70 活字拾いの娘、新入社員二人に活字拾いを教える
二人の新人が入ってきて、ホッとしたのになぜか全然楽にはなっていない。
確かに漢字は知っている。でもクラウスとは違って動きが鈍い。まあ、初めから期待はしていなかったけどね。
即戦力になる新人とはいかに? もう新人とはいえないよね。だから新人というのはできなくて当たり前なのだ。
「漢字の並び方がおかしいよ~、どういう並びなの?」
「そうよ~わかりにくいわ~」
「氵と冫でわけているのよ。読み方で並べていたのだけど、漢字って読み方が変わるでしょ。だからこっちの方がいいのよ」
二人は首を傾げている。でもそこでクラウスが、
「そうそう、初めは俺も戸惑ったけど、この置き方の方が効率が良いよ」
「クラウスが言うなら、この置き方に慣れるように頑張るよ」
「うん、クラウスが言うなら」
この二人な名前は、コメットとアンリ。コメットは栗色の髪に栗色の瞳のツインテールの女の子。アンリはダークグレーの髪に灰褐色の瞳の男の子。
二人ともクラウスを慕っている。人たらしのクラウスだからね。
私が一番の先輩なのに、クラウスの指示でしか動かない。
でもまあ良い。初めて見た時、私は二人の顔を見ても思い出せなかったから。
「コメット、他にも漢字が使えそうな子はいないのか?」
「う~ん、漢字は難しいからね。少し知ってる人はいたけど、本当に少しね。幼い頃から学んでいても使っていないと忘れちゃうのよ。私たちだってシーラが王都に行ってから、セシル様が急に孤児院に現れて漢字を使えたら王都で働けるって言われて、たまたまテストされたのが知ってる漢字でよかったわ。アンリは体格に恵まれてないから冒険者にもなれないし私だって王都で働きたかったから。でも漢字って孤児院じゃあ予習も復習もできないでしょ。クラウスが教えてくれて助かったわ」
それにしても孤児院に漢字が使える人が他にもいたなんて驚きだよ。みんな隠すのが上手だよ。
まあ私も隠していたからね。ふふふ、私も隠すの上手かったってことよ。
「シーラが漢字を知っているのは気付いてたぞ。だからシーラが王都のガッテン工房に栄転した後、漢字を使える人を求めてセシル様が現れた時、すぐに漢字を使った本を作るんだなって気付いたんだ」
「ちょっと、アンリ。私、上手に隠してたでしょ?」
「えっ? あれで隠していたつもりなのか? 「おかしのいえ」って本を読んだらすぐにわかるぞ。漢字で書いた所を塗りつぶしてひらがなに書き換えてただろ」
た、確かに。パソコンと違って書き換えて消せないからね。インクを使って書いてるから、つい漢字を使って、塗りつぶすことが結構あった。それに気づくなんてアンリってすごいわ。
「そうそう、あれには笑えたわ。バレバレすぎて。私たち以外にも気付いている子いたわよ。シーラって漢字を知ってるんだなって陰で言ってたわよ」
コメットがケラケラと笑ってる。二歳も年下なのに生意気だ。
「なんで直接聞かないのよ」
陰で噂しないで聞いてくればいいのに。もちろん知らないわって答えるけどね。
「シーラはヴァンに守られてたのよ。ヴァンの手下が結構いるでしょ? 余計なことは聞けないわよ」
知らなかった。私はヴァンに守られていたのか。まさかヴァンが孤児院を出た後も守られているとは全く気づかなかったよ。




