45 活字拾いの少女、アレックの話に怒る
「カーラって、あなたの命を狙ってる人じゃないの?」
「よく覚えてたな。結界魔法のおかげで、命を狙われることはなくなった。まあ油断はしていないさ」
貴族の家は怖い。でもわかる気がする。家を継ぐもの以外は、文官になって官僚を目指すか、武官になって将軍や騎士団長の地位を目指すしかない。自分の子供に継がせたいって気にもなるよね。
「いや、うちは複数の爵位を持っているから、弟にもどれか任せることになる」
「じゃあ別にアレックの命を狙わなくても良くない?」
「そうだよな。私を殺してまで自分の子供に侯爵家を継がせたいっていうのがわからない」
「知らなかったとか? 複数の爵位を持っていることを」
ヴァンがそう指摘すると、アレックが驚いた顔をする。たぶん考えたこともなかったのだろう。
「え? ……それは考えなかったな」
「でも複数の爵位を持ってるとかアレックの家ってすごい貴族なんだね。じゃあローズマリア様も爵位をもらうの?」
「いやローズマリアは嫁に行くから必要ないだろ」
「え? 婚約者でもいるの?」
「いや、いないが」
「じゃあどうして嫁に行くってわかるの?」
なんかアレックの言い方が、嫁に行くことが決まっているような言い方だったから気になったのだ。
「それは父から、王妃様がローズマリアの縁談を考えてくださっているから近いうちに決まると聞いたからだ」
なんと王妃様。王妃様って本当にいるんだね。ローズマリアさんって雲の上の人だったんだ。だって王妃様が縁談を考えてくださるって、これは自分の子供との縁談ってことでしょ。
あれ? この国の王子様って二人いるんだよね。えっと名前はなんだったかな。レオンハルト王子とユリウス王子だ。確か年齢はレオンハルト王子が23歳でユリウス王子が14じゃなくて15歳。確か四ヶ月前が誕生日だったはず。年齢からいってレオンハルト王子だね。それにユリウス王子は王妃様のお子様ではなく、第二夫人の子供だからね。
「ってことはローズマリア様が本を作れるのも今だけってことなのね」
「まあ、そうなるだろうな」
なんだかなぁ。この世界の結婚って、親が決めるのよね。平民でも商人とか裕福なところは親が決めるって話だ。その点、孤児である私には親がいないから勝手に決められることはない。その点だけは誇示で良かったと思う。前世の記憶がある私は勝手に結婚が決められるのは我慢できない。
「アレックは? アレックは結婚しないの? 王妃様から話がないの?」
妹の結婚より先に兄の結婚だろう。
「私は結婚相手は自分で決める」
「ブッ、ブー」
私はペシペシとアレックを叩いた。
「なんだよ、ブーって」
「シーラは怒っている」
ヴァンが私の言いたいことを代弁してくれた。
「なんで?」
「妹の結婚は勝手に決められるのに、兄のお前は自分で決めるのかって怒っているんだよ」
「仕方ないだろ。王妃様に選ばれるってことは名誉なことだ。断れるわけがない。それにレオンハルト様は大変優秀な方だ。誰もが羨む縁談なんだ」
アレックは私たちの方が間違っていると言い張る。
「誰もがって、ローズマリア様も? そこが重要。アレックは妹のためにどうしても家に戻るんだって私たちに言った。だから私たちもアレックに協力した。私は孤児だから血のつながった兄妹の気持ちはわからないけど、それでも兄妹一緒に暮らしたい、妹も継母にいじめられてないか心配だって言うアレックの気持ちに応えた。でも、この縁談をローズマリア様が望んでいないものだったら、それは妹を守っているとは言えない」
「それは……」
アレックも親の決められた婚約者と結婚するというのなら、それが貴族としての当たり前なことなら、仕方ないって思った。でも自分だけ好きな人と結婚するとか言ってるのはダメだよね。
「アレック、妹ときちんと話したらどうだ? まだ妹はその縁談のこと知らないんだろう?」
「ああ、父は驚かせたいって言ってた。私もだが、父も妹が喜ぶって思ってたから」
王子様に求婚されたら誰もが喜ぶとでも? しかもこれは王子様からの求婚とはちょっと違う。
「私もヴァンが言うように話し合った方が良いと思う」
「そうだな。今夜にでも話してみるよ」




