狩猟型人間
あまりに急なキスで目を閉じる間も無かった。
(人生初めてのキス......)
心臓が大きくドクンと跳ねた。驚いて目を見開いたままでいると、またすぐに唇を奪われた。
「あのっ、これ以上は......!」
慌ててプレスト殿下の胸を押し返す。心臓が尋常じゃない速さで動いている。
「まだ、アンダンティーノからキスはされていないだろう?オレが1番だな」
「......はい?何言っているんですか?......こんな不意打ちは卑怯です!」
プレスト殿下がおどけたような態度で言うので、さっき言われた言葉が本気だったのか戯れだったのか分からなくなった。モテる王子たちのことだ。どこまで本気に受け取っていいのか分からない。
「そろそろ戻るぞ」
プレスト殿下がズンズン前に進んでいく。私はドレス姿なのでいつもより歩くのが遅くなり、プレスト殿下との距離がどんどん離れていく。すると、プレスト殿下が急に歩みを止めた。
「......ドレス姿だったな。ちょっと余裕が無かった......すまない」
少し照れくさそうに手を差し伸べてくれた。こんな笑顔は反則だろう。何が正解なのかまた分からなくなった。
バルコニーまで戻ってくると、会場の中から優雅な管弦楽の音色や人々の話し声が聴こえてくる。
「お前はアンダンティーノと踊る役目は既に果たしたのだから、もう帰ってもいいだろう。他のヤツからダンスに誘われたら面倒なだけだしな」
「できればそうしたいですがイザベラ様と一緒にいる約束をしている手前、勝手に戻るわけにいかないんです。馬車の迎えもまだ来る時間ではありませんし」
「じゃ、さっさとイザベラ嬢を探して一声掛ければいい。アンダンティーノにはオレがうまく伝えておくから気にするな。馬車も城から出せばいい」
プレスト殿下の気遣いで、一緒にイザベラ様を探してくれることになった。見つけたイザベラ様はお姉さんの隣で2年生の男子生徒達と盛り上がっていて楽しそうだった。何だかんだで美しいイザベラ様だ。男子生徒にチヤホヤされているっぽい。
「イザベラ嬢、セイリーン嬢は気分が優れないとのことで帰宅させることにした。問題ないか?」
「あらプレスト殿下と一緒でしたのね。気分が悪いなら無理なさらない方が良いわ。こちらはお姉さまがいるから問題ありませんし」
「ではイザベラ様、すみませんが先に失礼させていただきます」
別れの言葉を述べると、プレスト殿下と出口に向かって歩く。会場から出る前にアンダンティーノ殿下の姿を探してみると、令嬢たちに乞われてダンスを踊っていた。王子様も大変だ。
プレスト殿下にもダンスを誘ってほしい令嬢達からの視線がたくさん集まっている。側にいる私としては申し訳ないやら落ち着かないやらでいたたまれない。
「プレスト様とダンスしたい令嬢たちの視線が痛いです」
「だろうな。王子ってだけで寄ってくる女は多いからな」
否定しないのでホントにとてもモテるのだろう。当たり前だとばかりに普通に言葉を返される。
「興味を惹かれる令嬢はいないのですか?」
「なぜお前がそんな質問をする?オレがさっき言ったことを忘れたか?」
「あの、もの珍しいのは分ります。だけど、私は魔法に没頭したい状況でして」
先ほど庭で起きたことを思い出しながら、しどろもどろに伝える。しっかりと伝えておかないと、もっとグイグイ迫られそうな気がする。
「なぜ、オレから離れようとする?距離をとろうとすれば、余計に追いたくなるのが男だ」
ダメだ。この方は剣を振り回すのが好きだと言っていたし、完全に“狩猟型人間”のようだ。ひとまず私への関心が薄れるまで、のらりくらりとかわしていくしかないのかもしれない。プレスト殿下のペースに巻き込まれたら、深みにハマッてしまいそうだ。
従者を見つけたプレスト殿下が馬車の手配をしてくれる。馬車の用意ができるまで話は続いた。
「それにしてもやはりフォルテ家の娘なだけあるな。魔法がそんなに楽しいか?オレは魔力ではなく剣スキルに特化しているタイプだから、直に身体を動かす方が良いな」
この国の王族を中心とした貴族は、魔力に優れた人が多いと聞いている。中でもフォルテ家は魔力量と共に魔法を使いこなす能力に長けているため、長年、王家に仕えてきている。
プレスト殿下の母の出身国である隣国も魔法に力を入れている国だと聞く。隣国の王族とつながりがあるプレスト殿下ならば魔力にも優れていそうだが、得意不得意が人によって異なってくるのだろうか。繊細な部分だから触れにくい。
「剣は重いですよね?だからプレスト殿下は筋肉隆々なのですね。全身が引き締まっていてスタイルがとても......」
「オレの身体をそんなにじっくり観察していたのか?」
「いいえ、そういうわけでは!えーと失礼しました!変なイミではなく純粋に褒めていたつもりなのですけど......」
「構わない。むしろいい。オレに関心を持っているということだからな」
どうも、プレスト殿下は直情型な人物のようだ。アンダンティーノ殿下は計算高く動く思考型な人物なような気がするし、内面的にもかなり2人は違う。2人に共通して言えるのは、どちらも興味惹かれるものには貪欲だということだろうか。
「そういえば、また"お前”って呼んでしまっていたな」
「プレスト様はそう呼んでもおかしくない立場の方ですし、プレスト様が呼ぶ分には私も気にしません」
「そうか......努力はするが」
「自然体でいいですよ」
プレスト殿下は、私を名前で呼ぶ努力をしてくれていたみたいだ。その気持ちが嬉しい。
「馬車の用意ができたみたいだな......本当に送らなくていいのか?」
先ほど、屋敷まで送るというプレスト殿下の申し出を丁重にお断りしたところだ。これ以上、2人でいるのは色々とキケンを感じたからだ。
プレスト殿下の気まぐれの好意を上手くあしらえるスキルが私には無い。ホントは余裕たっぷりあしらってみたい。悪女みたいに.......。無理だけど。
「はい。馬車の手配までして頂いてありがとうございました。また学園で」
「ああ、学園でまたな」
カーテシーをして別れを告げると、プレスト殿下が馬車に乗り込むのを手伝ってくれた。微笑むプレスト殿下の顔はとても美しい。鼻筋が通り日に焼けた美丈夫で正直、顔だけでいうならば好みの顔だ。
うっかりプレスト殿下のペースにハマらないように自制しなくてはと気を引き締めたのだった。
キスした後のプレスト→やったぁ!でもドッキドッキだったぜ.......って感じです。
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