65 王宮に招待された二人 ヴァンside
どうして王宮に招待されたのかわからない。
ガッテン伯爵からは失礼にならない服装を着てくるようにとしか言われていない。
王宮に呼ばれたからと言って、王族に会うとは限らない。なのにどうしてこんなに不安なのだろう。
「とにかく失礼のないように。話はなるべく私がするが、おそらく質問されるだろうから素直に答えるように」
やはりおかしい。この間の悪人を成敗した時の労いだと聞かされていたが違うのではないだろうか。
案内された部屋に入ると二人の男がいた。一人はシーラと同じくらいの年齢の少年だった。だがオーラが違う。気品がある。黄金を溶かしたような金髪と宝石のような青い瞳。シーラと同じ金髪なのに輝きが違うな。
「初めまして、ヴァン。久しぶりだな、ガッテン」
「お久しぶりでございます王子」
どうやら偉そうな少年は王子様だった。この年齢だと第二夫人の子供のはずだ。だが彼は名乗らなかった。
「それでシーラは無事だったのだろうね?」
突然シーラの名が出て驚いた。確かにこの事件はシーラが関わっているが、それならクラウスの名も一緒にでているはずだ。だがガッテン子爵はその質問に驚くこともなく答えている。
「はい、このシーラの幼なじみで冒険者のヴァンが傷ひとつつけずに救助しました」
「そう安心したよ。ところでこの件は本当にその男の単独犯で間違いないのだろうね」
「私が聞いた限りでは間違いないでしょう」
「ヴァン、君もそう思うか?」
「はい、シーラだけでなくクラウスのことも恨んでいたようなので、王都への栄転を恨んでの犯行で間違いないでしょう」
頭の中ではもっと他のことを質問したいが、不敬になるのでできないもどかしさを感じていた。
「そうか、それなら安心だ。シーラには普通の生活を送って欲しいからね」
「シーラはうちの工房で活字拾いをしておりまして、うちの娘と漢字を使った本作りに励んでいるようです」
活字拾いは職業だから、励んでいると言うのはおかしな言い方だが間違いので何も言うまい。王子相手に話などできない。シーラに対しての言葉は気になるがそのことは後でガッテン子爵に聞けば良い。子爵も貴族だが王子相手よりは聞きやすい。
「ふふ、本作りか。楽しそうだな」
全くシーラと似ていない王子なのに、その笑顔がなんだかシーラの笑顔と被った。不敬だな。あのぽやっとしたシーラと似ているなんて、不敬すぎる。
そのあとは世間話を王子とガッテン子爵がして終わった。
王宮から馬車で送ってくれた。
王家の馬車は豪華すぎる。この椅子の柔らかさ。シーラが座ったら大騒ぎしそうだ。
「どうして王子がシーラのことを?」
「そのことは誰にも言わないように。そして探ることも禁止だ。それがシーラの安全のためだ」
気にはなるが何もするなと言われた。これ以上聞いても答えてはくれないだろう。
「報奨金だ。私からと言うことになっているが、王子からだ」
「ど、どうしておう……」
「何も聞くなと言っただろう」
「何も聞くなと言うのなら、どうして今日自分は呼ばれたのですか?」
「……、王子の気まぐれだろう」
気まぐれか。まあ、もう二度と会うことのない王子のことを気にしていても仕方ないか。しかも俺は王子だと名乗られたわけでもない。
それよりこの報奨金でシーラに飯でも奢ってやろう。喜ぶだろうなあいつ。




