表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/48

第四章 夜のふたり組 〈9〉

 土蔵(どぞう)の2(かい)へ帰り着くと、外からバキバキビシビシと大きな音がとどろいた。


カナエの(かみ)さまの力でゆれをふせいでいた母屋の1(かい)部分がよろめくようにくずれて、2(かい)部分が土蔵(どぞう)と肩をならべるようにぶつかった。土蔵(どぞう)の壁がビリビリとゆれ、月あかりの下で(はげ)しい土ぼこりが舞う。


(……家、くずれちゃったんだ?)


「うん。だいぶムリしてゆれをおさえてたから」


 クツをぬいでたたみへ(こし)を下ろした(なぎさ)防災袋(ぼうさいぶくろ)の中からラジオつき懐中電灯(かいちゅうでんとう)をとりだして、ラジオのスイッチを入れた。シリウスも(なぎさ)のももにお(しり)をつけて丸くなる。


「……震源地は福島県沖、マグニチュード6.0。津波(つなみ)警報は解除されておりません。ひきつづき津波(つなみ)には警戒してください。ニュースをくりかえします。午后10時15分ごろ、東北地方で震度(しんど)5弱を記録する地震(じしん)が発生しました。各地の震度(しんど)は……」


(けっこう大きな地震(じしん)だったんだね)


 ラジオのスイッチを切りながら()(なぎさ)の前に、目をまっ赤に()きはらしたカナエがおこった顔ですわりこんだ。


「……(なぎさ)のバカ。だからやめようって()ったのに。(わたし)ホントにこわかったんだから」


(ごめん、カナエ。……でもカナエだって、ノリノリでガラス窓たたいてたじゃん)


「だって大の大人が、うわああああ! とか()っておどろいてるんだもん。おかしくって」


(だろう? 途中まではうまくいってたんだけどなあ)


 そう()(なぎさ)(ひとみ)から(なみだ)がこぼれ()ちた。ホッとしたら、ほおの痛みとさっきの恐怖(きょうふ)を思いだした。一歩まちがえば本当に殺されていたかもしれないのだ。


(かみ)さまの()うこと聞かなかったから、バチがあたったんだよ」


 おどけた口調(くちょう)()うカナエの(ひとみ)にも(なみだ)が光っていた。


(アニキ、ゆうれいだ! だって)


「マジ、あれヤバイって! とか()ってんの」


 おどけたふりをして笑うふたりだったが、体の芯がふるえて(なみだ)がとまらなかった。そんなふたりを心配(しんぱい)してシリウスが頭を上げた。(なぎさ)がシリウスの頭をやさしくなでて()った。


(ありがとな、助けにきてくれて。おまえ、超カッコよかったよ)


「シリウスが一番たよりになるかもね。ありがとシリウス」


 カナエがシリウスの(しり)尾のつけ根をガシガシかくと、シリウスが気もちよさげに(しり)尾をふった。



     5



 (なぎさ)たちはすぐ床についたが、(なぎさ)はなかなか()つけなかった。シリウスは(なぎさ)とカナエの間にもぐりこんで、サバイバルブランケットの中で丸くなっている。


 (なぎさ)が窓からさしこむ月あかりで黒い陰をつくる天井(てんじょう)をぼんやりながめていると、カナエがふいに()った。


「……(なぎさ)、今、あのドロボウがつかまった」


(そんなの?)


「うん。あのあと別の家をあらしてでてきたところで、アニキって人が〈闇蟲(やみむし)〉にふれて、そのまま(たお)れて死んじゃった。それを見ておどろいたヤスって人がさわいでるのに気づいたパトロール中のおまわりさんが彼をつかまえた。おまわりさんはヤスがアニキを殺したって思ってる」


(死んじゃったの? ……悪いことはできないんだね)


 ドロボウがつかまったのはよい気味だけど、ひとりが死んだと聞かされて、手放しでよろこぶことはできなかった。


「あ、それとね、(なぎさ)


(……?)


「あのふたりについてた(かみ)さまが、ごめんなさいごめんなさいってずっとあやまってた。きちんと(つみ)をつぐなわせますからって」


(あんなやつらにも(かみ)さまってついてるの!?)


 語気あらくカナエへふりかえる(なぎさ)に、カナエは天井(てんじょう)へ顔を向けたまま淡々とした口調(くちょう)でこたえた。


(わたし)たち〈産土神(うぶすながみ)〉の使命は生きとし生けるものを祝福し、守護することだから、どんなに悪い人でも見捨てることはぜったいにない」


(でもドロボウじゃん。悪いことしていいのかよ?)


(かみ)さまもドロボウとか悪いことをみとめてるわけじゃない。(わたし)だってゆるしたくない。でも、生まれた時から悪い人なんていないし、どんなに悪い人でも反省して心を入れかえるチャンスはある。だから、(かみ)さまだけは悪い人でも最後(さいご)まで見捨てない」


(それならお説教してやればいいのに。どうしてハッキリ()ってやんないの?)


「自分で気づいて学ぶことに意味(いみ)があるからだよ。(なぎさ)はだれかに教わったことしかできない人になりたいと思う? だれかに命令されないとなにもできない人になりたいと思う?」


(ううん)


 (なぎさ)は小さくかぶりをふった。


「自分で気づいて学ぶためには、ちゃんと迷ったり悩んだりまちがったり失敗(しっぱい)することが大切なんだって。トト(かみ)さまが()ってた」


(じゃあ、たとえば、そのためには関係ないだれかを殺したりしてもいいってこと?)


「ちゃんと、って()ったでしょ。とりかえしのつく範囲でならよいってこと。アニキって人はなにも気づかないまま死んじゃった。かわいそうだけど、そう()う人もいる」


(……じゃあ、なんでカナエはぼくの前にあらわれてくれたのかな?)


 自分で気づいて学ぶことが重要であれば、カナエが(なぎさ)を助けていることは矛盾(むじゅん)しているはずだ。


「う~ん。それはきっと(なぎさ)がどうしようもないくらいダメダメだからじゃない?」


(そんなことないよ!)


 からかいまじりのカナエの言葉(ことば)(なぎさ)がムキになって否定(ひてい)した。そのようすにカナエがクスリと小さく笑う。


「……(わたし)が生まれたばかりで力の弱い(かみ)さまだからかも」


 こちらがカナエの本心だった。カナエには多くの人々を地震(じしん)津波(つなみ)から救えなかった自責(じせき)の念がある。さっきも(なぎさ)危険(きけん)な目にあわせてしまったばかりだ。


 きっとトト(かみ)さまがいれば、それもカナエにとって「自分で気づき学ぶため」の試練だとやさしく笑ってはげましてくれただろう。


それでもカナエは(かみ)さまとしてまだまだいたらない自分が情けなかった。


(……自信もてよ。カナエはすごい(かみ)さまだって。ぼくが保証する)


「ふふ……ダメダメの(なぎさ)に保証されてもなあ」


(ダメダメじゃないって)


「でも、ありがと(なぎさ)。元気でた」


 カナエが横になったまま(なぎさ)へふり向くと、銀色(ぎんいろ)のサバイバルブランケットの中から左腕(ひだりうで)をさしだした。


(なぎさ)、忘れないで。(わたし)はたいした(かみ)さまじゃないけど、いつだって(なぎさ)のそばで(なぎさ)をはげましつづけてるってことを。(なぎさ)がひとりの時もひとりじゃないってことを」


 (なぎさ)もサバイバルブランケットの中から手をだすと、カナエの手をやさしくにぎりしめてこたえた。


(ありがとうカナエ。ぜったい忘れない)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ