52 活字拾いの少女、活字拾いで勝負する
今日も活字拾いのお仕事を地道にコツコツとしている。
『白銀の竜と契約の魔法使い』の本はあと少しで完成しそうだ。
「ふん、ふん、ふふふ~」
いつものように活字を拾っていると、
「あ~~~~、もうシーラ、それやめて」
と叫び出した。先輩が抜けているがまあ良い。
「どうしたのよ。何を止めるの?」
「だから、その、鼻歌だよ。気が散って間違えそうだよ」
嫌だね~、人のせいにして。私は知っている。
なぜ、クラウスがイライラしているのか。
「わ~~! シーラ先輩、変わってください。もう限界です」
丁寧な言葉でお願いされるけど、できることとできないことがある。
「クラウス、何事も慣れよ」
今日のクラウスの仕事は組版である。活字拾いで文選箱に入れた活字を植字する。鏡文字の活字を並べる作業はとても大変な作業だけど、クラウスは私との勝負に負けたのだからやるしかない。
「悔しい、活字拾い勝負、次は負けないからな~」
そう人気のない組版をどちらがやるかで揉めていたら、
「どちらが活字拾いが上手か勝負で決めましょう」
と久しぶりに出社したセシルさんの提案で『活字拾い』勝負することになった。
活字拾いを始めたばかりのクラウスと私の勝負は、私の圧勝だった。
でも運動神経は圧倒的に負けてるから、時間が経てばどうなるかわからない。組版は慣れたらそれほど大変じゃないよってローズマリアさんが言ってたから、クラウスが早く慣れてくれるといいなって思う。
「この作業が終わったら、『白銀の竜と契約の魔法使い』の本が出来上がるのもあと少しね。印刷はほとんど終わっているから、製本工房の方にまわせばあっという間に本になるわ」
セシルさんが嬉しそうだ。クラウスを手伝うのかと思っていたけど、手伝う気はなさそうだ。まあ今日のネイルは時間がかかってそうだから、手伝えないよね。
「これもしかして、表紙ですか? 綺麗な絵ですね」
クラウスの声に私は活字拾いをしていた手を止めて振り返る。
表紙? 絵? 活字工房にある図書館にある本も製本されている。でもどの本にも絵はついていなかった。
もしかして絵の印刷ができるようになったのかな? だとしたら挿絵もあるのかも。
私はいそいそと組版をしている机の上にある本の表紙になるだろう厚い紙を見る。
「うわ~、この絵の竜、クラウスみたい」
表紙になるだろう絵には白銀の竜が描かれていた。いやインクはカラーじゃないから白銀で描かれているわけじゃない。それなのに白銀だって思わせる何かがこの絵にはある。
「どうしてそうなる。これどこからみても竜だろ。どこが俺なんだよ」
クラウスの髪は白金だ。白銀じゃないんだけど、キラキラしているところが似ている。
「セシル様、挿絵もあるんですか?」
「もちろんよ。でもその分お値段が高くなってしまったの」
「それは残念ですね」
お高いのは困る。この本ができたら買いたいと思っていたけど買うのは無理かもしれない。
「セシル様、俺この本が初めて作った本だから欲しいです。社員割引をお願いします」
クラウスってばすごい。社員割引をお願いするなんて!
「セシル様、私にもお願いします」
「まあ、二人とも、あなたたちには進呈する予定よ。あなたたちが初めて作った本ですから」
さすがセシルさん。よし頑張って、活字拾いしなきゃ。




