62 活字拾いの少女、悪人を成敗する③
「活字先生、それは安易な考えですよ。俺たちがいなくなったところで、先生が王都に行けるとは思えません」
クラウスが言う通りだよ。でもそれは言っても怒らせるだけだよクラウス。
「な、なんだとぉ! 俺を馬鹿にしているのか?」
ほら怒り出した。それにしてもクラウスも先生の名前覚えていないのかな。
「いや、俺は知らないだけだ。自分で活字先生と名乗ったのだ、この男は」
なんと! 活字先生って名前、気に入ってたんだね。活字先生は本が好きで、それで本が関わるガッテン工房に就職したと聞いたことがある。先生の奥様も大の本好きで、それが縁で結婚したのだとか。活字拾いを一緒にしていたおばさんたちが噂していたのを聞いたことがある。でもまさか単身赴任していたとは知らなかった。
「活字先生、そもそもなぜ王都に家族を置いていたのですか? ガッテン街で一緒に暮らしていればよかったんですよ」
やっぱり遠距離恋愛は前世でも破綻していたもの、この世界にはスマホもないのだから結婚していても破綻するに決まってる。
「それは、彼女は大の本好きだから王都以外では暮らせないと言われたのだ。王都には図書館があるからな」
なんですと!図書館? 図書館があるの? 知らなかった。ヴァンはなぜ教えてくれなかたのだろう。ああ、そうだ。私が聞かなかったからだ。だってまさか図書館があるなんて思わなかったから。
「それは、確かに奥さんが王都から離れたくない気もちもわかりますね。だったらそもそも王都に勤めていたのだから、ガッテン街への異動の話が来た時断ったらよかったのでは?」
「栄転だったんだよ。給料も上がるし妻も喜ぶだろうと思っていたのに、まさか図書館を理由に断られるなんて思わなかったんだ」
まあ普通そうだよね。図書館を理由に断る妻はいないよね。でも私は奥さんの気持ちがわかるよ。だって前世と違って本をどこでも読むことができないこの世界。ガッテン工房でどんどん本が作られるようになるからこの先、どんどん本が増えていくだろうけど、それはまだ先の話だ。
「それで俺たちがいなくなればって思ったのか。だがさっきも言ったが俺たちがいなくなっても活字先生が王都へ異動になるかは分かりませんよ」
「クラウスの言う通りですよ、活字先生。私たちは漢字が使えるから王都に異動になったんです」
「漢字だと? なぜお前たちが漢字を知っているんだ。俺と同じで、お前たちも平民だろ。孤児院出身なんだから」
どうやら漢字を使えないようだ。もし使えていたら私より活字先生の方が先に王都に異動になっていただろうに。
「私たちはガッテン孤児院出身ですよ」
クラウスはそれだけでわかるだろうと活字先生に言っているけど、それだけでわかるとは思えない。
「ま、まさかあの噂は本当のことなのか?」
でもなんでかそれだけで通じたようで活字先生が驚いている。
「どんな噂か知らないけど、その噂は本当のことだ」
クラウスが肯定すると活字先生は目を瞬かせる。
「そ、そんな。俺は貴族に手を出したのか。いや孤児になっているのだから貴族ってわけじゃないよな。大丈夫。大丈夫。そ、それにばれなければ良いのだ」
なんだかとっても悪い顔になっているよ、活字先生。
「ちぇっ。これで諦めてくれるかと思ったのに。ダメだったか」
クラウスは貴族に関わりたくない平民の心情に訴えればなんとか争わずに解決できるのではと考えていたようだが駄目だった。バレなければって言ってる活字先生は悪人顔になっている。
それに活字先生の後ろにいる男たち。昔ガッテン街で私を攫おうとしてた男たちと同じものを感じる。
「おいおい、旦那。早くしてくれよ。顔が良い成人したての男女。高く売れそうだ」
「ひひひっ。早くその顔を拝ませてくれよz~」
なんか柄が悪い。すごく悪い。活字先生は私たちをこの男たちに売るみたい。読書好きなのに悪い人だったなんて、すごく残念だ。
「【結界】」
もう活字先生とは理解し合えないことがわかった瞬間に、クラウスの手を強く握って結界魔法を展開した。
その時、遠くから声がした。
「まっった~~~」
それはヴァンの声だった。ヴァンが助けに来てくれた。




