6 活字拾いの少女、梯子から落ちる
梯子はとても便利だ。でもちょっと怖い。
この世界の梯子は木で作られている。上るたびにギシギシと音が鳴るのだ。その音が嫌いだ。
それでも梯子がなければ活字を拾うことができない。
「おいシーラ。できたのか?」
活字を拾っていると声がかかる。
今日の活字長はイライラおじさんだ。ちゃんとした名前があるのかもしれないけど、みんな活字長って呼んでいるし、私と初めて会った時も自己紹介もなかったから名前がわからない。だから勝手にニックネームをつけて頭の中ではそう呼んでいる。活字長は数人いて、私みたいな子供にも丁寧に話しかけてくれる活字長は活字先生。三人目の活字長はチャランポランお兄さんだ。なんか真面目に仕事してないんだよね。
それにしても今日は運がない。よりにもよってこういう時にイライラおじさんに当たるなんて。
「あの、梯子の調子が悪いのですが」
そう今日の梯子は音がひどい。その上私が乗るだけでグラグラ揺れるのだ。
「梯子だと? これだからチビを雇うのは反対したんだ!」
梯子は他の人も使っている。背の低い私が使う方が多いのは確かだけど、私だけが使っているように言われるのはどうかと思う。
「でも上にある活字は梯子がないと他の人も取れないです」
「これ以上文句を言うなら、クビしたっていいんだ。時間がないんだ。早く集めろ」
やれやれだよ。今クビになるわけにはいかない。仕方ないな。怖いけど活字を拾うとしよう。
まあ私はおばさんたちと違って、羽のように軽いから大丈夫でしょう。
「はーい」
「ちっ、ふざけた返事をするな」
イライラおじさんはぷりぷりしながら自分の定位置である机に戻る。
どうも今日の活字は急ぎらしい。なんか今日は集める活字がいつもより多い気はしていた。
私としては多い方が稼げるから問題なかったんだけど、梯子の調子が気になって、イライラおじさんが確認しにくるくらいいつもより時間がかかっていた。
「ふふふん。よし最後の活字だわ。あ~、一番上にある『き』か」
梯子を移動させて登る。
「ギシギシ~羽より軽い私を乗せて~」
小声で歌を歌いながら梯子を上る。怖いのを歌で誤魔化して上る。が、やっぱり羽よりは重かったらしい。
「グシャ!」
「ガタッ!」
「バタン!」
魔法を使う間もなかった。突然落ちた衝撃か、足を痛めたようだ。治癒魔法を使うべきか悩んでいたら、
大きな音を立てたからか、
「「大丈夫か?」」
「「大丈夫?」」
「おい、活字を落としてないだろうな!」
人が集まるのが早い。これでは魔法で治せない。
最後のはイライラおじさんだな。
「活字は大丈夫です」
そう咄嗟に活字を守ったのだ。そのせいで足を痛めてしまった。
活字を壊すと給料が減っちゃうからね。
「梯子が壊れているではないか。これは給料から引くからな」
「待ってください。梯子は壊れかけてるって言ったはずです。それでも使えって言ったのはイライラおじさんです」
「口答えとはいい度胸だなシーラ。それにイライラおじさんとはなんだ」
あれ? イライラおじさんって言っちゃったの?
日頃から頭で思っていたから、弁償とか言われて焦って出ちゃったのね。
「シーラ、足が赤くなってるわよ。早く冷やした方が良いわ」
おばさんAが余計なことを言ってくれた。心配してくれてるんだろうけど、これでは怪我していることが誤魔化せないではないか。
「本当ね。これはしばらく働けないわね」
「明日には治ってます。大丈夫です」
私は必死に大丈夫アピールをするが、だんだんと腫れてくるのがわかる。
「これは腫れてるな。よし、もう帰れ。邪魔になるだけだ」
イライラおじさんは、シッシッと手を振って追い出しにかかる。
これ以上怒らせるわけにはいかない。本当にクビになってしまう。
痛くもない足を引きずりながら、職場を後にした。




