解決のための決断
夕方、お父様とスワロウ様が帰宅してきた。学園で起きたことを早く知らせたかったこともあり、玄関まで出迎えに行くと、スワロウ様と目が合った。
「セイリーン、お父様を迎えに来てくれたのか?嬉しいなぁ」
「割と頻繁にお父様達を出迎えている気がしますけど?」
「そうだったかな?娘が出迎えてくれるなんて嬉しいことだよ」
セイリーンはほとんど実践室や自室にこもって魔法研究をしていたから、出迎えたことはほとんど無かったようだ。お父様がこんなに喜ぶなら、出迎えてあげれば良かったのにと思う。
一緒にお出迎えをしていたお母様にお父様が花束を渡している。どことなくいつもより機嫌がいいみたいだ。
お父様は基本的に家ではリラックスしているが、帰宅時からテンションが高いのは珍しかった。城での仕事は重責を担う立場なので、神経もかなり使うらしい。
「お兄様に聞きたいことがあるのですが、私の部屋に来て頂いても宜しいでしょうか?」
「分かった」
普段、帰宅するなり聞きたいことがあるなんて言われないので、スワロウ様も何かを感じたみたいだ。私の部屋に来ると、それとなくオランジェにお茶の用意を頼んで2人きりになる。私は廊下に誰もいないことを確認してから部屋の扉を閉めた。
「セイラ?どうかしたのか?」
私は口に人差し指を当て、声を出さないようにして馬車の中で書いたメモを渡した。ランチで王子達に言われた内容を端的に書きつけてある。オランジェが戻って来る前に読めるはずだ。
メッセージを読んでいるスワロウ様の表情が険しくなった。
「......声に出しても大丈夫だ。この家に会話を聞き取ったり録音する魔道具は無いよ。要職に就いているのもあって、そういったことには普段から父上も気を付けている。仕掛けられていればすぐに分かるようにしてあるよ」
「そうだったのですか。会話も気軽にできないのかと心配しました」
「一応、念のために扉から離れてソファに座ろうか」
私達は用心して扉から離れたソファに向かい合って座った。
「それにしても、影が付けられていたとは......婚約をしたわけでもないのにこんなに早く手を回しているとは思わなかった」
「私達の関係を知られたことも問題ですが、私はウソをついてしまいました。例の魔法について調べていることを知られたら大変なことになるから......家の使用人に密偵が紛れ込んでいたらどうすればいいのでしょう......」
「ルバートから届いた本やメモも金庫にすぐにしまったから他の者の目には触れていないよ。父上も滅多にあの金庫を開けない。今のところ我が家にいる使用人も昔からいる者ばかりだから信頼できる。アンダンティーノ殿下のハッタリだろう」
「それを聞いて少し安心しました。でも、殿下達はじきに戻って来るルバートのことも調べるかもしれません。ルバートに問い質したらすぐにウソがバレてしまいます」
「ああ、ルバートに声をかけることもあり得るな。ルバートは魔法研究のために隣国へ行っていたのだし、魔法談議と称してアンダンティーノ殿下がルバートを呼び出すかもしれない。こんな事態になるならば、時間がかかっても隣国まで直接ルバートを訪ねるべきだったかもしれないな」
予期しない事態となり、私達は今後どうするべきか悩んだ。途中、オランジェがお茶を持ってきてくれたが、深刻そうな私達を見るとお茶を入れてすぐに出て行った。テーブルの上には魔法のテキストが開いてあったから、魔法の論議でもしていると思っただろう。
オランジェが出て行ってしばらくすると、スワロウ様がソファから決意したように立ち上がった。
「セイラ、思い切ってこの事態を父上に相談してみよう。自力でどうにかしたかったが、影が付けられていると分かった以上、オレ達だけで解決するのは難しい。協力者が必要だ。父上ならば、禁止魔法についてより深く知っているはずだしな」
いつも優しいお父様なら協力してもらえるだろうか。スワロウ様もいるし、セイリーンが関わっていると知れば、力になってくれそうだが。お父様には私が別人であることを伝えねばならないのがツライが...。いつも可愛がってくれていることを考えると気が重くなった。
「お父様は私がセイリーンとは別人だと知ってショックを受けるでしょうね。別人である私を可愛がってくれていたんですよ。怒らせるかもしれません」
「元はセイリーンが起こしたことだ。セイラに怒るなんてお門違いだろう」
スワロウ様が言うことももっともだと思ったが、“ギフトを授かったのだろう!”なんて喜んでいたお父様の姿を思い出すと、ガッガリさせてしまいそうで怖い。
とりあえず、夕食後にお父様に時間をもらおうということになった。夕食タイムはいつものようにお母様が流行のドレスのシルエットやら美味しいお菓子の店など、ずっと話している。お父様もお母様も私達が言葉少ない様子を気にしていないようだ。
お母様の話が途切れたタイミングを狙ってスワロウ様がお父様に夕食後に時間をもらえるように頼むと、父は笑顔で承諾してくれた。“2人には聴かせたいレコード盤があったんだよ”などと、のんきな様子だ。
夕食後、父の書斎に2人で尋ねるとお父様はソファに座っていた。勧められるまま私達もお父様の向かいに並んで座る。オランジェがお茶のセットを運び終わるまで、お父様は聴かせたかったというレコードを掛けて、音楽のうんちくを楽しそうに語っていた。
オランジェが退室して足音が遠ざかったのを感じると、スワロウ様が金庫にしまわれていた本をお父様の前に差し出した。
「父上、禁止された魔法についてお聞きしたいことがあります」
「うん?お前達がコソコソ調べていることかな?」
一瞬、自分の耳を疑った。スワロウ様も驚いている。
お父様は私達の調べようとしていることを知っているのだろうか?
のんきそうなお父様はタヌキさんでしたね(°m°; )…
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