセイラの弟とゲームで遊んだり......」
楽しそうに語るセイリーンはすっかりリラックスした様子で、王子であるオレとフランクに話している。なかなか度胸のある女だ。
「バイオリンを担当しているのか。セイラには弟がいるんだな?」
「セイラの弟は少々ナマイキだけど、対戦ゲームで負けると何度も勝負に挑んでくるのよね。たまに勝つとスゴイ大喜びして。殆ど毎日遊んでいたかも」
「対戦ゲーム?お前が戦うのか?」
「機械のゲームなの。何ていったらいいのかしら......いずれこちらでも開発したいわね。とりあえず、私はその操作が上手で彼を何度も打ち負かしてしまったのよ」
「そんなのがあるんだな。それにしてもお前は負けず嫌いなんだな。手加減してやらなかったのか?」
「私が手加減して負けたら彼はそこで満足してしまうでしょ?成長にはつながらないわ」
「まあ、分かるがな」
セイリーンはハッキリとした意思を持つ女だった。セイラとは違うがこうした強さは国を守る王妃としては適当かもしれないなと思った。
「ところで、アンダンティーノと今後の計画について話は進んでいるのか?」
「まだ、具体的には何も。私から質問しても?」
「なんだ?」
「セイラはどこまでこの計画に気づいていたの?両殿下とお兄様が知っているとなるとセイラが自分から転移してきたことを話したとしか思えないわ」
「詳細は今後のことに関わるからオレからは話せないな」
「ふうん?でも、彼女が話したのは間違いないでしょうね。おそらく世話役だったお兄様に話してルバートと連絡でもとろうとしたのでしょ?それに両殿下はセイラを追いまわしていたようじゃない?セイラ達の企みに気が付いたのはそのせいでしょ?」
驚いた。セイリーンは随分と頭がキレる。まだ、オレ達兄弟はセイラ達が隠している何かを掴む前ではあったが、大した推理だ。これからセイラの記憶を保持した秘密を納得させようとしているのに、上手くいくだろうかと不安になる。
なかなかセイリーンの説得は手ごわそうだと感じたのだった。
プレストはワザとセイリーンにぶつかるように調整して歩いていました。策略家です。
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