48 活字拾いの少女、商会を立ち上げる?
「シーラ商会を立ち上げます」
突然セシルさんが胸を張って宣言した。
私とクラウスが活字拾いをしている時に、突然の宣言だったので活字拾いをしていた手が止まっていた。
セシルさんが商会を立ち上げるのならわかる。活字工房とはまるで違う職種だから違う商会を立ち上げるのかなとは思った。
でもその商会名に私の名前が入っているのがわからない。そこはセシル商会ではないの?
「聞き間違えたようです。今、シーラ商会って聞こえたですよ」
「聞き間違えではなくてよ、シーラ。ゴムゴムはそこで売ります」
「ええ~~~! どしてシーラ商会を立ち上げるんですか? ガッテン商会がありますよね? ガッテン商会で扱えば良いですよ」
ゴムゴムを自分たちで作らなくても手に入るだけで、私は嬉しいのだ。
「まあ、シーラ商会で売るものは、シーラは作ったものですよ」
「どうしてガッテン商会でやらないのですか?」
「あれはシーラが作ったものでしょう。シーラの名で売るべきものです」
「いえ、あれはヴァンが作ったものですよ。ガッテン商会で取り扱わないのなら商会の名はヴァン商会でお願いします」
厄介ごとの担当はヴァンに任せると決めている。パンツのゴムを売る商会名に自分の名が使われるのは嫌だというのもある。
「ヴァンさんに尋ねたところ、自分は遊んでいただけで、使える物にしたのはシーラだからシーラのものですと言ってました。ですからシーラ商会を立ち上げます」
なんと、ヴァンにはもう話しているらしい。でもそんな話ヴァンはしていなかったんだけどね。面倒ごとから逃げたようにしか見えない。
「でもそれだとセシル様の利益は出ないのではないですか?」
「ふふ、シーラ商会が作るものはガッテン街にある工場で作る。これ以上の利益はありませんわ」
どうやらセシルさんの頭の中では色々と決定しているようだ。
「でも工場なんて作るお金ないですよ」
そんなお金があったら、雇われ従業員なんてしていない。
「工場はもう作っていますわ。ほとんどが手作業で作るものばかりですから、それほど大きな工場でなくて良いので今頃はできているでしょう」
頭の中ではじゃなくて、もう工場も建設されているようだ。セシルさんの仕事が早すぎる。
「待ってください。工場を作るお金はどうされたんですか?」
「私が建て替えています。これは投資です。いずれは返していただきますが、ゴムゴムは需要がありますから、それほど時間はかからないでしょう。そうそう、こちらにサインをお願いしますね」
なんか難しそうなことが書かれた書類を出してきた。なんか紙も上等な紙を使っている。
「ガッテン子爵様が出資してくれたんですか? お会いしたこともないのに出していただくわけにはいかないです」
「私がと言ったでしょ? 私のお小遣いでの投資ですから心配無用です」
「もしかして工場とは名ばかりの小屋ですか?」
「まあ、シーラ。それは冗談ですか? 小屋では大量生産できないではないですか。ガッテン製紙工房の近くに空いている土地があったので、そこに建てましたの。大きさは製紙工房と同じくらいですね」
製紙工場は見たことがある。遠くから見ただけだけど、結構大きな建物だった気がする。
シーラさんはゴムゴムを作るのに大量の水が必要なことから、同じように大量の水を確保するために川の近くに建てた製紙工房を参考にしたようだ。
「でも、でも、私この間王都に引っ越してきたばかりなのに、またガッテン街に引っ越しですか?」
なるほど、クラウスが来たから私はいらなくなったのかも。でも王都にはヴァンもいるし、アレックもいるのにガッテン街に戻りたくないよ。
「まあ、シーラ。商会を立ち上げただけですよ。工房で働く人はもう雇っています。あなたの出番はないですよ。それにシーラの裁縫の腕は並の下です。売り物には向きませんわ」
どうやら商会の名前に私の名が使われるだけで何もしなくて良いみたいだ。
クラウスもホッとしたのか、活字拾いを再開している。
「じゃあ私は何もしなくて良いんですね」
サインをしながら確認しておく。あとでやっぱりゴムゴムを作る方に行けとかって言われると困る。
「あらシーラ。何もしないのはダメですよ。シーラには活字拾いをしていただかないと困りますわ」




