80 活字拾いの娘、アレックを呼び出す
『ましろ』に手紙を出してもらった。
アレックにである。
どうしてかと言うとヴァンがいないからだ。せっかくお菓子を作ったのに渡すはずの人物がまだ戻ってきていないようなのだ。『ましろ』に手紙を渡しても、
「ばん、いない」
と戻ってくるのだ。『ましろ』は魔鳥だから王都周辺の街なら届けてくれるのに戻ってくるってことは、まだ戻ってきていないようだ。護衛任務でしばらく王都から離れるとは聞いていたけど、もうそろそろひと月になるのではないだろうか。半月くらいだって聞いていたのに。
アレックとの待ち合わせ場所はいつものお店『鷹の羽亭』。本当ならヴァンに黄金林檎パイとクッキーを渡して、ここのお肉を奢ってもらう予定だったのに、残念だ。どこで道草食ってるんだろうね。
「待たせたかな」
「大丈夫、今来たところ」
「ヴァンはまだなのか?」
「それがさ~、ヴァン、まだ帰ってきてないのよ」
「えっ? 遅くとも10日前には戻っているはずだろう」
どうやらアレックもヴァンの予定を知っていたらしい。アレックはこう見えて心配性だ。黒い髪をかきあげて、なんか魔法を使い出した。なんの魔法だろう。やっぱり独学の私と違って、学校で習っただけあって色々な魔法を知っている。
「ご主人様、お呼びかにゃ?』
突然猫人が現れてアレックに向かって頭を下げている。でも不思議なことに誰も猫人を見ない。こんなに目立つ登場の仕方をしたのに。
「他の人には見えないよ。この子は使役獣の『ミーヤ』。使役獣は魔力の強い人にしか見えない。まあ見せようとしたら見せることもできるが」
使役獣。そんな不思議生物も存在しているのか……。いや、そもそも『ましろ』も使役獣みたいなものだ。手紙を運ぶことしかできないけどね。
「ミーヤ、ヴァンを知っているだろう? どこにいるのか探してくれるか?」
「わかったにゃ、行ってくる」
それだけ言うと使役獣は消えた。すごい、でも私も紹介して欲しかった。あの毛並み、触ってみたい。もふもふだったよ。
「ミーヤから知らせが入ったら連絡するよ」
「ありがとう。それでね、これ、本当はヴァンに渡す予定だったんだけど、ヴァンが帰るまでには食べれなくなりそうだからアレック食べてね」
「こ、これは、まさか黄金林檎パイとクッキーか?」
紙袋の中を見てアレックは声を上げた。あれ? 見ただけでパイとかクッキーってわかるものなの?
「おい、氷菓子はどうした?」
「氷菓子? なんでそこまで知っているの?」
「いや、ローズマリアがセシル様から貰ったんだ。それでシーラが作った「お菓子」の話を聞いたんだ。実はそのことで説教をする予定だったんだが、こうして持ってきたから許すことにするか」
なんで? なんで説教? アレックの思考回路が謎すぎる。
「次は氷菓子も持ってくるように」
「溶けるから無理だよ」
「仕方ないな。俺のお古だけど、魔法鞄だ。容量は少ないが時間経過しないから氷は溶けない。これなら氷菓子も入るだろう」
革で作られた高級そうなリュック。これ売ったらいくらになるのだろうか。王都に小さい家なら買えるのでは? 私の夢、叶うかもしれない。
「おい、シーラ。売るなよ。これは氷菓子を入れるための鞄だからな」
ローズマリアさんから話を聞いて、食べたかったんだね。アレックは甘いものが好きだからね。昔、森に三人で言った時、アレックの持っていた小麦粉と卵とミルクを使ってパンケーキを作って食べたことがある。ものすごい勢いで頬張っていたっけ。
アイスクリームは火を使わないから部屋で作ることができる。魔法鞄もあるし、寮で作っても誰にもねだられることはない。
「じゃあ、あとで材料買って帰らないといけないね」
「材料は何が必要かわからないから、いろいろと鞄に入れている。道具もな」
用意周到だ。早めに作って渡したほうがよさそうだ。
本日のおすすめである、大牙猪のパイ包みと白パンを食べた。会計はアレックが払ってくれた。黄金林檎パイとクッキーのお礼だそうだ。そういえばアレックって仕事は何をしているのだろう。詳しく聞いたことなかったな。
いつ呼んでも来てくれるけど無職じゃないよね。今度会った時に聞いてみなくっちゃ。




