46 活字拾いの少女、組版作業をする
アレックとは妹の縁談の話をした日から会っていない。
そしてローズマリアさんも活字工房に現れなくなった。彼女の手伝いによってだいぶ進んでいた本作りは停滞中だ。これはやはり私だけでは無理だ。活字拾いは自信があるけど、組版作業がが遅いのだ。ローズマリアさんが言うには、
「活字拾いが異常に速いだけで、組版作業が遅いとは思いません。慣れれば私より上手に速くできますわ」
そう言って慰めてくれたけど、この遅々として進まない現状は私を焦らせる。この職場には残業というものは存在しない。すごくホワイトな職場だ。
でも間違ってはいけない。これはガッテン工房がかなり珍しいだけだ。他の職場だとサービス残業は当たり前、見習いだと食事と住居だけ与えて、給料はなく休日もない。それでも働く人は多いのだからすごいよ異世界。
私の前には活字を集めた文選箱が積み上げられている。
ローズマリアさんが来られないということは私がやるしかない。アームカバーをした腕を見て、ため息をつく。
そうこのアームカバーが原因で、セシルさんも最近ここにこなくなってしまったのだ。
「この『ゴムゴムの草』はすごいわ。新しい商売の幕開けよ~」
なんか閃いたみたいで、ゴムゴムの草を冒険者を使って集めているみたい。
新しい商売も良いけど、こっちのことも忘れないでほしい。人手が足りなさすぎる。
「ふ~、仕方ない。やりますか」
黙々と作業を続ける。この「植字」が苦手なのだ。鏡文字になっている活字を集めているのだから同じでしょってローズマリアさんは言うけど、全然違う。
ただ文字を並べれば良いわけではない。余白とか文字がずれないように固定したり、気配りがいるのだ。でもそれをおろそかにすると読みにくい本になるそうなので、適当にってわけにはいかない。
手書きの本も読みやすい本と読みにくい本があるそうで、写本師さんによって違うから人気の写本師さんは高額だとか。これを聞いた私は写本師を目指そうかなってヴァンに言ったんだけど反対された。
「シーラの字は個性的だから、写本には向かないだろ」
ちょっと丸っこいかもしれないけど、読みにくいってことはないと思う。でも個性的と言われると弱い。こちらの人の字とは全然違う。これは本を読むようになって気づいたから、今更直せない。
「それにシーラがやってる活版印刷って、同じ本を何百冊でも印刷できるんだろ。その写本師の職業って廃れていくんじゃないか」
そうだった。印刷が当たり前にあった前世、写本師なんて職業はなかった。いやもしかしたら少しは存在していたのかもしれないけど、私は知らない。
せっかく高い給料をいただける活字拾いって職を得たのだから、首にならないように頑張らないとね。
でもこの職業だっていつまで続けられるかわからない。孤児である私はただ頑張って働くしかないのだ。




