63 活字拾いの少女、悪人を成敗する④
「ヴァン、待ってたよ!」
私は大声をあげて、ヴァンに向かって手を振る。
『シーラ、シーラ』
ましろもヴァンの真上に飛んでいた。自分もいるよって言ってるみたいだ。
「うん、うん。ましろも待ってたよ!」
私が応えると、ましろが嬉しそうに私の頭上まで飛んできた。
「犯人は活字先生だったよ」
私の近くまで走ってきたヴァンにボソッと伝える。
「イライラおじさんじゃなくて、シーラがいつも良い人だって言ってた活字先生が犯人だったのか」
そうなんだよね。人を見る目がなさすぎたよ。
「なんだ、なんだ。どうして冒険者が現れるんだ?」
悪人どもが騒いでいる。活字先生はいつの間にか、悪人たちの後ろに隠れている。
「おいこっちには十人いるんだぜ」
「そうだ武器を捨てろ冒険者。俺たちの狙いはその二人だけだ」
「そうだぞ、冒険者。たまたま通りかかっただけであろう。見なかったことにすれば良い。多勢に無勢。勝ち目などないぞ」
活字先生が悪人どもの後ろからそんなことを言ってる。でも心なしか声が震えているね。
ならずものと冒険者。どちらが強いかなんて、見る人が見ればわかるはず。
ちなみにクラウスはC級冒険者。そろそろ昇給するとかって言ってたから、かなり強い。
それにしても活字先生、私たちの会話から知り合いだって分かりそうなものなのにたまたま通りかかっただけであろうって、もっと賢い人だと思ってたのに。
「シーラ、もうやっつけちゃって良いか?」
「どうそ、そうぞ。結界魔法使っているから、こっちの心配はしないで良いよ」
「了解!」
血は見たくないけど、手加減してとかは言わない。相手は十人以上いるのだから手加減なんかしていたらこっちの命が危なくなる。
こっちの世界の命はすごく軽いからね。
B級のちかいC級冒険者であるヴァンは強かった。それにヴァンは私ほどではないけど魔法も使えるのだ。
あっという間に十人ほどいた、ならずものはやっつけられた。
その中に活字先生もいた。
「シーラ、こいつらどうする? 憲兵に突き出すのか?」
「えっ? 生きているの?」
「こう言う奴らは意外としぶといからな。生きているだろ」
活字先生はガッテン工房の活字長なわけで、捕まえても大丈夫なのだろうか。いや悪いことをしたのだから捕まえないといけないんだけど。
「ここはセシル様に任せましょう」
「うん、それが良いよ」
クラウスもセシルさんに任せ流方が良いと思っていたようだ。
ヴァンが悪人を成敗している間に、ましろを使ってセシル様を呼んだからすぐに現れるはずだ。
もしかしたらもみ消すかもしれないけど、それはそれで仕方がないことだ。
けれど心配は無用だった。
セシル様は憲兵を引き連れて現れた。もみ消す気はないようだった。
「シーラ、クラウス、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「まさかガーラ活字長がこんなことをするとは思わなかったわ。仕事も真面目だし部下にも優しいから来年には王都の方へって話も出ていたのに残念ね」
活字先生の名前はガーラだったようだ。
「そうなんですか? どうやら私たちが王都に異動になったのが不満だったみたいなんですよ」
私はセシルさんに、王都の方に妻子がいて、離縁されそうになっていることも話した。
「そんな理由でこんなことをしでかしたの? 同情の余地もないわね。王都に栄転させる前にわかってよかったわ」
セシルさんは呆れた顔をして、気絶しているガーラ活字長を見ていた。
ガーラ活字長はこれから罪を償うことになる。おそらく妻は離縁するだろう。悪いことをする前に冷静に考えることができていれば、馬鹿なことだと気づけたはずなのに残念なことである。




