68 活字拾いの娘、鷹の羽亭の夕飯を食べる
鷹の羽亭は少し高めの値段だけど美味しい食事とエールも美味しいと評判の店だ。王都に来た時、ヴァンに初めて連れていってもらった店でもある。
本日も皆で集まって楽しんでいる。やっぱり美味しい食事が一番だよね。
「おっ、その髪留め使ってくれたんだな」
ヴァンが私の髪を見てなんか嬉しそうだ。
「うん、せっかくの誕生日プレゼントだからね~」
なんかあの攫われ事件が終わってから、せっかくの金髪なんだから手入れしろとかどうせなら伸ばしたらどうかとか言い出したんだよね。まあ髪を伸ばさなかったのはお風呂がなかったからだから、寮にお風呂がある今は髪を伸ばしてもいいかなって思っている。この世界の成人した女性は長い髪の人が多いのだ。冒険者をしている女性でさえ長髪だ。
だからヴァンがやたらと髪の事を言い出して、洗髪液(前世でのシャンプー)と香液を贈ってくれるので髪を伸ばすことにした。
ショートボブだった私の髪も肩先に触れるほどの長さになってきた。それを見て、十六歳の誕生日にくれたのがこの翡翠を嵌め込んだ銀の髪留めだ。この翡翠本物かなぁ。結構高そうだから落とさないように気をつけないと。
「えっ? その髪留めってヴァンからのプレゼントなんだ」
クラウスが驚いた声を上げる。
「ヴァンにしては気の利いたプレゼントですね」
アレックがエールを飲みながら笑っている。アレックからの誕生日プレゼントは『蒼き森の冒険者』という題名の一冊の本だった。写本師の人が優秀なのか読みやすそうな本だった。
「それでそのコンテスト? シーナは応募できないのか?」
「そうなのよ~、従業員はダメなんだって」
「そうかぁ。惜しいなぁ。孤児院にいた頃に書いた『お菓子の家』結構面白いって人気だったのにな」
「え~、あれってシーナが書いた本なのか? 本棚に置いてあったから写本された本だと思ってたよ」
あの本を書いた時はもうクラウスは親に引き取られていたから、読んだのは親元から追い出されて孤児院に預けられていた二ヶ月くらいの間のことだろう。
「字が丸っこかっただろう? シーナの字だ」
「なんか字が気にならないくらい本の中に引き込まれてたから気づかなかった」
『お菓子の家』はいわゆる『ヘンゼルとグレーテル』をパクった本だ。お菓子を食べたくて仕方なかったから「お菓子の家があればなぁ」って呟いていたら、「なんだよ、そのお菓子の家って?」ってヴァンが言うから紙だけはたくさんあるから書いちゃったんだよね。インクはアレックがお別れの時にくれたのがあったからね。それがなかったら書けなかった本だ。
「ついでに『三匹のオーク』って言う本も書いたんだよ。それは読んでないの?」
「ああ、あれか。あれは無い」
「あれはダメだ」
「三匹のこぶた」をパクった本はあの時も人気がなかったが、クラウスからしてもあり得ない本だったみたいだ。オークが主役っていうのがダメダメらしい。
「シーナが書いた本か。読んでみたいな」
アレックが残してくれたインクで書いた本だから、アレックは読んでいない。
「あっ、それなら俺持ってるから、今度持ってきますよ」
「なんで持ってるのよ~」
「写本したんですよ、写本」
「紙は? インクは?」
「孤児院のスタッフの人が出してくれた」
なんてことかしら。私が書いたときは、たくさん紙の在庫があるのに「無駄遣いは駄目です!」って説教されたのに、クラウスにはインクも紙も出してあげるなんて。この人たらしが!




