78 活字拾いの娘、お菓子を作る③
手伝いが多いとお菓子作りも順調に進む。
私はほとんど手を貸すことがない。作り方を伝授するだけだ。
これだとお菓子ができた時、あまり貰えないのではないか……。それは困る。
コメットが騒ぐからで作ることになったお菓子だけど、ヴァンにあげるために作ることになったのだから、ヴァンの分だけでも欲しい。
「このままでは、ダメだ……」
アップルパイは焼き窯のなかで、表面をきつね色に染め、ジュウジュウと音を立てている。香ばしい匂いが厨房に広がっていた。
「そうだ! あれを作ろう。焼きたてのアップルパイにはあれがないとね!」
ここでは私が隠れて氷を作らないでも、手に入る。さすが貴族様の厨房だよ。
材料は卵黄、粉砂糖、ミルク、生クリーム(これはなくても良いけどあったから使う)、塩、氷。
残念ながらバニラビーンズは見つからなかった。
卵黄と粉砂糖をボウルに入れて、白っぽくなるまで混ぜる。ミルクも少しづつ混ぜていく。
「まぜまぜ~~、まぜまぜ~」
退屈な時間は歌で誤魔化す。歌を歌っていれば、時間は過ぎていく。
「やだ、シーラ、今度は何を作っているの? 」
コメットは目ざとい。というか、コメットは何も手伝ってないよね。見てるだけなの?
「コメット、食べたいのなら手伝いなさいよ」
あっちこっち、ウロウロしているだけで私より役に立っていない。
「でも、私、料理はダメダメなんです~。みんなと同じように作っているのに、全く別物になるんです。孤児院でも厨房には近付くなってみんなに言われてて」
コメット役立たずだった。そういえばそんなやつ孤児院にいたな。あいつだけは厨房に近づけてはいけないって、誰かが言ってた。あいつっていうのがコメットだったとは……。
でも無理に手伝わせても、せっかくのお菓子が食べれないものになっては本末転倒だ。
「コメットは入り口で立ってて!」
危険人物は厨房から遠ざけなければ。でもこの部屋から出ていくことは嫌がるだろう。ずるい、ずるい攻撃されても煩いだけで、お菓子作りの邪魔でしかない。
「酷い、シーラ」
「ずるいの次は酷い? 入り口で立つのが嫌なら、お菓子は食べさせないよ」
「はい! 入り口に立ってます!」
コメットは急に物分かりが良くなって、入り口まで走って背筋を伸ばして立っている。ただ姿勢正しく立ってはいるが、甘い匂いをクンクンと嗅いでいる。
やれやれと思いながらも邪魔者がいなくなったので、続きに取り掛かる。
先ほどのボウルより大きめのボウルに氷と塩を入れる。その上に先ほどのボウルをのせて、生クリームを加える。
「まぜまぜ~~~、まぜまぜ~~~」
外側のボウルの氷が溶けたら、また氷と塩を追加する。固まってきたら、アイスクリームの出来上がりだ!
温かいアップルパイのそばに冷たいアイスクリーム。あっ、こっちの世界ではアイスクリームより氷菓子と呼んだ方が良いかな。まあどっちでも良いか。
はぁ。早く食べたいよ。
「あれ? でも氷菓子も焼きたてのアップルパイもヴァンは食べれない? 」
ヴァンのために作っていたはずなんだけど、自分が食べたいものになっちゃった。




