月明かりの中で
4人での会議を終えると、お母様がルバートを夕食に誘ったが、ルバートは実家でのんびりしたいからと言って帰って行った。もう少しまともな理由を言えないのか、アイツは。
夕食はいつも通りお母様のマシンガントークがさく裂しており、ある意味、私はホッとした。
夕食が済むとこの家での生活を惜しむように、久しぶりにピアノの置かれた部屋を訪れる。ここのところ、魔法のことを研究していたからピアノをまともに弾く暇など無かったのだ。
お父様は一応、この屋敷から王城に通う方法も提案してくれたが、本格的にあちらに戻る作業に入ったらどちらにせよ王城で過ごすことになるらしいことを聞いて、迷ったが王城での暮らしを私は選んだ。しばらく暮らしたこの屋敷から去ると思うと何だか急に寂しくなる。
ピアノのフタを開けてイスに座ると、最初にこのピアノに触れた時のことを思い出した。何も分からない状態で不安な時に、ピアノを見てスゴク嬉しかったのを覚えている。
鍵盤に触れると、精神を病んだピアニストが作曲したという曲が頭に浮かんだ。メロディの最初は気鬱で重厚な音が続く曲だ。心の戸惑いなどが表現されていて荘厳なのが特徴となっている。
(今の私にはピッタリな曲だな......)
重々しいメロディが私の戸惑う気持ちとリンクする。この屋敷で目覚めてオランジェやスワロウ様、お父様&お母様と語らい、学園にも通って、王子達とも出会って、旅行して......4ヶ月ほどの長いような短いような時間の間にホントに色々と経験したものだ。
ルバートが、私がこの世界に来れたのはラッキーだったんじゃない?みたいなことを言っていたが、どうだったんだろうと思う。私がこちらの世界に来てラッキーだったのか?
(分からない。分からないけど今を大切にするだけ)
目の前が涙で霞んだ。何で悲しいんだろう。
演奏が終わると、ハンカチを差し出された。見ると、お父様だった。スワロウ様もお母様もオランジェもいた。オランジェの側には護衛騎士のブルクもいてオランジェの肩を抱いていた。
(そうか、2人は恋人同士になったのか。良かった)
そのほかにも大勢の使用人も集まっていて私の演奏を聴いていてくれたようだ。
お父様が小さな声で囁いた。
「セイラの演奏は人を感動させるな。私は君がこの世界に来てくれて本当に良かったと思っている。家族として過ごすのを本当に楽しんでいたんだ......セイリーンには情緒というものが欠けている。セイリーンに無いものをプレゼントしてもらえたんだ」
お父様の本心を知ってさらに涙ぐんでしまった。"騙されていた”という気持ちを抱いていたが、お父様も私を娘としてきちんと受け入れてくれていたんだと思ったら泣けた。
「セイリーンちゃん、気持ちを込めて弾いていたわね。涙まで流して......素晴らしかったわ。あなたまで泣いて......」
近づいて来たお母様がハンカチでお父様の目元をぬぐった。
「セイリーンが泣くから私までつられてしまったよ」
2人で泣いていると、お母様は微笑ましそうに笑っていた。お母様だけが事情を知らないのは可哀そうな気がしたけれど、あんな国家機密を知ったら平穏に暮らすのも難しくなる。お母様みたいな人は何も知らない方が幸せだ。
ちなみに、秘密を知る私達には制約の魔法をかけられている。王の書斎で改めて秘密を守るために行われたのだ。
涙でグチャグチャになった私の背を撫でるお父様の手は暖かくて、いつまでも覚えておきたいと思った。
部屋に戻ると、窓から差し込む月明かりで明りをつけなくても部屋が明るい。
(今日は満月だったか......)
そういえばベランダに出たことが無かったなと思い、ベランダに出てみた。感傷的な気分を変えるのにも丁度いい。
ベランダに出る扉を開くと外は肌寒かった。ショールを持ってこようかと思っていると、隣の部屋のベランダの扉が開く音が聞こえた。隣の部屋はスワロウ様の私室だ。
私の姿を認めると、スワロウ様が近くに近づいて来た。
「羽織る物が無かったら冷えるだろう。これを使うといい」
ベランダの柵と柵の間には距離がある。腕を伸ばして受け取ろうとするがなかなか届きそうにないなと思っていると、いきなりスワロウ様はこちらのベランダ側に飛び移って来た。突然のことにビックリしていると肩にブランケットを掛けてくれる。
「落ちたら危険ではないですか!ここ3階ですよ!?」
「大丈夫。オレは運動神経いいんだぞ?」
「万が一ということがあるでしょう?」
「セイラは時々お姉さんみたいなことを言うな?」
「私には弟がいるんです。スワロウ様のことを弟みたいに思ったことはありませんが」
「セイラには弟がいたのか。実は、オレには姉もいるんだ。だからそんな風に言われるとちょっと懐かしい」
「そうだったんですか。中間子なんですね。お兄ちゃんぽくもあり、弟の要素もある」
「いいとこどりだな」
「そうかも......お父様、泣いていましたね」
「父上もセイラをもう1人の娘として大切に思っていたんだな。この関係が今後も続くといいなと願う」
「今後も?」
「セイラが元の世界に戻ったとしても、またいつでも気軽に会える未来もあるんじゃないかと思っている。オレも魔法の開発に取り組むよ」
「スワロウ様......」
スワロウ様の気持ちが嬉しかった。私も何かできないだろうか。
「セイラの世界へもいずれ行ってみたいな」
「スワロウ様が私の世界に来たら、色々な場所に案内してあげたいな」
「楽しみにしているよ」
「スワロウ様は、私に希望を与えてくれる方ですよね。いつも。本当に尊敬しています。大切な人です」
「セイラ......」
月明かりに照らされる中、2人のくちびるは重ねられたのだった。
オランジェとブルグがどうなったか気になっていた方いらっしゃったでしょうか?ちゃんと彼等は将来を誓い合う仲になっています。
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