準備期間
学園から戻るとプレスト殿下が待ち構えていた。ルバートも一緒だ。何かあったのだろうか。
「戻ったか。今日はアンダンティーノがセイラを独り占めだな。気に食わん」
「ああ、とーっても有意義な時間を過ごせたよ。で、なんでルバートもいるの?」
「今まで今後のことで詳細を詰めていたんだ。コイツが惚れてるカラクター姉妹の実家は魔法の大家でもあるわけだし、魔道具開発に役立つ資料がたんまりありそうだ。オレが頼めば貸してもらえるかもしれない」
「ふうん。実りある話し合いはできたんだね?」
「ああ」
「じゃあ、後でゆっくり聞こう。まずはお茶でも飲もうね、セイラ」
アンダンティーノ殿下は私の手を握って歩いて行く。プレスト殿下も負けじとつながれていない方の手を握って歩き出した。ルバートは王子達の溺愛ぶりを見て、目を見開きながら"セイラって魔性の女なの?”などとつぶやいている。私もナゼここまで溺愛されているのかが分からない。ただ、両方の手をつながれて歩いている私としては慣れずに焦る。
(これは連行されている状態だと考えよう......)
そう強く思うと平常心になってきた。手をつながれた私を見た人達は一瞬驚いた顔をしているが、私が表情を変えないで歩いているせいかスルーしてくれている。
「ねえ、何でプレストも手をつなぐの?セイラはボクの婚約者だよ?」
「いいじゃないか。オレ達は仲良し兄弟なんだから。婚約者挟んで手をつないでも」
「いや、おかしいだろ。手を放せよ」
「いいだろ、減るもんじゃないし」
「いいや減るね。とっても減るよ」
「何が?」
「うるさい!」
久しぶりに2人のいつものやりとりが聞けて嬉しい。
両殿下に手をつながれ城内を歩いていると、前方からスワロウ様がやって来るのが見えた。私達を見て一瞬顔が歪んだが、すぐに穏やかな笑顔になると挨拶をしてきた。
「お帰りなさいませ。学園では有意義な時間を過ごせましたか?」
「ああ。セイラの友人達とも時間を作れたし、思い出深い所も共に巡ってきたよ」
「思い出深い所......アンダンティーノ殿下も一緒にですか?」
「当然だろう。婚約者なんだから」
「そうですね」
「スワロウも気に食わんだろうが、オレも気に食わないから大丈夫だ」
プレスト殿下なりの慰めの言葉をかけている。無理やり笑顔を作って答えるスワロウ様が痛々しく感じて、私も胸が締め付けられた。でも、セイリーンのことを思うとアンダンティーノ殿下の手をふりほどくことはできない。しかも何故かプレスト殿下にも手をつながれているし。
与えられた部屋の前まで両殿下が送ってくれると、私は元の世界に戻るための体調管理をするべく検査や体力づくりに取り組んでいく。ちなみに、体力づくりといっても城内の散歩をする程度だ。
散歩にはアンダンティーノ殿下が甲斐甲斐しく付き添ってくれる。私が婚約者として周知されてからアンダンティーノ殿下は私にベッタリだ。セイリーンが戻った後も、こんな風に溺愛してくれるんだろうか。ちょっと心配になる。
部屋に戻るとお母様から渡された私の着替えとお菓子の差し入れを持って、スワロウ様が部屋に訪ねて来てくれた。
「どう調子は?」
「最初は寂しかったけれど、3日もしたら慣れてしまうものですね。今のところ平穏です」
「オレはセイラが屋敷からいなくなって寂しいよ。今やアンダンティーノ殿下の婚約者になってしまったセイラが遠過ぎて」
「......私も同じ気持ちです。でも、セイリーンのことを考えると、戻る場所をつくってあげないといけないと思うから」
「セイラは随分と冷静なんだな」
少し非難めいたスワロウ様の言葉に、私は大きく息を吸った。そんな風に言われたら、私も言いたいことはある。“私だって自分の気持ちを必死に抑えていると”......だけど、ここは感情的になってはいけないところだ。皆のために。
「......スワロウ様はいつも冷静に判断される方でしたでしょう?スワロウ様から学んだのですよ」
私の言葉にスワロウ様はハッとした様子になり下を向いた。
「......そうか情けないことを言ったな」
「そんなことはありません」
気持ちは通じてる。そう思えるだけの会話はできたと思う。スワロウ様が部屋を後にした後、ひっそりと涙を流したのは秘密だ。
夜は部屋での夕食が済むと、体調管理のために規則正しい生活をしなくてはならないため、入浴など済ませた後は少しばかりの休憩時間の後に就寝することになっている。まるで入院しているみたいで少し息が詰まりそうだ。
ベッドから起き上がるとベランダに出て深呼吸をする。今日も月明かりが明るい。
「セイラ!」
突然声がして声の元を探すと、バルコニー下にプレスト殿下の姿が見えた。目が合うと、プレスト殿下はスルスルと建物の柱をつたってバルコニーに降り立った。
「プレスト様、身軽ですね!何故こんな時間にこんなところに?」
「セイラに会いに来たに決まっているだろう。昼間はアンダンティーノがベッタリだからな。ズルイ!」
「ズルイって......そんな無茶してはいけないでしょう。セイリーンはいずれアンダンティーノ殿下の妃になるのですよ?誰かに見られたらマズイです」
「オイ、オレだって人間だ。お前を愛する権利はある」
回答がズレてる......と思ったが、思ったらすぐに動くこの方は純粋に私に会いたくて来たのだろう。プレスト殿下の顔を見上げると突然、抱きしめられた。
「プレスト様......!ダメです」
「分かってる。少しこのままでいさせてくれ......」
人を愛する気持ちを知った私はプレスト殿下を突き放すことができなかった。人を想う気持ちは時としてとても切ないものだ。
私は腕をプレスト殿下の背中にそっと回して抱きしめ返したのだった。
プレストはセイリーンの今後のことを思うと身を引かねばならないことを分かってはいますが、どうしてもセイラに触れたくて仕方ありません。
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