56 活字拾いの少女、拐かされる②
「犯人はクラウスだった!」
大事なことだから声に出して言ってみた。
「誰が犯人だよ! 俺も攫われてるだろ。ほら腕も足も縄で括られてるだろ」
声でわかるクラウスがめっちゃ怒っている。でも暗いから見えないんだよね。
私の腕も括られているのか、動かせない。足は動くけど、真っ暗だしどうするかな。
「クラウスも拐かされちゃったの?」
まあクラウス、弱そうだもんね。昔っから部屋で本ばっか読んでたし。
なんでクラウスが護衛って思ってたんだよ。
ガッテン孤児院には、ガッテン工房で失敗した本とかが置かれていた。乱丁とか落丁とかした本が置かれていた。でもこれって直す人いるんだよ。すごく上手に直してたから、たぶん好意で孤児院に持ってこられていたんだなって今では思う。
「今失礼なこと考えてただろ。知ってる人だったから油断したんだよ」
「クラウスが知ってる人だったの?」
おかしいなぁ。イライラおじさんは製紙工房に異動になったんじゃなかったっけ?
クラウスは活字拾いをしてたって言ってたから、イライラおじさんとは会ってないと思ってた。
それにイライラおじさんは辞めたんじゃなかった?
「うん。穏やかな人だって思ってたから、今でも間違いじゃないかって気がしてる」
穏やかそうな人ってことはイライラおじさんじゃないね。
「誰だったの?」
「名前は、なんだったかな。活字長って呼ばれてたから名前は知らない」
ん? 活字長? まさか活字先生じゃないよね。
「ああそういえば、お姉様方が活字先生って呼んでたな。なんで先生なんだろうって思ったんだよ」
お姉様方? そんな人たちいたかしら? おばさんたちのこと?
私が心の中で呼んでたの、みんな知ってたの?
心の中の声が漏れてたのかも。
もしそうだとしたら、活字先生が犯人ってことになる。いや、まさかだよ。
あっ、でも、図書室で会ってたのも活字先生だった。あの後拐かされたっぽいから怪しい気もする。
「なんだって? 図書室にいたのか? 俺を攫ったあと、図書室で待ち伏せしてたんだな」
また心の声が漏れていたようだ。
「待ち伏せ? いや本を読みたかっただけじゃない? 真剣に本読んでたよ、活字先生」
最後に見た活字先生は本を読んでいた。
「油断させるためだろう。活字先生が犯人で間違いない」
はぁ。活字先生が犯人だとは。本好きな人に悪い人はいないって思っていたのに、残念だよ。
「それでここはどこなの?」
「たぶん馬車の中だ」
「真っ暗だよ、夜なの?」
「いや、この馬車はガッテン工房の馬車だ。ガッテン街と王都を繋ぐ馬車だ」
ガッテン工房の馬車は見たことがある。ガッテン街で作った紙を王都に運ぶための馬車だ。王都からはインクを運んでいると聞いた。
私がそう言うとクラウスが首を振った。
まだ暗いのは変わらないんだけど、目が慣れたのかクラウスが見える。うっすらだけど、彼が言うように、縄で括られている。
「インクとかじゃないよ。確かにそれも運ぶんだけど、俺はこの馬車に乗ったことあるんだ。この馬車でガッテン街の孤児院に運ばれたからさ」
なるほど、そういうことか。小さな子供たちがおとなしくガッテン街まで連れてくることが出来るだろうかって思ってたんだよ。嫌がって泣く子だっているだろう。人攫いと思われる可能性だってある。
「この馬車、大声だしても外に聞こえないんだよ」
「なるほど、じゃないよ。じゃあここで騒いでも誰も助けてくれないってことじゃない」
「まあ、そうなるな」




