第四章 夜のふたり組 〈7〉
パリン! と大きな音がして、ヤスとよばれたドロボウがとなりの部屋でとび上がった。
「うわっ! なんだ今の音は? 2階じゃねえよなあ。となりか?」
ヤスが部屋からおそるおそる顔をだし、懐中電灯で廊下を照らすが、もちろんそこにはだれもいない。
本当は大きな声で誰何したかったのだが、そんなことをすれば、2階にいるアニキから小心者とバカにされるに決まってる。
「ちくしょう。オレはビビリなんかじゃねえぞ」
ヤスは腰のひけた足どりでとなりの居間をのぞきこんだ。
居間と廊下をしきるふすまはほとんどはずれていて、中の見とおしは悪くないはずだが、とにかく暗いのでようすがわからない。
懐中電灯の細いあかりで居間の中をゆっくりと照らす。床の間に倒れたテレビの裏側が見えた。
床の間の壁を這うように光が移動すると、飾り棚の陰から無表情な白い子どもの顔があらわれて、ヤスは絶叫した。
「うわああああああっ!」
腰をぬかして廊下へ転がりでたヤスが、後頭部を思いきり向かいの壁に打ちつけた。
「どうしたヤス!? なにがあった?」
ヤスの悲鳴にアニキとよばれたドロボウもおどろいて、2階からあわてて下りてきた。
「で、で、で、でたよ、アニキ。子どものゆうれい。マジあれヤバイって!」
アニキの懐中電灯で照らしだされたヤスの顔色はまっ青である。
「ゆうれい? どこだよ?」
「そ、そ、そ、そこの棚の陰だって!」
アニキは右手で大きな鉄製のバールをにぎりしめた。この重たい工具で玄関をこじ開けたのだ。
なにかいたらバールでぶちのめしてやろうとかまえながら、左手でヤスの指さした飾り棚の陰に懐中電灯をむけた。
「……いねえじゃねえか」
アニキが小さく肩で息をつきながら云った。
「このチキン野郎! だからてめえはついてくんなって云ったんだよ!」
「マジだって、アニキ! マジで見たんだって!」
「じゃあ、今もてめえにはあそこにゆうれいが見えるってのか?」
アニキが飾り棚を照らしながらヤスを問いつめた。
「……い、今は見えねえけど、さっきはぜったいいたんだって!」
「うるせえ!」
アニキが廊下にへたりこむヤスの顔をけった。
「ぎゃっ!」
ヤスは悲鳴を上げると、けられた顔面を押さえてうずくまった。
「てめえはもうひっこんでろ! オレの仕事のじゃますんな!」
アニキとヤスの背後でバン! バン! と居間のガラス窓をたたく大きな音がした。
「な、なんだ!?」
アニキがふりむいて、音のしたガラス窓を懐中電灯で照らすが、そこにはだれもいない。
「アニキ、ポルターガイスト現象だ! ゆうれいのしわざだよ!」
「うるせえ! そんなのあってたまるか!」
言葉とは裏腹に少しおびえたようすでアニキが懐中電灯をふりまわすと、ガラス窓のかたわらに立っている子どもの姿がかいま見えた。
アニキがおそるおそる懐中電灯を向けると、白い顔をした無表情の子どもが上目づかいで、ふたり組のドロボウを見ていた。
「で、で、でたあっ!」
ヤスがさけぶと、子どもの体がふわりと宙にういた。
「うぎゃあああ!」
「うおっ!」
ふたり組のドロボウが思わず悲鳴を上げて懐中電灯をとり落とした。
「……渚、重い……」
渚の両わきに手を入れて、うしろから渚の体をもち上げていたカナエの腕がプルプルふるえている。渚がこたえた。
(もう下ろして。今のうちにかくれよう)
カナエの姿はふたり組のドロボウに見えないし声も聞こえない。さっきガラス窓をたたいてドロボウたちをおどかしたのもカナエのしわざだ。
ドロボウたちのおどろき方があまりにもこっけいだったことに気をよくしたカナエが、居間の奥へと移動する渚とは逆方向のガラス窓をバン! バン! とたたいた。
「とっととでてけ、ドロボウ!」
ヤスはカナエのポルターガイスト現象にビビリきっていたが、アニキはもう少し肚がすわっていた。
「くそっ!」
アニキは懐中電灯を拾い上げてふたたびガラス窓へ向けた。ぐうぜん雨戸の閉めきられたガラス窓の前を横切って居間の奥へ移動する渚の姿を照らしだすと、手にしていた鉄製の重いバールを渚へ投げつけた。
(うわっ!)
バールがガシャン! と激しい音をたててガラス窓を割り、渚が頭をかばって身をふせた。そのようすを見たアニキが怒りもあらわに云った。
「……くそったれ! ヤス、あれはゆうれいじゃねえ! 本物のガキだ!」




