64 活字拾いの少女、悪人を成敗したその後
本日私とクラウスはガッテン子爵の家に招かれた。
私たちを呼んだルークス・ガッテンは王宮に急遽招かれただとかで現れなかった。
人を呼んでおいて何事かって怒る人もいるかと思うが、実のところホッとした。前世でいえば平社員がいきなり社長の家に招かれるようなものだからね。できれば避けたいよ。
「ごめんなさいね、せっかく招待したのに申し訳ないわ」
セシル様が申し訳なさそうな顔で私たちに謝った。
この世界に来て初めて座り心地の良い椅子に座っている。この世界にもこんな素敵な椅子が存在していたのね。職場にもこの椅子が欲しいわぁ。
ああ、でもこの椅子に座っていたら、眠たくなるかもしれない。
「おい、シーラ寝るなよ」
最近のクラウスは生意気だ。先輩呼びもなくなっている。
「寝ないよ」
「ふふふ、仲良くなったのね。同じ孤児院出身とはいえ心配していたのよ。クラウスはここ数年は貴族として育っているでしょ? 威圧的になってシーラがいじめられないかと思って」
「セシル様、それだけはないですよ。俺もシーラと同じ平民ですからね。それにシーラの方が強いですから」
「まあ、シーラの方が強いの? クラウスはおかしなこと言うのね」
セシルさんはクラウスが冗談を言ったと思ったみたいだ。でも私の方が強いのは本当の事だ。
またクラウスが余計なことを言わないように、ガーラさんのことを聞くことにした。もう活字先生とは呼ばない。
「それでガーラさんはどうなったのですか?」
「そうね。鉱山で働くことになったわ」
一応この世界にも裁判のようなものはあるけど、それは主に貴族に使われるもので平民には滅多なことで使われることはない。と言うのも平民には裁判費用が払えないからだ。悲しいことだけど一方的に刑が執行されることになる。今度は冤罪でもなんでもなく現行犯で捕まえたのだから、すぐに裁かれたようだ。
「家族はどうなるのですか?」
家族には罪がないけど、一家の大黒柱を失って困るのではないだろうか。
「それがねガーラは王都で働けないから離縁されそうだって言ってたけど、そうも違うようなのよ」
「えっ? そうなんですか?」
「奥さんから直接聞いたから間違いないわ。ガーラとは本好きの二人が出会って結婚したと聞いていたのだけど、ガーラは本好きではなかったのよ」
「ええっ? でも図書室でよく本を読んでましたよ」
「奥さんとの話題作りのために読んでいたのね。健気ではあるけど、本当の本好きとは違うから奥さんは結婚してからすぐに気づいたようなの。束縛も酷く、少し人と話をしただけで怒鳴る時もあったらしいの。酷い時は叩かれてたそうよ。それでガッテン街への異動の話がでた時に別れを切り出したのね。でも別れたくなかったガーラは、冷却期間をおこうって言って逃げたのね。時間が経つうちに自分の都合の良いように物語を作っちゃったのね」
そうだったのか。そもそ嘘をついていたから、その嘘がどんどん大きくなっていったんだね。
かわいそうな気もするけど、女の人を叩いたりしたらダメだよ。
「それじゃあ、奥さんは実家で暮らしていたんですね」
「もう離縁していたようなものだったってわけ。でもガーラは律儀に仕送りはしていたようなの。こんなことをしでかさなければ、また復縁することもあったかもしれないのにね」
ガーラさんは決して悪い人ではなかった。でもそんなものかもしれない。人生を踏み外すのはたった一度の選択を間違えただけで大きく道を外れることになるのだ。
「それでこれは迷惑料として私の父から渡して欲しいと言われたの」
私とクラウスは目を丸くした。まさか迷惑料をガッテン子爵からいただけるとは思っていなかったからだ。もちろん私たちは有り難くいただいた。遠慮なんてしないよ。
でも気になることがある。口にしようか悩んでいるとセシルさんが笑った。
「シーラは何を考えているかすぐにわかるわね。ここにいないヴァンさんのことね。彼も王宮に呼ばれたみたいね。もちろんC級冒険者であるヴァンさんのおかげで事件が解決したのだから、彼には父の方から「報奨金」を渡すことになっているわ」
「「ありがとうございます」」
私とクラウスはセシルさんにお礼を言った。
「本当に二人が無事でよかったわ。明日からも本作りの方をお願いね」
「「はい」」
大変な事件に巻き込まれたけど、明日からはまた日常に戻る。
やっぱり冒険より、平穏な暮らしが一番だよね。




