第四章 夜のふたり組 〈6〉
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「……渚、起きて」
(……ん、まだ夜じゃん。どうしたの?)
まっ暗な中、カナエに小声で起こされた渚が眠たい目をこすりながらたずねると、外からガキン! バキン! となにかをたたきつける金属音がひびいてきた。
渚によりそって寝ていた秋田犬のシリウスもとび起きて耳をそばだてる。
(あの音は?)
不穏な空気を察した渚の表情がかたくなった。
「ドロボウ。ふたり組のドロボウが母屋の玄関をこじ開けようとしてる」
(ドロボウ!? 一体こんなところでなにをぬすむの?)
「たとえば預金通帳とか宝石とかを家に置いたまま、避難した人たちがいるかもしれないでしょ? そう云うのをさがしてぬすもうとしているの」
渚は耳をうたがった。地震と津波でボロボロになったこの町の人たちは、すでにいろんなものを失っている。そんな人たちからこれ以上なにかをぬすもうと考える人がいるなんて信じられなかった。
「土蔵には結界が張ってあるし、とびらも頑丈だから、こっちをおそうことはないと思うけど、万が一にそなえてどこかへかくれた方が……」
(あっちもなんとかしなきゃ!)
「なんとかするって云っても、相手は大人のふたり組だよ?」
(でも、ドロボウをだまって見すごすなんてイヤじゃん。ゆるせないよ)
土蔵の外からは、いまだにガキン! バキン! とあらあらしい破壊音がこだましている。
(……そうだ。カナエ、いいこと考えた! ユーレイのふりしてドロボウをおどかしてやろう!)
カナエが渚の考えを読みとって、かぶりをふった。
「あぶないから、やめとこうよ」
(勝手口からこっそり家に入って暗がりに立ってるだけだって。だれもいないと思ってたところに子どもとかいたら、ぜったいこわいって。ユーレイだと思ってにげだすに決まってる)
「でも……」
(カナエは暗いところでも目が見えるだろ? カナエがいれば大丈夫だよ)
渚はそっとサバイバルブランケットからぬけだすと、はだしのままクツをはいた。クツ底はまだしめっていてじっとりと冷たい。
「シリウスも行くって」
カナエがシリウスの首輪からリードを外しながら云った。土蔵の一階にあかりがともる。渚たちは階段を下りると、とびらの前で息を殺して外のようすをうかがった。
大きな音がやんだ。ふたり組のドロボウが母屋へ入ったらしい。
カナエが土蔵のとびらを音もなく開くと、渚たちは月あかりに照らされたほの暗い庭を横切って、こっそりと母屋の勝手口へまわった。カナエが神さまの力で勝手口のカギを開けると、
(シリウスはここで待機な)
足元に落ちていたガレキをかませて勝手口を少しだけ開けたままにした。渚の言葉をカナエからつたえられたシリウスが勝手口の前でおすわりした。
(行こう、カナエ)
カナエが心配そうな表情でうなづくと、ふたりは母屋へ入った。
台所は勝手口に面したあかりとりの窓があるのでまだ少し明るかったが、家の中は雨戸が閉めきられているので、足元も見えないほど暗かった。
宙にういたカナエが渚のうしろから肩に手をかけ、ほおとほおがふれあうように顔を近づけた。渚の視界が暗視カメラの映像みたいにきりかわる。
もちろん昼間ほどの明るさではないが、大体のところはぼんやりと見ることができた。なるべく音をたてないように、倒れた食器棚をふみこえていく。
玄関から入って右手の部屋でガチャガチャと家さがしする音が聞こえてきた。時おりチラチラと懐中電灯のあかりが廊下にもれる。
「ヤス、てめえバカヤロウ、どこさがしてんだ!? 金目のもんが押入れのふとんの間にあるわけねえだろ。そこの仏壇の下のひきだし見ろ!」
「すいやせん、アニキ」
「ったく、てめえは使えねえな。オレは2階をあさってくるから、ヤスは1階をしらみつぶしにあたれ。こんなとこサツはこねえし、時間はくさるほどあるからな」
「へへっ、わかりやした」
懐中電灯が廊下の足元を照らすと、重い足音にガツガツとなにか重い物をひきずるような音が階段を上がっていく。
台所入口の陰でそのようすをうかがっていた渚とカナエが、となりの居間へ移動した。
ヤスとよばれたドロボウの物色している部屋のとなりが和室の居間である。
居間にはたて長の座卓があり、部屋をしきる壁は飾り棚のついた床の間になっていて、床の間には大きなテレビが倒れていた。
渚は飾り棚の陰に立つとカナエへ合図した。
「ホントに大丈夫かなあ?」
(大丈夫だって)
渚がうなづくと、カナエは台所で拾った欠けたガラスの小皿を、座卓のかどへたたきつけて割った。




