表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/48

第四章 夜のふたり組 〈6〉

     4



「……(なぎさ)()きて」


(……ん、まだ夜じゃん。どうしたの?)


 まっ暗な中、カナエに小声で()こされた(なぎさ)(ねむ)たい目をこすりながらたずねると、外からガキン! バキン! となにかをたたきつける金属(きんぞく)音がひびいてきた。


(なぎさ)によりそって()ていた秋田犬のシリウスもとび()きて耳をそばだてる。


(あの音は?)


 不穏な空気を察した(なぎさ)表情(ひょうじょう)がかたくなった。


「ドロボウ。ふたり組のドロボウが母屋の玄関(げんかん)をこじ開けようとしてる」


(ドロボウ!? 一体こんなところでなにをぬすむの?)


「たとえば預金通帳とか宝石とかを家に()いたまま、避難(ひなん)した人たちがいるかもしれないでしょ? そう()うのをさがしてぬすもうとしているの」


 (なぎさ)は耳をうたがった。地震(じしん)津波(つなみ)でボロボロになったこの町の人たちは、すでにいろんなものを(うしな)っている。そんな人たちからこれ以上(いじょう)なにかをぬすもうと(かんが)える人がいるなんて信じられなかった。


土蔵(どぞう)には結界(けっかい)が張ってあるし、とびらも頑丈だから、こっちをおそうことはないと思うけど、万が一にそなえてどこかへかくれた方が……」


(あっちもなんとかしなきゃ!)


「なんとかするって()っても、相手は大人のふたり組だよ?」


(でも、ドロボウをだまって見すごすなんてイヤじゃん。ゆるせないよ)


 土蔵(どぞう)の外からは、いまだにガキン! バキン! とあらあらしい破壊音がこだましている。


(……そうだ。カナエ、いいこと(かんが)えた! ユーレイのふりしてドロボウをおどかしてやろう!)


 カナエが(なぎさ)(かんが)えを読みとって、かぶりをふった。


「あぶないから、やめとこうよ」


勝手(かって)口からこっそり家に入って暗がりに立ってるだけだって。だれもいないと思ってたところに子どもとかいたら、ぜったいこわいって。ユーレイだと思ってにげだすに決まってる)


「でも……」


(カナエは暗いところでも目が見えるだろ? カナエがいれば大丈夫(だいじょうぶ)だよ)


 (なぎさ)はそっとサバイバルブランケットからぬけだすと、はだしのままクツをはいた。クツ底はまだしめっていてじっとりと冷たい。


「シリウスも行くって」


 カナエがシリウスの首輪からリードを外しながら()った。土蔵(どぞう)一階(かい)にあかりがともる。(なぎさ)たちは階段(かいだん)を下りると、とびらの前で(いき)を殺して外のようすをうかがった。


 大きな音がやんだ。ふたり組のドロボウが母屋へ入ったらしい。


カナエが土蔵(どぞう)のとびらを音もなく開くと、(なぎさ)たちは月あかりに()らされたほの暗い庭を横切って、こっそりと母屋の勝手(かって)口へまわった。カナエが(かみ)さまの力で勝手(かって)口のカギを開けると、


(シリウスはここで待機な)


 足元に()ちていたガレキをかませて勝手(かって)口を少しだけ開けたままにした。(なぎさ)言葉(ことば)をカナエからつたえられたシリウスが勝手(かって)口の前でおすわりした。


(行こう、カナエ)


 カナエが心配(しんぱい)そうな表情(ひょうじょう)でうなづくと、ふたりは母屋へ入った。


 台所は勝手(かって)口に面したあかりとりの窓があるのでまだ少し明るかったが、家の中は雨戸(あまど)()めきられているので、足元も見えないほど暗かった。


 宙にういたカナエが(なぎさ)のうしろから肩に手をかけ、ほおとほおがふれあうように顔を近づけた。(なぎさ)の視界が暗視カメラの映像みたいにきりかわる。


 もちろん昼間(ひるま)ほどの明るさではないが、大体のところはぼんやりと見ることができた。なるべく音をたてないように、(たお)れた食器棚(たな)をふみこえていく。


 玄関(げんかん)から入って右手の部屋でガチャガチャと家さがしする音が聞こえてきた。時おりチラチラと懐中電灯(かいちゅうでんとう)のあかりが廊下(ろうか)にもれる。


「ヤス、てめえバカヤロウ、どこさがしてんだ!? 金目のもんが押入れのふとんの間にあるわけねえだろ。そこの仏壇の下のひきだし見ろ!」


「すいやせん、アニキ」


「ったく、てめえは使えねえな。オレは2(かい)をあさってくるから、ヤスは1(かい)をしらみつぶしにあたれ。こんなとこサツはこねえし、時間はくさるほどあるからな」


「へへっ、わかりやした」


 懐中電灯(かいちゅうでんとう)廊下(ろうか)の足元を()らすと、重い足音にガツガツとなにか重い物をひきずるような音が階段(かいだん)を上がっていく。


 台所入口の陰でそのようすをうかがっていた(なぎさ)とカナエが、となりの居間へ移動(いどう)した。


 ヤスとよばれたドロボウの物色している部屋のとなりが和室の居間である。


居間にはたて長の座卓があり、部屋をしきる壁は飾り(たな)のついた床の間になっていて、床の間には大きなテレビが(たお)れていた。


 (なぎさ)は飾り(たな)の陰に立つとカナエへ合図した。


「ホントに大丈夫(だいじょうぶ)かなあ?」


大丈夫(だいじょうぶ)だって)


 (なぎさ)がうなづくと、カナエは台所で拾った欠けたガラスの小皿を、座卓のかどへたたきつけて()った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ