アン様との秘密
目を閉じているとこちらに近づいて来る足音が聞こえた。きっとアンダンティーノ殿下だろう。
「そのまま目を閉じていて」
目を開けようとしたら、アンダンティーノ殿下から不思議な指示をされた。なんでだろうと思っていると、指でまぶたを優しく撫でられた。指先でまぶたの窪みに沿って触れるか触れないくらいのタッチでそのまま頬に指が降りていって指が離れていった。
「......どうしたのです?」
「2人でゆっくりと過ごすのは初めてだなと思って。思わず触れたくなった」
「これからは2人で過ごす時間も増えますね。お城で過ごしていますし」
「......スワロウのことはどう思っているの?好きなんでしょ?」
「好きですよ......でも、セイリーンの身体を借りている私としてはケジメをつけなきゃいけませんから」
「随分と物分かりがいいんだね。ボクは嬉しいけど」
「......アンダンティーノ殿下は未来の王としても、男性としても、とてもステキな方です。セイリーンをどうぞ大切にしてあげて下さい」
「ああ。だけど今はセイラを大事にしたい。ボクのことは"アン”と呼んで。婚約している間柄だし」
「アン様と?」
「いい響きだ。甘い気持ちになる。もう一度呼んで」
「アン様」
「いい、すごくイイ」
私に名前を呼ばれるだけでこんなに喜ぶなんて。望めば手に入れられるものなんてたくさんある方なのに。だけど、アンダンティーノ殿下は私がスワロウ様に惹かれていて自分に気持ちを向けられていないのを分かっている。世の中はそう上手くいかないもんだ。
「せっかくだから庭園を一回りしていこう。バラの香りも良いし」
アンダンティーノ殿下が私の手をとって歩き出す。後ろからは距離を離して相変わらず側近らしい男子生徒達が付いてくる。
以前、私に注意をした男子生徒は気マズイのか目線を合わせないようにしているようだ。まさか私が婚約者になるとは思わなかったのだろう。
「セイラ、こうして手をつないで散歩するまでボク達はどのくらい時間がかかったのだろう。ボクはずっとこうしたかったよ」
「アン様......残った時間はあなたと共にいます」
「無理しないでいいよ。セイラとはこれで終わりじゃない。ボクがキミの世界に会いに行くのもいずれ夢では無くなるし。ゆっくり口説くから」
「行き来ができるようになったらスゴイですよね。というか、私の姿を見たらガッカリするかもしれませんよ?」
「セイラは自分の見た目に自信が無いの?」
「セイリーンの容姿と比べたら地味ですよ。髪の毛と目の色は黒ですし。まあ、目鼻立ちは整っている方だと思いますので、そこそこの容姿だとは思います。自分で言うのも何ですが」
そう、割と恵まれた容姿だとは思っている。身だしなみも気を付けているし。告白されたことも少ないけど一応ある。付き合ったことはないけれど。
「想像するに、やはり美人じゃないか!会うのが楽しみだよ」
......ハードルを上げ過ぎたかも。メチャクチャ期待させてしまった。あわあわしているとアンダンティーノ殿下が微笑んで言った。
「心配することないよ。ボクは見た目だけでキミを好きになったわけじゃないし。求められたことにしっかりと答える賢さも好きだし、誠実なところも好きだし、ピアノが上手なところも好きだし......挙げたらキリがないかな」
「褒め過ぎですよ。そんなに褒めて頂いても何も出せませんよ」
「いいよ。ボクが勝手にもらうから」
脇道にグイと引き寄せられたかと思ったら、突然キスされてしまった。アン様のくちびるはとてもやわらかくて、女の子のくちびるみたい。比べちゃいけないけどプレスト殿下やスワロウ様のくちびるよりもみずみずしくて心地良い。
バラの茂みが壁となって側近クン達には見えないと思うけど、アン様の怪しい行動で、多分何が起きたのかは分かってしまうのではないかな。案の定、空気を読んでいるのか慌てて駆けて来る気配は無い。
「スワロウとキスしてたから上書きね」
アンダンティーノ殿下は"スワロウとキスした上書き”と言ったが、本当はプレスト殿下の上書きになる。私は、何だかんだでイケメン3人とキスしてしまった。罪深過ぎる。今後の人生でこんなラッキーことはもう起きないだろう。ラッキーだと言ったら不埒だろうか。不埒だな。
アンダンティーノ殿下はそのまま私を抱きしめた。こんなところで抱きしめられたままでいるのはさすがにマズイのではと思っていると、様子を見に来た側近クン達が気付いて慌ててバラの茂みに身を隠した。そんなところに隠れたらバラのトゲに刺さってしまうぞ。
「セイラがこのままだったらいいのに。そうしたら、こうやってすぐにキミの側にいて触れられる......だけど、それはボクの勝手な願いだよね」
「......今の時間を大切にしましょう」
「そうだね」
「......側近の方々、バラのトゲに刺さっているかもしれませんよ」
「今はセイラを抱きしめている方が大事だよ。今やキミは婚約者なんだよ?抱きしめて何か悪いの?」
「アン様って情熱的ですよね。いつもパンチ力が強くてクラクラしちゃってました」
「スワロウに惹かれたくせに......ちなみに彼は情熱的じゃないの?」
「情熱的というより穏やかに見守る感じですね」
「そんな感じだよね。ジャンルが違うわけだ。同じじゃつまらないしボクはこのスタイルでセイラを愛するよ」
「セイリーンのことも愛してあげてくださいね」
「セイラの頼みとあらばそうするよ」
アンダンティーノ殿下と私は手をつないだまま、学園の思い出深い場所を巡って馬車寄せに向かった。馬車に乗って学園から離れると、センチメンタルな気分になったのだった。
アンダンティーノは複雑な状況ながらも、ようやくセイラと2人で邪魔されることなくゆっくり過ごせることに幸せを感じています。
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