思わぬ話し合い
夕食が済むと、いつもの魔法実践室にお兄様と共に向かった。
何だかお兄様の態度が深刻そうでこちらも緊張してくる。扉を閉めると、お兄様が私を椅子に座るように促し、お兄様も向かいの椅子に腰を下ろした。
座ると沈黙が漂う。何だろうこの雰囲気は。お兄様が緊張しているように見える。
「......君は一体誰なんだ?」
「!」
思わぬ質問で驚いた。
「君はセイリーンではないだろう。目覚めてから違和感を抱いていたが、ルバートのメモを見て中身が入れ替わっているのを確信したんだ。事情を話してもらえないか?」
スワロウお兄様の言葉に私は絶句する。感づかれてもおかしくは無かったけど、あまりにも自然に受け入れてもらえていたからすっかり安心していたのだ。記憶喪失だということになっていたし。
(ルバートからのメモなんて気づかなかった。きっとメモには私の状況が分かる何かが書かれていたのだろう...)
入れ替わる経緯が書かれた内容ならば、ここで正直にお兄様に伝えるのが最善だろう。私が真実について話せば、今のお兄様なら力になってくれそうな気がする。魔法に詳しいし。
「…気づいたのはお兄様だけですか?」
「なぜそんなことを聞く?」
「中身が別人であると知られれば、私はここにいられなくなるかもしれません。もし、そうなれば知りたいことを調べるのが難しくなってしまいます」
私が別人であることを認める発言をすると、お兄様が息をのむのが分かった。手を固く握りしめたお兄様が言葉を紡ぐ。
「安心するといい。ルバートのメモはオレしか見ていない。だから父上や母上も知らない」
「......そうですか。ひとまず安心しました」
「何故、安心なんだ?もしかしたら、オレが話すかもしれないだろう?」
「そんなことはしない気がします。自信過剰かもしれないけど、困っていることがあればお兄様はいつも助けてくれたから」
お兄様の目が大きく見開かれる。予想外の返事で驚いているらしい。
「そんな言葉を言ってもらえるとは思わなかったよ。試すようなことを言って悪かった。安心してほしい。君から悪意は全く感じられないし、むしろ巻き込まれた立場なんだろう?一緒に過ごしてきたからそのくらいは検討がつく」
「ありがとうございます。私もそう言ってもらえて安心しました」
「ひとまずだが、君はどこから来て何者なのか、元のセイリーンはどうなっているのかについて聞きたい」
「妹さんのことだし気になりますよね。私も元の世界の自分がどうなっているのかと思うとずっと心配でした」
「やはり別の世界から来たということなのか?」
「はい。簡単に私がこちらの世界に来た経緯を簡単にお話すると、私はある人物に出会ってウィンクされたらセイリーンの身体の中に入っていたんです」
「ウィンク...?召喚ではなく、意識のみが転移してきたということか。聞いたことがないな。あちらの世界の君の身体にはセイリーンの意識が入りこんでいるということになるのだろうか?」
「私には全く分からないんです。気付いたらこの状態でしたので。だからセイリーンが研究していたことを知りたくて」
「教科書や図書館に置かれている魔法の本では君が知りたいことを知ることは不可能だろう。禁じられている魔法だから。召喚や転移といった魔法はもともとこの世界にはあった。だが、秩序を乱す可能性がある点から硬く禁じられたのは知っているか?」
「はい。先日、アンダンティーノ殿下から聞きました。セイリーンは、禁じられた魔法を使って私の意識を呼び寄せたということになるのでしょうか?」
「その可能性がある。実は我が家には代々伝えられてきた禁止魔法について書かれた本が保管されているんだ。先ほど、確認したところ最近、誰かに読まれたような形跡があった」
「形跡?」
「ああ。セイリーンと父上の魔力の気配を感じた」
「セイリーンとお父様の?」
「父上は管理する立場として本に触れることもあるだろう。問題はセイリーンの魔力の気配が残っていたことだ」
「では、やはりセイリーンに間違いないということになりますね?」
「そうなるだろうな。だが、まだ謎が多すぎる。我が家の者が禁止魔法を行ったことが知られたらタダでは済まない。だから、大事にする前にまずは父上には知らせずオレだけで調べてみようと思う」
「そうですね...ちなみに、ルバートからのメモには何と書かれていたのですか?」
「“実験はうまくいったか?”と。後は送った本を実験に役立てて欲しいという内容だった。まさか大胆にも禁止魔法の本を送りつけてくるとはな。だが、そのことで君が別人だと確信したんだ」
「そうでしたか...」
目の前に座るお兄様は私の身に起きたことについて真剣に聞いてくれている。いつか話して協力を仰がなければならないとも思っていただけに、思わぬ形でお兄様が知り、協力してもらえることになった。一番、相談しやすい人に協力してもらえて嬉しい。
「お兄様に協力してもらえるなんてとても心強いです。ずっと1人で抱えていたから...」
「もちろん力になる。妹のことでもあるからな...ところでだが、オレは君の兄ではないし呼び方を変えてもらえると嬉しい」
「そうですよね!ごめんなさい。お兄様なんて呼んでいて」
「そういうことじゃないんだ!その、2人の時はセイリーンと区別するために呼び方を変えたいと思ってだな。君の本当の名前は何ていう?」
「聖来です」
「セイラ?セイリーンと名が似ているな」
「私もそう思いました。年齢も近いですし」
「それにも意味があるのだろうか?ひとまず、オレは2人の時はセイラと呼ばせてもらう。オレのことは名前で呼んでくれ」
「…スワロウ様と呼べばいいでしょうか?」
「ああそれで」
スワロウ様が少し恥ずかしそう見えたのは気のせいだろうか。......今まで妹だと思って話していたのに、別人だと気付いた時にはビックリしただろう。
「それにしても、こちらの世界にいきなり呼び出されて魔法も知らず、戸惑っただろう?」
「はい。私の世界では魔法は、お話やゲームの中だけのものと考えられていますから」
「魔法が無いならば人々はどうやって生活をしている?」
「科学が発達しているのです。この世界よりもはるかに。だから、この世界とは街並みも服装も私の世界とは違いますよ」
魔法がある分、こちらの世界はある意味、古典的だ。中世のような世界観でまるでおとぎ話の中に入り込んだ気分になる。
「それは興味深いな。魔法が無ければ違う形で発展を遂げるものなのだな」
「こんな話ができるようになるなんて嬉しいです。スワロウ様に思い切って相談しようかと考えたこともあったんですよ。信頼できる方ですし」
「信頼できるか。それは嬉しい」
「いつも私に優しくしてくれて、こんなお兄さんが本当にいたらいいのになって思っていました」
「.....兄か。1つだけ言っておこう。オレとセイリーンは本当の兄妹ではないんだ。結婚しようと思えばできる関係だ」
「義理の兄妹だったのですね!どうりで髪や目の色が私とは違うわけなのですね...で、結婚ができるって?」
何故、結婚ができるなんて話を?セイリーンともしかして想い合っていた?でも、最近は話していなかったと聞いていたし...。よく真意は分らなかったがスワロウ様は説明するつもりがないようなので、ひとまず置いておくことにした。
とにかく今の私は、心強い味方を得られて嬉しく思っていたのだった。
スワロウについに異世界から来たことを告白。セイラの気持ちは一気に軽くなります。
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