66 活字拾いの娘、十六歳になる
本日めでたく、十六歳になった私。
平民の女性は十六歳になるとちらほらと縁談が決まる。
ようやく大人になったとみなされるのだ。
でも私は十六歳になったからといって、何一つ変化はない。
この間の休みにヴァンたちにお祝いと称して夕食を奢ってもらっている。
今日はいつものように活字拾いの仕事が待っている。
そう、今日も忙しいのだ。私の誕生日は私が孤児院に捨てられた日だ。本当の誕生日はわからないけど、占いには興味がないから何も困らない。そうこの世界にも占いはある。前世の占いよりもよく当たるらしい。でも生年月日が不明な私には占いは関係ないのだ。この世界の占いには生年月日が必要不可欠なのだ。
何が言いたいかと言うと十六歳になっても何も変わらないと言うことだ。ただ一つ歳をとっただけだ。
この一年の間に作った漢字の本は10冊だ。少ないのか多いのかわからない。でももう少ししたら新入社員も入ってくるから、もっと活字拾いのペースが速くなって、どんどん本が増えるはずだ。
「困ったことになったわ」
珍しくセシル様が現れたと思ったら、会議をすると言い出した。と言っても参加者は私とクラウスとセシルさんの三人だ。会議室には初めて入った。こんな部屋があったのね。
でも三人だけならこの広い部屋でなくて、いつもの活字時ろいの部屋で良かったと思う。
椅子の座り心地はこちらの方が断然良いけどね。
「困ったこととは何ですか?」
クラウスがセシルさんに尋ねている。
「それはね、次に印刷する本を何にするかよ」
「次は今活字拾いしている本ですよね」
クラウスが言ってるように次の本は『騎士物語』で、もう活字拾いも始まっている。今更他の本への変更は困る。
「その次の本よ。今まで印刷してきた本は全部手書きで本になっている本ばかりでしょ? 手書きの本を所有している人には売れないわ。漢字は貴族にしか読めないし、他国にも売っているけど、やっぱりこの国でも販売数を増やしたいの」
確かにたくさん本を売るとしたら、新刊は大切だ。
「一番良いのは平民にも漢字を覚えてもらうことですよね」
平民の方が貴族より圧倒的に多いから平民に呼んでもらうのが一番だ。
「それが一番の解決方法だけど、一番難しいことでもあるのよ」
「どうしてですか?」
「文字を教えるのは幼い頃が一番覚えやすいものなの。でも平民は幼い頃から家族の手伝いなどで忙しいでしょ? 強制もできないし、国家が取り組んでくれなければ無理なの」
「別に禁止されているわけではありませんよね?」
前世にあった寺小屋みたいなのがあったらいいのにね。でも漢字を使っているのが貴族だけだから今のところ誰も困っていないのに国家が漢字を習えとは言わないだろう。
魔法に漢字を使えることから禁止されているのかもしれないと思った。でもそれならもっと管理を厳しくしているだろう。
「う~ん、だったら自分たちで新しい本を書くしかないですね」
本がないのなら書いたらいいんだよ。
でも私としいては漫画が読みたい。小説も良いけど漫画が読みたい。漫画なら漢字じゃなくても良い。ひらがなで良いのなら、平民に漢字を覚えさす必要もない。
「まんがってなんだ?」
クラウスは相変わらず私の考えていることがわかる。どうやらそれは双子の片割れであるコンラートと私だけの限定らしい。拉致監禁事件が終わったとに追求したらそう言っていた。双子との間にはたとえ離れた場所にいてもお互いの感情や思考、身体感覚を感じ取れると前世でも言われていた。テレパシーみたいなものだ。でも私は彼らとは三つ子だったわけでもないからなんお関係もない赤の他人だ。でも、魔力と一緒で感情も垂れ流しているもかもしれない。それを繊細なクラウスが感じとっているのかもしれないってヴァンが言っていた。
「漫画わね~絵と文字でつかられる本なの」
「絵本のことか?」
「絵本と違って絵の割合が多いのよ」
「絵かぁ。絵はな~無理だろう。印刷するのが難しそうだ」
「あ~それがあったかぁ。漫画家を探すより、印刷方法を探す方が難しそうだよね」
「でもそのアイデアは参考にしたいわ。絵については印刷方法を研究しているの。いずれはそのまんがって言うのも印刷できるようになるかもしれないわ。でも今は作家を探すのが優先よ」
「コンテストを募集したらどうですか?」
「そのコンテストってなに?」
「小説を募集するんですよ。賞金とか用意したら集まるかもしれませんよ。貴族でもお金がない人もいるでしょ?」
前世にあった小説募集のコンテストを提案してみた。
「いいわ、それ! それにしましょう!」
セシル様は目を輝かせて手を合わせると、すごく喜んでくれた。




