57 活字拾いの娘、コンテストについて考える
「コンテストの名称はどんなものが良いかしら?」
セシルさんはもうコンテストを開催する気満々になっている。コンテストっていうのは馴染みのない言葉だから別の名称を探しているようだ。
「子爵の許可はいらないんですか?」
クラウスが言うようにガッテン工房の会長であるガッテン子爵の許可はいるだろう。コンテストには大金がかかるのだから。
「父様はこういうの好きだから大丈夫よ。うちには専属の作家がいないの。このコンテストっていうのは新人の作家を発掘できるってことでしょ? 素敵な作品を書く方には絶対に専属になっていただくわ」
「そうするとコンテスト名は『文学新人賞』でどうでしょうか?」
前世でも新人賞ってついてるコンテスト多かったからコンテスト名はこれで良いと思う。
「これって貴族から募集するんですよね? 漢字を使って物語を書ける人って貴族にしかいませんから」
「どうせなら両方で募集しようと思うの。ひらがなだけの作家も募集したいわ」
「いいですね~」
コンテストってことは賞金も出るはず。これは書くしかない。
「シーラ、何ニヤニヤしてるんだよ。俺たちは関係者なんだから参加できないぜ」
「え~~~~。賞金が、賞金が欲しかったのに……」
「ふふふ、本を書いて持ってくるのは歓迎するわよ。でもコンテストへの参加はダメね。だってあなたたちには審査員をしてもらいますからね」
残念だ、すご~く残念。でもたくさんの本が読めるのは楽しそう。
でもネットもないこの世界でコンテストをするにしても宣伝もなしに作品が集まるものなかしら?
そこのところが気になってセシルさんに尋ねた。
「平民の募集は平民掲示板にチラシを貼るし、商業ギルドの掲示板とか冒険者ギルドの掲示板も使うわ。貴族へは『貴族新聞』の広告枠に掲載するわ」
貴族には『貴族新聞』が発行されているそうだ。この新聞は以前は全部手書きで書かれていたそうで、年に4回しか発行されていなかったそうだ。でもガッテン工房で印刷できるようになってひと月に一回発行されるようになったとか。
めっちゃ気になるから一度読んでみたい『貴族新聞』。
「でもシーラ、本なんて書けるのか?」
クラウスが不思議そう顔で私をみる。
「いや、コンテストに参加できないから、もう書く気ないよ」
「そうじゃなくてコンテストに参加できるのなら書く気あったんだろ? それになんか賞金もらえる気満々だったじゃないか」
それは、あれだよ。盗作する気満々だっただけの話。前世で売れていた本を真似ようかなって思ったんだよ。盗作したって、この世界で知っている人がいない本だからバレることもない。グリム童話とかは世界中で愛された作品だから優秀作は無理でも入選はできると思ってニヤニヤしていただけだ。
「そうだ。セシル様、賞は優秀賞ひとつだけじゃなくて何作か選ぶんですよね」
「売れそうな作品があればの話ね。そんなにあるかどうかは募集してみなければわからないわ」
「そうですよね~、紙代やインク代もかかるから、どれだけ書いてくれるかですよね」
紙やインクは買えないほど高くはないけど、やっぱり平民である私からすると紙を買うより食べ物を買いたいってなるのよね。こればかりは仕方ないことだ。
でも昔に比べたら紙は安くなっているそうだ。ガッテン製紙工房のおかげらしい。
「やっぱり平民には無理かしら」
「平民に向けても募集するけど、ひらがなの本の募集は貴族の人が書いても良いにしたらどうですか? 貴族だからって漢字を読めるとは限らないのでしょう? イライラおじさんみたいな人もいるんだし」
「そうね。そうしましょう。じゃあ、今日の会議は終わりよ。今から父様に話をしてくるわ」
セシルさんはそれだけ言うと去っていった。私たちは今やっている本を仕上げるために活字拾いに戻った。
そして私の十六歳の誕生日である一日は終わった。
本当に特別じゃないただの普通の日だった。




