第26話:常時接続
現場は、小さかった。
住宅の改修。
壁を開けて、配管を見直す。
よくある仕事。
組織の任務としては、軽い。
軽すぎるくらいに。
(……軽すぎるやろ)
大輔は、現場の中を見回す。
特別なものはない。
異常もない。
ただの不具合。
(これで“至急”なんか)
一拍。
(……試されてるんか)
頭に浮かぶ。
すぐには消えない。
(それとも——測られてるんか)
続けて考えかけて、止める。
「……ちゃうか」
小さく漏らす。
自分で打ち消す。
でも。
残る。
壁を見る。
開口部。
配管。
その瞬間。
視界の奥に、何かが差し込む。
映像。
人の手。
動き。
作業の流れ。
勝手に、流れる。
大輔の動きが止まる。
「……触ってへんやろ」
確認するみたいに呟く。
何もしていない。
触れていない。
でも。
見えている。
配管を押し込む手。
無理な角度。
歪み。
ひずみ。
断片が繋がる。
自然に。
こめかみに手を当てる。
押さえる。
止めようとする。
でも。
止まらない。
(……なんやこれ)
違和感が、はっきりする。
今までと違う。
触れていない。
操作していない。
なのに流れる。
(見てるんちゃう)
一拍。
(見せられてる)
その感覚が残る。
息を吐く。
ゆっくり。
諦めるみたいに。
流れてくる映像を、そのまま追う。
断片を拾う。
繋げる。
原因。
無理な施工。
時間優先の処理。
「ここ、やり直しやな」
現実に戻す。
言葉にする。
「もう分かったんか」
担当が言う。
少し驚いた声。
「多分」
短く返す。
「早いな」
軽く笑う。
(早いんちゃう)
(流されてるだけや)
心の中でだけ思う。
現場を出る。
外の空気。
少しだけ軽い。
はずなのに。
また来る。
映像。
さっきと違う。
別の流れ。
別の結果。
重なる。
過去と。
起きなかったはずの動き。
一瞬。
自分みたいな影。
混ざる。
「……やばいなこれ」
はっきり言葉になる。
境界が崩れている。
過去。
別の可能性。
分けられない。
頭の奥で、声。
「付き合い方、間違えたら終わりや」
森川。
目を閉じる。
強く。
遮るように。
その場を離れる。
歩く。
速く。
でも。
消えない。
暗闇の中でも、流れる。
薄く。
でも確実に。
足が止まる。
「……切れてへん」
はっきり分かる。
接続が残っている。
違う。
常に繋がっている。
一瞬。
別の断片。
人が振り向く。
物が落ちる。
その直後。
現実が同じ動きをする。
わずかに遅れて。
呼吸が乱れる。
浅くなる。
(あかん)
深く息を吸う。
吐く。
無理やり整える。
意識を引き戻す。
なんとか、止まる。
完全じゃない。
でも崩れない。
部屋に戻る。
ドアを閉める。
音が消える。
座る。
何もしない。
手も動かさない。
数秒。
来る。
また。
映像。
勝手に。
流れる。
確定する。
「……勝手に繋がるようになってる」
呟く。
止めていない。
でも。
始めてもいない。
やめられない。
意思が、意味を持たない。
視界の端。
赤い点。
重なっている。
密度が違う。
増えている。
大輔は、それを見る。
動かないまま。
「……止めたはずやろ」
声が出る。
一拍。
「なんで、進んでんねん」
答えはない。
ただ、繋がりだけが残っていた。




