79 シーラはやっぱりおかしな娘 セシルside
あの時一緒におかしを作っていたメイドや調理人の誰も『あいす』という氷菓子の作り方を知らなかった。私もあの時は黄金林檎パイの香ばしい匂いが気になっていて、シーラを見ていなかった。
本当に迂闊だった。あのアイスは絶品だった。クッキーと黄金林檎のパイは一緒に作ったメイドや料理人が覚えているから再現ができたけど、アイスだけは作ることができない。
「残念だわ。ローズマリアにも食べていただきたかったのに」
「まあ、セシル、そんなに美味しかったの? その日に誘って欲しかったわ。いくらでも都合をつけましたのに」
ローズマリアが落胆した表情を浮かべている。
「あら、忙しいのでしょう?」
「意地悪言わないで。お義母様が反対しているのは活字拾いの仕事だってこと知っているでしょう? お友達の家に遊びにいくことには何も言いませんわ」
今日はどうしても読んでもらいたい本があるって ローズマリアから手紙が来たから急遽会うことになった。私も話したいことがあったからちょうどよかった。
話したいことというか食べてもらいたいものがあったというべきか。シーラが作ったお菓子はどれも想像とはかけ離れたものだった。子爵家であるガッテンでは扱いに困る。侯爵家も巻き込まなければ。
「それで? 今話していた黄金林檎パイとかクッキーとかをシーラが作ったというのは本当ですの? ぜひとも味わってみたいですわ。実はシーラが書いた『おかしのいえ』に甘いパイとかクッキーとかチョコレートとかキャンディーとかが出てきますの。お兄様にどんなものか聞いても知らないって言われて、気になって仕方ありませんでしたの」
シーラが書いた本? あの娘ったら『レミオとジュリアーナ』以外にも本を書いていたのね。気になるわ。また恋愛ものかしら。
「もしかして読んでほしい本って、その『おかしのいえ』っていう本なの?」
「ええ、そうなの。お兄様がシーラの友達と知り合いらしくて借りてきた本を写本したものなの。ぜひ読んでみて」
「ありがとう。実はシーラが書いた本をこの間読んだのだけど、あれも良かったのよ。すごく感動する本でね、恋愛ものなの」
「なんですって? 恋愛もの? でもまだ少女のようなシーラに恋愛ものなんて書けるのかしら」
「それなのよ。シーラってば賞金が目当てだったみたいで、字の書き方を変えたりといろいろと工夫していたみいだけど、同僚であるクラウスが見抜いたの。私はまさかシーラが本を書く才能があるなんて思ってもみなかったから見事に騙されてたの。すごい作品なのよ。写本しているから持って帰って読んでくれる? 感想が聞きたいの」
「まあ、それは楽しみだわ。『おかしのいえ』もなかなか面白い本だったのよ。ただおかしがどんなものかわからなくて、そこが気になってたの」
メイドが焼きたての黄金林檎パイとクッキーを持って入ってきた。匂いの暴力である。
「まあ、まあ、まあ。これが甘いパイですのね。それにクッキー! なんて美味しそうなの!」
ローズマリアが感嘆の声を漏らした。
確かに美味しい。でもこれは危険な食べ物でもある。毎日のように食べていた私は、腰回りが大変なことになっている。シーラが「美味しいけど危険な食べ物なんですよね」と言っていたのがこう言うことだったとはね。
それにしてもシーラは変わった娘だ。貴族である私たちでさえ食べたことのない「お菓子」をいとも簡単に作ることができるなんて。
どこでお菓子を知ったのか。いくら考えてもわからない。そしてローズマリアが言ったように、あの恋愛小説もよく考えたらおかしい。身分違いの恋がとてもリアルに描かれていた。
本当に不思議な娘だ。




