ルバートからの荷物〈スワロウ視点〉
プレスト殿下を見送った後、父上が帰宅してきて夕食の時間となった。
(家族だけで過ごす時間はリラックスできるな......)
このところ、セイリーンがやたらと王子達に関心を持たれていることが気がかりになっていた。家庭の平穏を乱されているようでいい気はしない。
美しい容姿を持つセイリーンに惹きつけられる男は少なくはないだろう。だが、王子達の関心は予想以上だ。
倒れる前のセイリーンは魔法にばかり気をとらわれていて、ほかのことは眼中に無い様子だった。あの、仮の婚約者であるルバートとかいうチビの眼鏡小僧と魔法談議をすると言って出かけるぐらいで、普段は屋敷の外に出ず学園と家の往復だった。いつも何やら魔法について研究しているのが当たり前の姿だったのだ。
やがて、ルバートも魔法をさらに学びたいと隣国に留学してしまってからは、セイリーンはさらに魔法研究に没頭していたように感じた。
(だが、今はどうだ。記憶を失ってからというもののまるで人が違うみたいだ......)
夕食後の日課である魔法学習をセイリーンと始めると、セイリーンの髪を飾っているロゼカラーの髪留めが目に入った。
(身だしなみへの関心も最低限だったのに......今じゃ髪留めにも気を使っているようだ。オランジェの勧めであるかもしれないが)
今日は、地下の実践室で演習をしている。練習を積み重ねることでセイリーンも、基本的な合わせ技から応用まで段々と使いこなせるようになってきていた。本人はまだ満足していないようで、常に新しいことを学びたがっているが、進み具合としては順調と言えるだろう。
自分は王城の魔法課に所属していることもあり、実務レベルでの指導にも対応できる。願わくは、セイリーンも学園卒業後に魔法課に所属できると望ましいと思っている。
だが、セイリーンは進学するための魔法の勉強よりも、倒れる以前に研究していた内容が知りたいようだった。
先日の会話が思い出される。
◇◇◇
「お兄様、攻撃や防御・回復・加護といった分野意外の魔法についても学びたいのですが」
「何故?学園の学習科目をもっと学んでいく方が良いと思うが?」
「私が以前、研究していたことが何か気になっています。手がかりは無いでしょうか?」
「ルバートと合同研究をしていたみたいだな?オレには内容は分かりかねる。お前は秘密にして話さなかったし。何か危険なことをしているのではと心配していたが」
「......そうなのですか。ルバートって何を学ぶために留学しているのでしょう?」
「さあな。お前達が研究している内容が関係しているかもしれないし、そうではないかもしれない。全く分からないな」
「ルバートと手紙のやり取りなんてしていなかったのでしょうか?私の部屋には研究資料でさえも残っていなくて」
「研究していたのに何も残っていないとは妙だな。そのうち、ルバートもこちらに戻って来るだろう。その時に確認してみればいい......お前が王子達にちょっかい出されていると知ったら、慌てるかもな」
◇◇◇
(確かにセイリーンは、一体何を研究していたんだ......?父上が、実践室で倒れていたというセイリーンを抱えて部屋まで運んでいる姿を見た時は驚いたが)
魔法課にはルバートの父も所属している。特に突出した才能は感じないが真面目な人物で、息子の関心を持ったことを前向きに応援する人だ。息子の研究内容について知っているかもしれない。
以前、王子達2人がセイリーンに執着している様子をどう感じているかを聞いてみたことがあるが、彼は笑っていた。
『息子とセイリーン嬢は、色っぽい感情は抱いていないみたいだよ。正式な婚約ではなく、口約束で留めておいて良かったね』
などと言うのだ。彼曰く、ルバートとセイリーンとは恋仲というよりも研究仲間と認識し合っているようだという話だった。
その後、ルバートの父に研究内容を確認してみたが、彼も何も知らなかった。時間が経つにつれて、研究内容のことを忘れかけていた頃、ルバートから突然、荷物が届いた。
荷物はかなり重量がある。荷物を解いたセイリーンが隣国の言葉で読めないから読んで欲しいと、語学が得意なオレに頼んできた。
本を開いてみると、かなり古い物のようだった。何の内容だろうと、読み進めていくと驚きと共に怒りが湧いてきた。内容が召喚や転移などこの国では禁書であったからだ。
(ルバートめ、何を考えている!)
こんなものを堂々と送ってくるあたり、彼の頭はどうなっているのだろう。途中で荷物を改められていたら、この家も無事では済まなかったに違いない。
その時、握りしめていた本から1枚のメモが床にハラリと落ちた。
背を向けて座ってほかの本を見ていたセイリーンは気付いていない。勝手に読むのは良くないとは思ったが、ルバートが何を書きつけてきたのか気になって確認した。
『例の実験はうまくいった?僕が帰国したらぜひ成果について聞かせてほしい。僕はまだ隣国で調べ物があるから帰国できないけど、セイリーンの研究に役立ちそうな本を手に入れたから送るよ。管理には気を付けて』
研究に役立つ本?まさか、セイリーンは国で禁止されている魔法の研究をしていたというのか?ザッと内容をチェックした限り、これは異世界とつながりを持つ魔法について書かれた本だと言える......。
「お兄様どうしたの?顔が険しいけど、どんなことが書いてあったの?」
「いや......内容についてはしばらく解読させてもらってからでいいか?」
「それはもちろん!お手数おかけしてすみません」
疑う様子もなくこちらを見て微笑んでいるセイリーンは美しい。以前はオレを見てこんな可憐な微笑みを向けたことはなかった。
目の前にいるセイリーンが元から知っているセイリーンではないような気がした。
スワロウは、ルバートを元々あまり気に入っていなかったので彼のすることに厳しめです。
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