75 活字拾いの娘、応募作品を読む?
「すごいわよ、なんと、なんと、まだ募集してからひと月しか経っていないのに何作もの作品が送られてきたのよ!」
セシルさんが朝早くから活字拾いをしている私たちの部屋に現れた。どうやら送られて来たという作品を私たちに読ませるつもりのようだ。嫌な予感しかない。
そう、パソコンのない時代、応募作品である小説は手書きである。それも原稿用紙などないから各自好きなように書き殴っている。きっととても読めない作品もあるだろう。
「こ、これは非常に読みにくいですね。どうしてこんなに小さな文字で書いているのでしょうか」
クラウスが原稿を手にして首を傾げている。多分、紙を買うお金がもったいないからだね。小さい文字なら一枚にたくさん書けるからね。
「そうなのよ~、次からは読みやすいように基準を考えなければならないわね。一行に何文字とか、紙一枚に何行とか」
ふふふ、私はそのことに早くから気付いていた。何作も送られてくる原稿。一番手にしてくれるのは(最後まで読んでくれるのは)読みやすい原稿だということに。
だから私はいつもの丸っこい文字を封印した。丸っこい文字だとバレるしね。
そう私は皆に隠れて応募したのだ。大金を得れば夢に近づく。私とヴァンの夢だ。自分たちの家を、帰る場所が欲しい。孤児院で育った私たちには自分たちだけの帰る場所がない。だからいつか家を持とうと。ヴァンは忘れているかもしれない。でも私は覚えている。そして家を買った後にヴァンに見せるのだ。きっと驚くだろうなヴァンの顔を見るのも夢の一つだ。
まあ夢だけどね。それでも一歩、一歩、前進している、と思う。
「それでね、これを読んで欲しいいの。『レミオとジュリアーナ』っていう作品なんだけど、悲恋で涙が止まらなくなるのよ~これ絶対に売れるわ」
さすがだわ。セシルさん。『ロミオとジュリエット』を真似て私が書いた小説。シェイクスピア作品なら受賞されることもあるかもしれない。あくまでも真似ただけだ。あのままだと少し堅苦しいからね。っていうか、この世界に合わない部分は変えて、読みやすいように脚色した。シェイクスピアファンが読んだら憤死しちゃうかも。
「このバルコニーのシーンが良いのよ。「あ~あなたはなぜレミオなの?」って、まあ貴族の家にそんなに簡単に入れないのだけどね。まあそこは小説だから良いでしょう。一番盛り上がるシーンだし」
セシルさんは興奮して内容を暴露している。いや読んでない人にそこまで話したらダメでしょう。いるんだよね。こういう人。推理小説の犯人を悪げなく話しちゃう人。やれやれって首を振っているとクラウスが『レミオとジュリアーナ』を手にした。字が違うからバレないと思うけど、ちょっとドキドキする。
「へ~そんなに良い作品なんですか? どんな人が描いてるんですか? えっと、ヴァン? まあ良くある名前だしな。えっ? 冒険者? それにこの住所、ヴァンじゃないか、いや、でも字が違うな。それにヴァンは小説など書かない。おい、シーラ、これシーラだろ」
なんでわかるのよ~。やっぱりヴァンの名前を使ったのがいけなかったのかな。
「えっ? よく見てよ。字が違うでしょ。丸っこくないでしょ?」
「見てもないのに、どうして丸っこい字じゃないってわかったんだ? シーラ?」
「げっ……」
その後結局、眠る時間を削って書いた『レミオとジュリアーナ』は選考対象から外された。
がっかりである。




