5 活字拾いの少女、幼なじみと食事をする
王都で冒険者をしているはずの幼なじみのヴァンが帰ってきた。
その時の私は、ガッテン工房での活字拾いの仕事を終えて、トボトボと家路へと足を向けている時だった。
「よう!」
ヴァンの青い髪とグレーの瞳は一見すると冷たい印象をあたえるが、私にはその瞳の奥にある優しさがわかる。だって幼い頃からいつも彼に助けられてきたのだから。
「ヴァン! 戻ってきてたの?」
二ヶ月ぶりの再会だ。嬉しくて抱きついていた。
「おう。こっちに来る商人の護衛だよ。三日くらいここにいる」
幼い頃とは違って、体格の良くなったヴァンは難なく私を抱き止めてくれる。昔は支えきれなくて、一緒に倒れていたのにね。
「宿はどこにしたの? うちに泊まる?」
「宿は商人がとってくれてるよ。鷹の羽亭だ」
「あそこの食事は美味しいって聞いたよ」
「そうか。じゃあそこで一緒に食べるか。奢るぜ」
「やった~~」
「ふーん。じゃあガッテン活字工房は、前に聞いた時と一緒で良い職場なんだな」
鷹の羽亭の夕食は噂に違わず美味しい。私はワイルドボアのシチューと森の木の実のサラダと青葡萄のジュースでヴァンはワイルドボアのステーキと白麦パンにエール。
「そうよ。活字を拾えば拾うほど貰えるお金も増えるの。こんなに良いところってないわ。それに図書室もあってあそこで働く人は、そこに置いてある本だったら好きなだけ読めるの」
「拾えば拾うほどって、拾えなかったら給金がないってことだろ。大丈夫なのか? 」
なんでかヴァンが呆れた顔をしてるけど気にしない。兄のようなヴァンがこんな顔をするのはいつものことだ。
ワイルドボアの肉はよく煮込んでいるのか、口の中で蕩ける。次はいつ食べれるかわからないんだからよく味わって食べないと。
「まあ、社員じゃないから食堂の利用はできないとか色々と差別化はされてるけど、これは仕方ないよ。保証人がいないからね」
これは日本でも似たようなものだろう。この世界が特別なわけじゃない。
「俺が冒険者じゃなかったら保証人になれるんだが……」
ヴァンがエールを飲みながら愚痴っている。
ヴァンは孤児院を出た後冒険者になった。彼も私と同じでどこからも引き取り手がなかった。就職は男ということもあって色々とあったようだが、それら全てを蹴って冒険者になった。昔からの夢だったのだ。
しかしヴァンが言うように、冒険者は死と背中合わせってこともあってか保証人にはなれない。
ヴァンは若いながらも今ではC級冒険者。20歳になる頃にはB級になれるだろうと言われている。B級までいけば保証人になれるそうだ。
「ああ、そういえば王都にもガッテン工房があるみたいだが、あっちに引っ越さないか?」
「王都だと物価が高いから活字拾いだけじゃあ生活出来ないんじゃないかな」
「そうかぁ。こっちにはなかなか来れないから心配なんだ」
ヴァンは心配性なんだ。私は仕事も良好だし心配されるようなことないと思うんだけど。
どちらかというと冒険者やってるヴァンの方が心配だよ。
「本当に大丈夫なんだな。 あれ使ってないよな」
あれとは魔法のことだ。周りを気にしてか、声が小さくなっている。
「だ、大丈夫、大丈夫。使ってないよ。家ではちょこちょこ使ってるけどね」
「おいおい、大丈夫なのか?」
「孤児院と違ってアパートの中では私しかいないんだから大丈夫。お米の精米とか、冷めてある食べ物を温めたりとかしかしていないよ。今のアパート、台所が共同なのが難なんだよね。仕方ないから一気にたくさんごはんを炊いて、温めて食べてるの」
「一気にって、腐ったりしないのか」
「それは大丈夫。冷蔵庫があるから」
「ちょっと待て、冷蔵庫ってなんだ? お貴族様の家にしかないあの冷蔵庫じゃないよな」
「えっ? お貴族様の家には冷蔵庫があるの?」
「知らなかったのか。じゃあなんでシーラのアパートに冷蔵庫がある? まさかアレックか? アレックに会ったのか?」
「まさか、アレックとは彼が孤児院を出てからあってないわ。家族(貴族)に引き取られたのだもの。もう会うことなんてないわよ。そうじゃなくて彼と一緒に魔法の練習したでしょ。漢字魔法の使い方」
「ああ、あれか。魔法が暴走したら大変だから基本は覚えた方が良いってやつ」
そうこの世界の魔法は漢字を知らないと使えない。もちろん魔力も必要だ。でもそれだけで魔法が使えるわけではない。その証拠にヴァンにも魔力があるけど、漢字を書かせて魔力を流したけど発動しなかったのだ。
私はその時まで、漢字に魔力を流しているつもりはなかった。そういうとアレックは、私の魔力が多いから漏れているのだろうと言った。
魔力が漏れているって何?
怖いじゃない。と言うことで漏れないようにする方法も習った。アレックは幼い頃から家庭教師に魔法を習っていたそうだ。
アレックのおかげで私たちは魔法を使えるようになった。とはいえ、孤児なのであまり目立ちたくない。だから魔法は使えないことにしている。平民は基本的に魔法が使えないからね。
「冷蔵庫といっても丈夫な箱に結界を張って、氷魔法で氷を作って入れてるだけよ」
「またそんな高度なことを。俺なんてアレックに一緒に習ったけど、できるのはちょっとした風魔法と水出すだけだからな。普通そんなものらしいぞ。冒険者のB級とかA級になるやつは多少魔法が使えるんだ。大抵貴族の三男とか四男みたいで、一応学院で魔法を習っている。それでも俺とそう変わらない程度の魔法だったよ」
ヴァンは漢字を理解していないから、私ほどには魔法を使えてない。私も漢理解しているかって聞かれると疑問なんだけどね。だって日本人として漢字は普通に使っていたけど理解?ってことになるとよくわからない。
だって漢字は普通に読むことはできたけど、難しい漢字だと書けるか不安。スマホによる弊害ってやつだよね。
本当に便利な道具だったよスマホちゃん。
「店員さん、この黄金りんごの砂糖がけお願いします」
「おい、奢りだからってそんな高いものを……」
「まあまあ、これが美味しいって話してる人がいて食べたかったんだよ」
「同僚か?」
「同僚っていうのかな? 活字拾いしているおばさまたちが話していたのが聞こえただけ」
活字拾いはおばさんが多い。育児が終わって暇ができた人が短時間働くのにちょうど良いみたい。
おばさんって呼んだらおばさまって呼びなさいって言われたんだよね。
「そうか。うんうん。わかった。店員さんそれ二つお願いします」
「そんなに食べれないよ」
結構高いから、流石に二皿も頼めない。
「ばか。俺が食べるんだよ」
ヴァンはそう言って頼んだけど、結局私が二皿食べた。ヴァンは昔から甘いものは私にくれる。甘いものは好きじゃないってね。




