いよいよ術の発動開始
プレスト殿下の抱擁を受けた夜の数日後、いよいよ元の世界に戻るための次の段階に進むことになった。
王城の1室にお父様、両殿下、ルバート、スワロウ様が集まっている。
「セイラ、その後の調子はどうだ?」
「お父様、大丈夫です。お母様やオランジェ達は元気ですか?」
「ああ、心配ない。元気だよ。いよいよ元の世界に戻ることになるが心残りは無いか?」
「はい。今のうちに改めてお礼申し上げます。お父様、お母様と呼ばせて頂いてありがとうございました」
「......セイラを私の娘だと思っている」
「ありがとうございます」
そのやりとりを見ていた両殿下はうなずき合った。あのことを話すつもりだろうか。
「娘と思うならば、協力してもらいたいことがある。単刀直入に言うが、セイラの記憶を保持したい」
「アンダンティーノ殿下を中心に王を説得しているとは聞いていましたが、全ては王の決定次第です」
「セイラが記憶を持ったまま戻っても、こちらの世界の脅威になるリスクは低い。そもそもこちらの世界から干渉しなければあちらからは接触できないのだからな」
「......王は念のための心配をなさっているのです。国を守ることが王の責務なのです」
「お前は頭が固いな」
「プレスト殿下、私は王に使える臣下なのです。ですが......私が把握できていないことに関しては止めることはできませんな」
「父上......」
スワロウ様や両殿下の表情が明るくなる。ルバートはちょっと眉を上げて口の片方だけ上に上げている。これは喜んでいるのか?分かりづらいけど、喜んでくれているのだろう。彼は何だかんだ言って私に元の世界について聞いているうちに私に打ち解けてきていたみたいだし。
お父様が暗に協力してくれそうで、私もホッとして胸をなでおろした。後は、私の演技力にかかってくるわけだ。責任重大......。
「じゃあ、セイラはしっかりとお芝居の練習しておかないとね。ボクが指導しようか?」
「オレが指導してやる。調練で失神したヤツも見慣れているし、リアルに再現させる自信があるぞ」
「プレスト、失神じゃなくて催眠状態になった演技だよ」
「あんまり変わらないだろう」
「変わるだろ、お前はだまってろ」
「何だと!」
「まあまあ両殿下、術の発動は王族が責任を持って発動させるそうですから、記憶の抹消は魔法に長けたアンダンティーノ殿下が担当することになるでしょう。アンダンティーノ殿下が適任かもしれませんな」
お父様と王の間では、術の発動に向けた詳細がかなり詰められているようだ。
「オレも付き合うぞ」
その後、演技指導を諦めないプレスト殿下を加えた指導は過熱した。スワロウ様も私にお菓子や飲み物の差し入れをしてくれた。細やかな気遣いはスワロウ様ならでは。もうすぐこちらの世界を去ると思うと悲しくなった。
そしてついに、術の発動日を迎えた。王城の地下にある1室には限られたメンバーのみが集い、セイリーンの魂が入った魔道具も用意されていた。
魂が留められている魔道具を初めて見たが、ランタンのような入れ物に青い光が灯っている。魂って青いんだなーとまじまじと見ていると、ランタンの上部が赤く光っているのに気付いた。これは魂の状態が分かるメーターというやつだろうか。
「では、いよいよ術を発動させる。セイリーンと打ち合わせていた内容と資料から慎重に事を進めていく。良いか?」
「王の仰せのままに」
一同がかしこまると、アンダンティーノ殿下の魔法の呪文が展開される。アンダンティーノ殿下の事前説明では、見た目的には私を催眠状態にしたように見せやすくするように魔法で幻想的な空間をつくるらしい。
私は今、用意されていたベッドに横たわり、目を閉じた状態になっている。
「......そろそろセイラは催眠状態に入った頃だと思われる。これからいくつか質問をして確認する」
アンダンティーノ殿下の声が反響していつもより神秘的に聞こえる。いよいよ私はそれらしい演技をしなくてはならず緊張していた。
「キミは自分が誰だか分かるか?」
「.....私は聖来.....」
「ここがどこだか分かるか?」
「日本.....私は学生.....」
「何か思い出せることはあるか?」
「.....何も思い出せない.....早く家に戻りたい.....」
アンダンティーノ殿下のいくつかの質問が終わると、次の魔法呪文を唱える声が聞こえてきた。次の魔法は私が元の世界に戻る魔法呪文だと聞いている。いよいよ皆と別れる時がやってきてしまった。私はさらに目を固く閉じた。
(最後にスワロウ様や王子殿下達の顔を見てお別れしたかった.....)
固く目をつぶっているはずの私の目の前には私が異世界にやって来る時に見た老婆がふわりと白いモヤのような空間に揺らいで見えている。気づくとアンダンティーノ殿下の呪文を唱える声が聞こえなくなって、私は段々と意識が遠ざかっていくのを感じた。
◆◆◆
部屋は静寂に包まれていた。アンダンティーノはセイラの顔を見ながらフクザツな思いでいた。記憶は無くさずに済んだが、セイラは遠くの世界に行ってしまった。まわりを見ると、プレストもスワロウもセイリーンの父も表情はどこか暗い。皆、同じ気持ちなのだ。
「これでセイリーンの意識が戻れば、無事成功となるな」
父上の言葉でハッと我に返った。そう、父上はセイラが記憶を保ったまま元の世界に戻ったのを知らない。セイリーンが戻ってきたら父上に知られぬように説明と説得をせねばならないだろう。
「全ての工程が終わりました。セイリーンの意識が戻るまで私はここで待機していましょう」
セイリーンの父が様子を見守ることになり、皆それぞれの場所に戻って待機することになったのだった。
いよいよ異世界ともお別れです......(*p´д`q) セイラが去った後に残された彼等(王とルバート以外)はほぼ抜け殻状態です。
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