76 活字拾い娘、お菓子を作る②
本日は活字工房の休みの日だ。ヴァンは護衛ぬんむとかで王都にいない。
何故かそれを聞いたコメットが、ちょうど良いわとか言ってお菓子を作ろうと言い出した。またそれかって思ったよ。とにかくコメットはお菓子のことばかり催促してくる。だが問題がある。今の私には材料費に困ることはない。けれどどこで作るかだ。
「そんなの寮の台所でいいでしょ」
コメットはやはり考えが甘い。
「あそこで作ったら、私たちが食べる分は一口だけね」
「えっ?」
材料費は自分で出しているとはいえ、私たちは寮では新人になる。私は一年くらい住んでいるけど、私が寮に住んでから入寮したのはコメットだけだ。だから寮では逆らえない。いつもはあまり言ってこない先輩たちだが、食べものを作り出すとどこからか、わらわらと集まってくるのだ。そして出来上がると皆が、
「いい匂いがするねぇ、美味しそうだ」
と催促してくるのだ。そうこれは催促なのだ。だって皆が同じことを言ってくるのだから。
「味見しますか?」
と聞くしかない状況に追い込まれているのだ。そして味見だと言ったのに大部分が食べられてしまう。だから最近では初めからたくさん作っている。寮の人たちはヴァンと違ってお米も嫌がらない。この間作ったコカトリス丼も美味しい、美味しいと食べていた。そんな人たちが作る時に甘い匂いがするお菓子を狙わないはずがない。
「そ、そんな。材料費が高くても催促されるの?」
「味見だからね」
コカトリスのお肉は結構高い。それでも彼女らは遠慮なく食べてくれた。そして彼女らは私たちよりうんと安いお給金だから、一銅貨も支払ってくれたことはない。
そういうこともあってあまり寮では作らなくなったのだ。私もそれほど余裕がある暮らしをしているわけではないからね、そういえばコメットが入寮してから寮で作ったことなかったな。
「で、でも、だったらどこで作るのよ~」
コメットは諦めるということがないのだろうか。困ったな。
「それなら、うちで作りなさい。うちの離れの台所を使わせてあげるわ」
「セシル様、いつからいらっしゃったのですか?」
「コメットさんが寮の台所で作れば良いでしょって言ったあたりかしら。それで何を作るのシーラ?」
「おかしです。『おかしのいえ』のおかし!」
「おかし?おかしのいえ? シーラ、おかしが作れるの?」
セシルさんの目の色が変わった。
「ま、まあ、簡単なものなら」
「そう、材料も用意しとくから私の分も作りなさい」
これは拒否権のない命令だ。貴族らしい言い方だった。
明日の休みは上司の家でお菓子作りに励むことになった。




