第25話:管理
スマホが震えた。
短い振動。
ポケットの中で、妙に重く感じる。
取り出す。
表示。
組織。
開く。
それだけ。
「至急来い」
余計な言葉はない。
理由もない。
選択肢もない。
大輔は、少しだけ画面を見つめる。
そして、ポケットに戻す。
(……分かってたやろ)
小さく息を吐く。
足は、もう向かっていた。
施設。
見慣れたはずの場所。
なのに。
空気が違う。
静かすぎる。
人の声が少ない。
視線だけが、多い。
すれ違う人間が、わずかに止まる。
見ている。
隠していない。
測っている。
(……バレてるな)
否定する気にもならない。
「こっちや」
短く呼ばれる。
案内される。
いつもと違う通路。
奥。
さらに奥。
扉。
重い音で閉まる。
部屋は、狭い。
余計なものがない。
窓もない。
閉じている。
逃げ場がない。
向かいに座っている男。
見覚えはある。
でも、距離が違う。
これまでより、上。
雰囲気で分かる。
「勝手な行動が確認されている」
第一声。
感情がない。
ただ事実を置くみたいに。
大輔は何も言わない。
視線も逸らさない。
「無断での能力使用」
「危険領域への接触」
一つずつ。
並べられる。
「事故との関連性」
そこで、少しだけ間。
「断定はしない」
付け加える。
でも。
ほとんど意味はない。
全部、分かっている。
隠れていない。
最初から。
沈黙。
重い。
逃げ場がない。
「今後——」
男が続ける。
声は変わらない。
一定のまま。
「単独行動は禁止」
「使用は許可制」
「行動ログを提出」
区切って、はっきり言う。
一つずつ。
逃がさないように。
理解する。
全部。
もう自由ではない。
「……それ、意味あります?」
口が動く。
小さく。
でも、止めなかった。
「ある」
即答。
迷いがない。
「お前一人の問題ではない」
そのまま続ける。
当たり前みたいに。
「能力は個人のものではない」
言い切る。
価値観。
「影響が出る以上、管理対象だ」
淡々と。
感情はない。
でも。
重い。
大輔は少しだけ目を細める。
(……なんやそれ)
違和感。
言葉にならない引っかかり。
「……じゃあ俺は何なんですか」
出る。
抑えきれずに。
男は、一拍も置かない。
「リスクだ」
短く。
冷たい。
空気が変わる。
一気に。
距離ができる。
はっきりと。
言葉が残る。
消えない。
「ただし——」
男が続ける。
少しだけ、角度を変える。
「有用でもある」
評価。
同時に。
利用。
つまり。
排除はしない。
でも。
自由もない。
「指示には従え」
「情報は外に出すな」
「無断使用は禁止」
条件が並ぶ。
淡々と。
「違反した場合——」
そこで、止まる。
一瞬だけ。
「処置する」
それだけ。
具体的には言わない。
だから、分かる。
沈黙。
圧だけが残る。
選択肢は、二つに見える。
従うか。
排除されるか。
(……選ばせてないやろ)
頭の奥で思う。
森川の声が、浮かぶ。
「関わらん方がええ」
(もう遅い)
分かっている。
「……分かりました」
短く言う。
それ以上は出ない。
男は頷く。
それだけ。
別の人間が入ってくる。
無言。
機器を持っている。
「手を」
指示される。
差し出す。
ためらいはない。
何かが装着される。
軽い。
でも、外せない。
皮膚に触れる感触。
「登録する」
別の声。
端末。
操作音。
番号が付く。
名前ではない。
識別。
終わる。
それだけで。
何かが変わる。
外に出る。
廊下。
空気。
さっきと同じはずなのに。
違う。
歩く。
止まらない。
外へ。
扉を抜ける。
空気が広がる。
自由に見える。
でも。
分かる。
もう違う。
視界の端。
赤い点。
はっきり見える。
前より。
輪郭が強い。
大輔は、止まる。
わずかに。
「……なんで」
小さく漏れる。
制限されたはずやのに。
むしろ、近い。
深い。
(抑えてるんちゃうんか)
(これ……)
答えは出ない。
でも。
嫌な感覚だけが残る。
スマホが震える。
また。
通知。
開く。
内容。
簡潔。
無機質。
次の任務。
大輔は、画面を見たまま止まる。
「……従えば、安全なんか?」
呟く。
一拍。
「ほんまに?」
返ってくるものは、何もなかった。




